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突然変異の兆し、西の山と谷 新人時代2

リュウというキャラクターはこの時点で3人目であった

前の項で闘いの挽歌の主人公がリュウというキャラクターであったという事に少し触れた。ストリートファイターのリュウは3人目のカプコンのキャラクターだ。2番目はアーケードのアクションゲーム、必殺無頼拳(87)というゲームの主人公にリュウというキャラがいた。ストリートファイタープレイヤーであればなにやら聴き覚えのある響きであろう。ここから数年後、ストリートファイターシリーズのレギュラーとなるダンというキャラクターの奥義で<必勝無頼拳>というものがある。ダンは毎作品、意図的に最弱クラスに設定されているギャグキャラのようなものなのだが、実は掘り下げると沢山の面白いストーリーを持っているのでこれは是非、別の機会に紹介したい。2代目のリュウが活躍する必殺無頼拳についてはあまり知識を持ち合わせていないが、調べると世界観は闘いの挽歌、縦スクロールのアクションゲームである事が分かった。1人目、2人目は<ケンシロウ風のリュウ>、3人目は<ベストキッドのダニエルさん風>のリュウとなったわけだ。クンフー、カラテといったこの時代にはやや前時代的になりつつあった流派の主人公、ケンシロウとリュウの2人。漫画もゲームも舞台が中国から、荒廃した現代建築の街へ流行が移っていっても彼らの造形は変わらずに人気であり、今では苔むしている程に不変のオリジナリティとなっている。ただ、この<元祖>の時点ではあまり細かなストーリー設定はまだされていない。主人公は隆(リュウ)と拳(ケン)となっており、ケンはまだ日本人の設定であった可能性がある。拳がケン・マスターズというアメリカ人の御曹司という設定になったのは2からのようだ。隆(リュウ)の文字はデザイナーの西山隆志の名前からの由来だ。

西の山と谷より来たりし創造主


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左、<元祖>の生みの親、西山隆志(にしやまたかし)。

右、<2>の生みの親、西谷亮(にしたにあきら)。

いよいよe-sportsとしての格闘ゲームの生みの親が世に現れる。この両名、名前を覚えておくとこれから語る歴史がさらに面白くなるので覚えておいて損はない。コツはどちらも始まりが西で、それぞれ山と谷である事。なので、<西の山と谷より来たりし創造主>と覚えるとより当人への神性が増した感じになって憶えやすい。そして、それぞれの代表作を調べると意外な事実が明らかになった。

西山隆志(にしやま たかし)〜

スパルタンx、元祖ストリートファイター、SNK移籍→餓狼伝説(91)、龍虎の拳(92)、株式会社ディンプス代表(00、ゲーム開発・制作会社)→ストリートファイター4(08)、ストリートファイター5(16)

太字部分については、自分も調べるまで知らなかったのだが、これを知るとのちに起こる<キャラデザインのパクリ問題>、ダンというキャラクターの起源についてもより味わい深い理解ができるのではないかと思う。そして、今現在の最新作の制作にも関わっているというのは驚きだ。

西谷亮(にしたに あきら)〜

ロストワールド(88)、マッドギア(89)、ファイナルファイト(89)ストリートファイターII(91)、X-MEN Children of The Atom(94)、株式会社アームテック設立(ゲーム制作会社、現ARIKA)→ストリートファイターEX(96)、超ドラゴンボールZ(05)、ファイティングEXレイヤー(18)

太字のファイナルファイトがこの時代に出された作品として該当する。これは前時代のベルトスクロールアクションの進化系であり、スト2と世界観の共有をしている兄貴的作品である。これ以前のアクションゲームと比較して<ファイナルファイト>の何が新しく、スト2にどのようにして繋がっていくのかをここで説明する前に、このゲームが発売された89年という年について少しだけ触れる。

