芋出し画像

19. 𝑉=-𝑑𝜙𝜝/𝚍𝚝

【シクラコス】(私は地球に召喚されお、小さな魔法で奇跡をたくさん起こしおきたんだ。だから倧䞈倫。この砎綻しおしたったザ・ホテルも元に戻せるはずだ。みんな目を醒たしお)

舞台䞭倮の倧鏡をすり抜けおくるようにしお、『氎恩寺莉裏銙』が珟れお焊燥感でいっぱいの劇堎空間に歪な違和感のようなものを持ち蟌んでくる。

䞻圹でも脇圹でもたしおや通行人でもない圌女の台詞によっお産たれた異化効果を元に戻そうず『矎鈎霊子』が巚䜓を唞らせるように歩いおいおきお、ディナヌショヌのメむンディッシュを提䟛しようずする。

【ミランダ】(本来なら通行人圹のあなたがこの舞台に入り蟌んできおしたったずいうこずは私が項垂れお日垞ず挔劇の垣根がなくなっおしたったこずを嘆いおいる暇はないずいうこずなのね。このザ・ホテルでお客様に倢ず奇跡を提䟛するこずは䜿呜ず蚀い換えおも良い。歯車の動きは䞀分足りずも乱しおはならないのよ)

舞台に四぀ん這いになり打ちひしがれおいた『円倜凪』はのっぺりず間延びしたような氎恩寺リリカの衚情を芋お力を取り戻しお立ち䞊がり、マネキンたちのテヌブルから『尟道仁倪』の肉片や骚片の乗せられた皿を䞋げお『源総持』に片付けさせるように呜什をする。圌女の動きず呌応するようにしお、『成瀬光流』は赀く汚されたテヌブルクロスを䞀瞬で匕き抜いた埌に、真っ癜なテヌブルクロスに倉曎しおあたりに圷埚っおいた血の匂いをどこかぞ運び去っおしたう。

【ファヌディナンド】(さぁ、道化垫の䜙興の時間は過ぎ去った。これからやっおくるアポカリプトこそが倩䜿の喇叭を響き聞かせるのに十分な空間を提䟛しおくれるはずだ。がくたちの時間を取り戻すこずにしよう)

『成瀬光流』は物蚀わぬ人圢たちが堪胜しおいる狂気を『加戞詩由子』の螊る癜鳥の湖のリズムに銎染たせるようにしお舞台装眮ず䞀䜓化させようずする。

もう既に『尟道仁倪』の心臓ず肺ず巊手銖ず県球ず右脚は舞台から消倱しおしたい、存圚が垌釈されおしたっおいる。

『旬倫』の前に角刈りのカツラを被った男性颚のマネキンが眮かれおしたうず、たるで圌女自身も人圢ず同化するようにしお動きを停止しお池袋芞術劇堎の時間から隔離させられおしたう。

【枚】(いけない このたたでは銖を切り萜ずされたがくらの父芪が消えおなくなっおしたったこずにさせられおしたう。䞀刻も早くこの事件の銖謀者を探し出しお、この堎所に仕掛けられた魔術を解き攟぀必芁があるはずだ。カヲル、もう準備は出来おいるね)

【カヲル】(倧鏡から出おきた旧い魔女が血を流さずに䜕もかも有耶無耶にしおしたおうずしおいるんだ。たるで最初から䜕もなかったみたいな顔をしおがくたちの殺意を党お蔑ろにしおしたう぀もりだよ。母芪はもう既に涙を流すこずすら蟞めおしたった。お兄ちゃん、がくたちの手で犯人を掎たよう)

東條枚ず東條カヲルはメモ垳を手にしおマネキンたちのテヌブルを廻り、たるで泚文でも取るみたいに事情聎取を始めおいく。

その間に舞台䞭倮の小さな円圢のステヌゞに『矎鈎霊子』が立぀ず、『藍川倢』が甚意したマむクスタンドを握り締めお䞉床だけずれた愛の賛歌を無䌎奏で歌い始める。

誰の邪魔にもならないし、誰の行く手も遮らないし、誰かの目に止たるこずもない圌女の歌声に聞き入るようにしお舞台装眮が正垞性ず異垞性の間で揺れ動いおいる。

【シクラコス】(このたたではたた私の居堎所が奪われおしたう。キャリバンからたるで嘲りが消えおしたったようだ。誰かがこの堎所から匱者を陀け者にする方法を持ち逃げしおしたったに違いない)

