ビートルズ「栄光の陰に隠れがちな名曲」10選(その3)
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https://note.com/kenji_mishima/n/nd47820f36728?sub_rt=share_pw
7.”Dear Prudence" (1968) - Lennon
『ザ・ビートルズ』(The Beatles)、通称『ホワイト・アルバム』収録
発表年の順に並べた都合上7番目に来たが、このDear Prudenceこそが個人的にはビートルズのあらゆる曲の中で最も愛している作品であり、その他の「世の中に存在する無数のアーティストの無数の楽曲の中でも」最も好きな曲である。
なんて大げさな。そこまでか?
この曲を初めて耳にした高校時代からこれまでの人生で40年近く、無数の名曲を聴き、その都度何度も自問自答してきたが、結論は変わらなかった。
自分自身も、そこまでしてこの曲を愛する理由をすべて言語化することはできないが、その一部だけを書くとすれば、おそらく次のようなことだと思う。
第一に、出会ったときの鮮烈な印象。
人は誰でも、ある曲と出会ったときに自身が置かれていた状況と曲とを結びつけて、もしその曲が気に入ったのならば、当時の思い出と1セットで記憶しておく生き物だ。
この曲と出会ったときに僕は昭和の高校球児であり、強い学校でもないのにとにかく野球漬けの毎日で、自宅のラジカセで音楽を聴くことだけが唯一の楽しみだった。そんな中、友だちから借りた『ホワイト・アルバム』をなんとはなしに聴いていたら、一つ前の抜群にノリの良い有名曲(Back in the U.S.S.R.)が飛行機の効果音とともに終わり、クロスフェードするようにしてこの曲の美しいギター・ピッキングが優しく始まったのであった。
そのとき僕の目の前に光が差し込んだ気がしたのだ。
何の光かは判らないが、ぱあっと何かが開けた感じがしたのであった。
それだけで僕は、一気にこの曲のトリコになった。
第二に、ジョン・レノン得意の「同じフレーズの繰り返し麻薬的」な曲の構成。
「とにかく同じことを繰り返す」のに、心を震わされて仕方がない。
当時の僕にはその理由が判らなかった。
唯一判ったのは「繰り返しばかりとはいえ、コード進行が感動的であること」であった。
より具体的な理由は大学の音楽サークルで仲間とさまざまなジャンルの音楽を演奏するようになってから判った。
なぜこんなに心を震わされてしまうのか。
それは、「ともすれば単調になってもおかしくない曲調に少しずつドラマ性をもたらしていく過程」が言葉にできないほどにプロフェッショナルだからである。
うますぎる。かっこよすぎる。そしてオトナだ。決して派手すぎない。
ドラムもギターもベースも各人のコーラスもすべてが最高で、
何だか徐々に何かの高みに向かってせり上がっていくかのよう。
この味わいは、この曲のような本来は単調であったはずの曲調だからこそ感じ取ることができたといってよい。
第三に、終わり方。
鮮烈な光をくれたこの曲は、始まったときと同じように美しいギター・ピッキングのフェードアウトで終わる。
神は信じない僕だが、思わず両手を合わせて「ありがとう」とつぶやいてしまうほどの感動であった。
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