昭和天皇崩御、三島財閥のモデルは三菱なのか?ベルリンの壁崩壊

ファイナルファイトの発売は89年の12月だ。昭和天皇崩御という大葬儀で幕を開けた年なのだが、庶民の生活にバブル好景気の実感が始まったのもこの頃だとも言われる。崩御後、テレビが全て同じ内容の放送を24時間し続ける事態が一週間ほど続いたような気がする。レンタルビデオ屋はほぼ全ての商品が借りられていた。この年の10月にあの<ロックフェラーセンタービル>14棟を三菱が買収した(そのうち12棟は95年に売却されて現在は2棟のみ所持)。この事件はアメリカ国民の反感を買い、エコノミックアニマルズ云々と沢山の日本バッシングワードが開発された。そのぐらい日本が<チョづいていた>時期という事なのだが、この話はどこか鉄拳シリーズの<G社と三島財閥の争い>のストーリーを思わせる。三菱がロックフェラーセンターを買い取った1ヶ月後、ベルリンの壁は崩壊した。そのまた1ヶ月後の12月14日、ファイナルファイトの3人は荒廃したメトロシティで武器を片手に暴れ始めた。二日後の12月16日にはルーマニアで革命が始まる。冷戦が終わって、日本がバブルの絶頂期を迎えた89年の暮れ、ファイナルファイトはスト2が出る前のゲームセンターで爆発的なブームを起こしていた。


ストリートファイター’89という仮題で製作されたファイナルファイト

既に説明したようにファイナルファイトはベルトスクロールのアクションゲームだ。しかしタイトルにあるようにこのゲームは元々、<元祖>の続編の予定で製作されたゲームであり、ストリートファイトをテーマにした作品という面で格闘ゲームの祖先なのだ。簡単にはスト2と世界観を共有している事も当然理由に挙げられるが、それ以外にも、ここで生まれた沢山の<気持ち良い部分>が後のスト2にも引き継がれている。ゲーム性としては攻撃とジャンプの2ボタン、同時押しでちょっと体力を消費して無敵必殺技が出る(以後の格ゲーに登場するファイナルファイトのキャラがそう言った技を引き継いでいる)。そして相手に触れると掴めるというのがあった。新しい要素は掴みぐらいに見えるのだがこの投げ技達、特にハガー市長のものは物凄い迫力があった。キャラ毎に迫力のある投げ技はスト2にも引き継がれた。

ゲームセンターの外から誘うハガー市長の声の思い出

ある日、ゲームセンターの近くを通るとおっさんの声が聴こえて来た。

「ウォーぉぉー!うーぃよ!でぁー!」

と、何とも独特で興味をそそられる声に混じって迫力のある効果音も聴こえてくる。見にいってみると上半身裸にサスペンダーの髭おじさんが暴れていた。絶対に<ヘンタイの敵>だと思ったら主人公だった。あろう事か、しかも市長らしい……。多分アクションゲームで初めてのプレイアブル市長だ(でも2人目も多分スト5のコーディ(2018年登場)な気もする)。「かなりシュワルツェネッガー感あるな」と、一気に俺はハガー市長を好きになった。しかも全部で3人いて(コーディ・ハガー市長・ガイ)、それぞれが喋る!我が家は男3人兄弟(俺は末っ子)だったのだが、この仕様だと兄達の独断でそれぞれのプレイキャラ担当が決まってしまう伝統があった。担当が決まると、奴らのいる前ではそれ以外のキャラを使う事は何となく謀反とみなされたのだ。しかも俺は末っ子なので大抵ゲーセンでは奴らが一緒だった。それぞれを重ね合わせたいらしい事は伺えたのだが(じつにくだらない……)、その伝統でいくと末っ子の自分に一番年上のハガー市長の担当が当選するとは到底想像出来なくて絶望しかけていた。が、意外な事に

長男がガイ(スニーカーが好きな割に横文字嫌いの在米日本人Ninja)、

次男がコーディ(白いTシャツにジーパンという非常に無個性な格好をしたアメリカ人でメインの主人公)をチョイスした事によって

奇跡的に自分がハガー市長(プロレス技を操る上半身裸のサスペンダー姿でさらわれた娘を助けにいく筋肉市長)の担当にあやかる事が出来た。兄達がハガーを選ばなかった理由は、「必殺技のダブルラリアットが駄々っ子ぽくてちょっとダサい」というものだった……。でもハガーは唯一、敵を掴んだまま歩いたり、ゲーム中最高の破壊力を誇るド迫力のパイルドライバーが使えた。これはザンギエフのスクリューパイルドライバーの原型だ。

