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日本一おいしいたこ焼き―食は人を救うという話
「毎日、毎日、電柱の話ばっかりだよ」
電柱のように体をピンと伸ばしてつぶやいた僕を見て、妻は声をあげて笑った。しかし、当の僕にはとても笑い事ではなかった。
その頃、僕は仕事で精神的に追い詰められていた。インフラ整備や建築物の計画を立てる。いわゆる都市再開発というやつだ。そのなかの小さな一区画だが初めて一人で任された責任のある仕事。うまくいかないことばかりだった。
だが、泣き言など言っていられない。職場が同じ妻とはどうしても仕事の話は避けられないが、苦労しているなんて顔は見せないように頑張っていた。
そんなある土曜の朝。妻が僕を誘ったのだ。
「たこ焼き、食べに行こうよ」
目的地もわからぬまま僕は促されるまま家を出た。駅に着くと妻は新幹線の表示がある券売機に駆け寄って行った。そして、大阪行きの乗車券を2枚握りしめて戻って来たのだった。
「日本一おいしいたこ焼きを食べに行くよ」
日本一おいしいたこ焼き――いったい妻は何を考えているのだろう。明るく笑う妻の顔を見てそう思った。昔はこうした無邪気なところに惹かれたものだが、今は少し五月蝿く感じてしまう。だが、ここは妻にサービスするつもりで大阪まで付き合うことにした。
妻が連れてきたのは、たこ焼き屋というより立ち飲み屋のような作りで、いかにも時代を感じさせる店だった。話を聞くと、友人にとてもおいしいたこ焼き屋があると聞いたという。
専門店らしく、ソースとマヨネーズをかけたもの以外にも、出汁醤油やいろいろなトッピングを乗せたたこ焼きがあるらしい。
席についてたこ焼き2人前を注文する。一つはソースとマヨネーズ、そしてもう一つは刻みネギをたっぷりかけた出汁醤油のたこ焼きだ。
いかにもできたてという、湯気が立ち上るたこ焼きが運ばれてくる。妻はもうウキウキしすぎて今にも椅子から飛び上がりそうである。こんなに喜んでるなら付き合ったかいがあるものだなどと思いながらたこ焼きを口に運ぶ。
「うわ、美味しい」
表面はカリカリで中はトロっとして、これまで僕が食べたことのあるたこ焼きとは全然違う。熱々のたこ焼きをハフハフしながら2個3個と夢中で口に運ぶ。美味しい。ただただ美味しかった。
「美味しい?」
そう話しかけてきた妻を見ると、楽しみにしていたはずのたこ焼きには口をつけず、僕の方をじっと見ていた。そうか、わかっていたんだな。
「うん、美味しい」
そう言って僕は妻の分も平らげてしまった皿を見ながら、新しいたこ焼きを注文した。明日からも頑張ろう。そう思った。
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