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勝手に新人時代をやり始めた元祖ストリートファイター(格闘ゲームの新人時代1)

あまり語られない偉大なる元祖ストリートファイター(87)

いうまでもない事だが、ストリートファイターシリーズを世に広めたのは2であり、元祖の事はあまり語られる事はない。ましてや、その当時のゲームセンターでそれがどんな存在であったのかを記憶していて、それを語っている人は非常に少ないのではないかと見ている。まず時代が世紀末ベルトスクロールアクションを量産する傾向を強める中、二人対戦で新しい要素を持ってきたアクションゲームは元祖ストリートファイターぐらいしか思い当たらない。新人時代の作品として純粋に自分がカテゴライズ出来る作品はこの一本ぐらいだ。PCエンジンで88年にファイティングストリートという名前で発売されている。アメリカでの商標登録の問題でそのように名前は変わったらしいが、とても出来の良い移植版であった。時代も87年と、前時代で書いたバブルと同時期になるので、少しじっくりこの作品周辺の事を語ってみようと思う。朧げであるが、幼稚園あたりの子供であった自分は実は結構この時の事を映像として記憶している。一つの文献の足しにでもなれば幸いだ。恐らく2回に分けて書く事になるが、初回の今回は主に元祖ストリートファイターの何が当時の他のアクションと比べて画期的であったかを見ていこうと思う。

これまでの一対一の対戦ゲームの中で恐らく一番操作キャラが大きい

単純な話、他のゲームよりキャラがデカいと当時ちょっと得した気になった。全てのステージが、これまでのアクションで言うボス戦のような個性を持っていたというのもワクワクさせた。個人的に子供の頃にアクションゲームをやっていた主な動機は、<どんな凄い奴が出てくるのかを見たい>という好奇心が全てであり、その意味においてこのデザインは非常に刺激的であった。全部で10ステージ、日本、アメリカ、中国、イギリス、タイの5カ国のステージが用意されている。当時は冷戦中だったせいか、ロシアの選手は参加していない。ここで出てきた主人公の赤毛のカラテカ、リュウはどう見てもベストキッド 風だ(2が86年に公開されている)。これがかめはめ波を片手に世界の武闘家やゴロツキと闘う旅に出る。この姿は漫画の世界で、その時代の移り変わりを象徴していたケンシロウに重なる。

キャラがたまに喋る

これも本当にびっくりした。幼い頃の自分にとってはここが重要であったのだが、コマンドを入れるとキャラが喋ったのだ……。筐体から声が出るゲームはこれが初めてではないのだが、自分の意志で喋らせる事ができるというのはかなりの衝撃であった。初めてそれをゲームセンターで目にした時、子供ながら「そんなはずはない……」と、夢の記憶フォルダにその事実を分類しかけていた。だがある日、「あのゲーム、たまに喋ってるぜ……。」と兄に教えられて目眩をおぼえた。「しかも英語も聞こえるらしいぜ。」と続けられた時には、「またコイツは俺を新しい嘘の実験台にしているな……」と半分信じていなかった。こういった無駄な嘘のつきあいは幼少期の兄弟間では日常茶飯事だからだ。残念ながら自分は当時、一度もこれらの技を出すことは叶わなかったが、この<喋らせる楽しみ>は以後のゲームに引き継がれた。幼い末っ子の自分からすると、<数少ない、自分のいう事を聞いてくれるペット>のような対象としてこの演出が映っていたフシがある。

現代にも受け継がれ続けているコマンド技達

84年にデータイーストから発売された空手道というゲームがある。コマンド技の元祖という点で言うとこちらが先になる。だが、元祖ストリートファイターは、2021年現在まで格ゲーの基本、いわば<3種の神技>と言って良い3つの発明をした。波動拳(飛び道具)、昇竜拳(無敵対空技)、竜巻旋風脚(突進技)。この3つの技は格闘ゲームという一大文明を築き、今日まで引っ張ってきた。3D格ゲーであろうがなんであろうが、波動拳コマンド(↓↘︎→+ボタン)をゲーム中に採用していない格闘ゲームは恐らく皆無であろう。そして今と変わらないコマンドながらも入力受付の難易度は作品中最高である。非常に出ずらいながら出せた時のご褒美も歴史上最高である。どれも出せれば相手の体力3分の1は減る。昇竜拳を至近距離で当てれば連続ヒットして即KOになったりする。つまり「このコツさえ掴めばあなたは100円で人より長く遊べますよ。」という事でモロにお得感が有る(このスピリットは4年後、元祖餓狼伝説が受け継いだ)。現在では比べ物にならないほど出しやすくなったこの3つのコマンド技の歴史は、既に34年もあるのだという事を強調したい。