さらわれた娘のブラジャー姿と「でやぁー!!」の集客力

<元祖>の時代までのアクションゲームはプレイできるキャラは1、ないし実質1(ほぼデザイン違いの2キャラ)が主流であったが、ファイナルファイトを皮切りに3キャラ、4キャラと使用出来るアクションゲームがあちこちで出てくるようになる。ストーリーは大体がさらわれた女を救いに行くついでに悪のシンジケートを壊滅させに行くというものだった。ファイナルファイトはそれらの走りであったが、その後に量産されたハリボテのようアクションゲーム(動きがカクカク、音もペラペラなのに雑誌の見栄えだけは良い)達には、どうやっても結局真似できなかった要素の一つが音だ。当時の他のアーケードゲームに比べて抜群に重い、迫力のある音は没入感も集客力もあった。そして、当時これだけ流暢にしゃべる筐体はワニワニパニックとジャンケンのゲームぐらいのもので、ゲームセンターの中では小型とされるアーケード筐体から様々な人種の叫び声が出ているのは物凄い驚きであった。さらには効果音、パンチを空振りしても「ブン!!」と迫力の音が鳴る。ボタンを押すと何かしらの音が出てくれるのはお得感がある。あとはキャラクター達が一般人達であるのも当時は大人っぽく見えた。それまでのゲームはファンタジー風の世界の中に3頭身ぐらいのキャラがほとんどだったのだが、ファイナルファイトはアメリカの犯罪都市が舞台でキャラは8頭身だった。これらの要素は当然人を呼ぶし、見ていても楽しいので周りにギャラリーが出来た。そしてその声の正体が<半裸の中年市長>から発せられるものだと知った時は、レントゲンのように骨が透けるほどの驚きだった。

あとはこのゲームのオープニングムービーも忘れてはならない。誘拐されたハガーの娘のジェシカが下着姿で画面に現れると、誰もゲームをしていない筐体に大人のギャラリーが出来た。そこでゲームをやろうとすると「ちょっと!一瞬だけ待って!!!」と、止められた事が何度かある。てっきり順番抜かしをされるのかと思っていたが、それらの大人達はジェシカの姿を確認すると「あ!もう良いよ!!」とご機嫌そうにゲームを許可してくれた。当時はこれの意味も分からなかったし、移植作品ではジェシカが赤いドレス姿に変更されてる意味も全然分からなかった。とにかくこのゲームの周りには他よりも大人っぽい男の客が沢山いた印象がある。

3人は一体どんな親友なのかと思えば…

それまで、「3人組と言ったら大抵は黒髪と金髪の男に赤い服の女と相場が決まっているのか。」と子供ながらにぼんやり感じていた。そして、「末っ子の俺はいつも赤い服の女か……」と自分の運命を嘆いていた矢先、いきなり<赤い服の女>の代わりに<半裸の中年市長>が入って来た。しかも豪快なプロレス技を使う(プロレスも流行っていた)。今では一部とても嫌われる筋肉信仰の象徴のようにも見えるが、まさに時代は筋肉真っ盛りだったのだ。「古くさい筋肉信仰の話になど興味がない」と思ったそこのあなたでもつい笑って許してしまいそうなエピソードがある。この主人公3人の関係性についてである。大まかにファイナルファイトのストーリーを説明すると、

巨大な暴力組織マッドギア に乗っ取られた超犯罪都市メトロシティ。娘をさらわれたマイク・ハガー市長自ら片腕に鉄パイプと、それからコーディ(ナイフ)、ガイ(日本刀)の3人でマッドギア の本拠地に乗り込む。

というものだ(本当に3行で説明できるストーリー)。これだけ物騒なものを片手に乗り込むんだ、当然相手も自分もただでは済まない覚悟だろう。しかもこの3人は女1人のために100人以上を殺るつもりでいる。さぞや固い、古い絆でつながっているのだと想像する。だが意外な事に3人の関係はスポーツジムの仲間……であった……。ハガーが親父でコーディーは娘(ジェシカ)の幼馴染みというのはまぁ良い。だがこのガイという在米日本人Ninjaは完全に部外者の純粋ジム友なのだ!この清々しいまでの筋肉への固執感と、軽い関係性にはユーモラスな明るいものすら感じる。<スト2の原型はメトロシティのスポーツジムの3人の会員から始まった>と書くと秘密結社っぽくて良い。

ちなみにエンディングは、「俺は普通の人生を生きられないヤツなんだ…」と言ってコーディがジェシカを置いて立ち去ろうとするところを、すかさず<ジム友のNinja>ガイがコーディをボコって気を失わせ、その場にプレゼントとして置いて行くというものだった。しかし、その後コーディは喧嘩にあけくれて刑務所に入れられてしまうのだが……。

→いよいよ伝説のムー、アトランティス時代の幕開けだ!もっと長くなるな…。


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