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「ゆび笠」

道具まみれ2
「ゆび笠」

時代劇などのワンシーンで、大きな藁の笠で顔をすっぽりと隠している浪人の姿を見たことがあるだろうか。通称「浪人笠」と呼ばれるその笠は、転じて、子供の生育に合わせて指にかぶせる「ゆび笠」として変化した。
知覚が大きく発達を遂げる5歳までの子どもに、親指から順に小指まで、成長に合わせて指にかぶせるよう藁で組まれた笠である。浪人笠と同様に正面に切れ込みがしてある。日本人は知覚の鋭い幼少期から、「ゆび笠」の隙間を通じて人間の「生」を学び取る。果ては、そこから気温の変化、天候、御御御付の塩加減、お長屋の人間関係まで、細かに感じ取れるようになるという。
日本人の細やかな仕事やモノづくりの原点は、この「ゆび笠」が育んだものといえる。一昔前までであれば、職人が仕事にとりかかる前に「ゆび笠」に指を通して、肌感覚のチューニングを行う姿がよく見られていた。お札を数える際に指をなめる人がいるが、あれはお札の数え間違えがないように、なめた指を風に当ててひんやりさせることで、「ゆび笠」で覚えた鋭い感覚を取り戻すために行っているのである。

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