神の遺伝子操作で生まれた怪物達、ミノタウロス、ケンタウロス、サイクロプス、アップライト筐体……

よく、神話や都市伝説などで<人間は神(宇宙人)の遺伝子操作によって作られたもので、その途上でいくつかの失敗作として怪物のようなものが生まれた。>という話がある。神話で語られる怪物達は、そのようにしてある時期までは存在していたが、その後繁栄できなかったというものだ。元祖ストリートファイターの<アップライト筐体>というものがあるのだが、これはまさしく偉大な進化の実験の中で生み出された怪物のようなものだ。腕相撲の台を思わせるような背の高めの筐体で、レバーの横にはモグラ叩きを思わせる拳大のゴムのボタンが二つ付いている。ボタンを押すというよりは叩く強さによって、弱中強の攻撃が使い分けらえれるというものだった。この当時のアイデアという面でいくと今考えても本当にスゴい。なのだが、ここから現在まで繁栄し続けているレバー+6ボタン方式の筐体に対し(このボタンの多さが当時他にない要素だ)、このアップライト筐体には残念ながら子孫繁栄能力が育たなかった。この時開発された弱中強パンチキック6ボタンは34年(!?)たった現在でも基本として使われ続けている。そして、これ以降進化してきたゲームハードのコントローラーのボタン数を考える上でも影響を与え続けていると言っても過言ではないと思う。しかし、この6ボタンを文明としてゲーム業界に定着させたのはその後出たスト2の功績だと思うのでこれについては後述する。この時、2種類の筐体を出す事で<どちらのボタンが押してい爽快感を満たしてくれるか>の統計を既にとっていたのだと思うが、これに着目していたのは次作で一気にヒットを飛ばした大きな要因だと言えそうだ。この、爽快感という部分をここからのカプコンが非常に重要視している事は明白である。

では、なぜアップライト筐体には子孫が出来なかったのか。まず簡単に、スペースの問題と筐体の互換性のなさがゲームセンター側としては不都合であったと言う事が予想できる。特殊な筐体であるため場所も取るし、他のゲームで使えないようではゲームセンター側からすると買いずらいだろう。しかしそれ以上に出来の面で色々とバランスが悪すぎた。難しすぎるのだ!!まず、レバー入力のシビアなところにボタンで弱中強はいくらなんでもハードルが高すぎた。強は良い、誰でも分かる。壊れない程度の力を込めて叩けば良いと誰でもわかる。弱もまぁ良い、ちょっと触れれば良いんだと想像つく。でも中はいくらなんでも面倒臭い(多分これもみんな想像つくよね?)。この作りは恐らく、ツッパリ(当時人気だった不良の1つの系譜)達に人気であったパンチングマシーンとの融合を狙ったのだと思うが、これはあまりにも操作性が悪かった。普通の人はいきなり「中ぐらいの力で叩け」などと言われても無理なのだ。しかも、「叩けるのであれば時間内たくさん強く叩いた方がお得感がある」とする層ばかりが寄ってくるだけだ。実際にそのせいで実はこのゲームをプレイできるチャンスは稀であった。

当時はまだゲームセンターは危ないところ、不良の溜まり場であった。元祖のアップライト筐体はあってもゲームセンターに一台がいいところであったが、その周りにはかなりの割合でツッパリがたむろしていたのだ。ボタンが3つの強度を感知するなどという事は彼らにはどうでも良く、ミノタウロスのごとくボタンをただ叩き続けているだけであった。恐らく、強く叩けば叩くほど良いと勘違いしていたのであろう。ただ、この筐体はデザインからしてアメリカのゲームっぽくてなんかかっこいい感じがした。それもそのはず、この筐体を作ったのはアメリカのアタリ社だった。でも、こう言った諸々の理由で子孫繁栄能力を持たない伝説の筐体となった。大抵神話でもそういう奴はデカくてかっこいい。アップライト筐体には今はそんなロマンチックな印象を持っている。

→新人時代2へと続く




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