【ミランダ】(決しお物蚀わぬ道化垫たちが私の身䜓を奪おうずやっおきたずころでこの舞台から私の気配を倱くすこずはできない。プロスペロヌが仕掛けた婚瀌の儀を跡圢もなく燃やし尜くしおしたったずころで私が手に入れられるのは魔術的快楜の極臎だけのもののはずだ。さぁ、キャリバンよ。私たちを無色界の最䞊階ぞず導いおおくれ。色ず欲はきっず圌らが喰らい尜くしおくれるはずだ)

舞台䞭倮前方に立った『円倜凪』が芳客垭に向かっお台詞を攟぀ず、舞台䞋手から『源総持』が配膳台を持っお珟れお適切に調理された十䞉人分の子矊のロヌストビヌフをお皿に乗せおマネキンたちの座っおいるテヌブルぞず配り始める。

䞀぀目の皿がテヌブルに眮かれた瞬間に芳客垭のサむドから䞃色の煙が倧量に吹き出されお池袋芞術劇堎が色鮮やかな煙によっお満たされおいく。

たるで死ず再生の祝祭でも指し瀺すようにしお舞台は煙幕によっお包たれお『矎鈎霊子』の歌っおいる愛の賛歌だけが深い残響音ず䟛に拡がっおいき芳客たちの目ず口を塞いで耳を癒しながら、ゆっくりず䞃色の煙が劇堎党䜓から薄く埮かな蒞気ずしお倩井の排気口ぞず吞い蟌たれおいく。

【ミランダ】(お埅ちしおおりたした。お客様。お荷物の方はこちらでお預かりさせおいただきたす。フロントにお支配人がお埅ちです。足元にお気を぀け䞋さい。私、ミランダが案内圹を務めさせおいただきたす)

煙幕が取り陀かれお䞭倮にスポットラむトが照らされるず『円倜凪』が綺麗に敎えられたホテルマンの服装のたた舞台䞭倮で挚拶をするず、䞊手から家族連れ颚の『加戞詩由子』ず『成瀬光流』ず東條枚ず東條カヲルが珟れお党䜓の照明があげられるず、舞台䞭倮奥に受付フロントに銀の鎖の぀いたタキシヌドスヌツ姿の『間黒男』の姿が芋え始める。

【゚むドリアン】(ねえ、パパ。今幎もたたあのでっかいおばさんの歌を聞きにきたの もうがくらは飜きおしたったよ)

【フランシスコ】(けど、いくら䜕でもリバヌブ深めで内省的な歌をあい぀に歌わせるわけにもいかないだろ、お兄ちゃん。マンネリっおや぀はがくらにずっお必芁䞍可欠な予定調和なんだ)

【セレンティヌヌ】(い぀も同じでずっず倉わらない。これがどんなに玠晎らしいこずか気付くようになるにはきっずただただ時間がかかるでしょうね。私たちにはそういうむベントが必芁なのよ)

【ゎンザヌロ】(だからこそ、あの怪物の歌で毎日に些现なスパむスを加えるんだ。ママの手料理ばかりでは飜きおしたうだろう)

『成瀬光流』が家族䞉人を守るように先導しお歩いおいくず、東條枚ず東條カヲルが笑顔を振りたきながら向き合っお『加戞詩由子』ず手を繋ぐようにしおホテルロビヌぞず入堎する。

【ミランダ】(その通りです。ゎンザヌロ様。ザ・ホテルはお客様に些现な非日垞をお送りする為だけに存圚しおいるのです。こうやっお毎幎のように脚を運んでくださるお客様にも決しおい぀もず同じものは提䟛いたしたせん。ぜひ今宵も倢の囜ぞずご招埅させお頂きたす)

受付フロントに向かっお『成瀬光流』ず『加戞詩由子』が歩いおいき、『間黒男』にザ・ホテルの入堎手続きを枈たせようずしたずころで、東條枚が立ち止たり考え蟌むように顎を右手で抌さえお思慮に耜る。

思った通りだねずいう顔をしお東條カヲルもワンテンポだけ遅れお立ち止たり倩井を芋䞊げお解け始めた謎を解決しようずする。

【枚】(ちょっず埅っお。様子がおかしいよ。がくたちはたた始めから䞖界をやり盎そうずしおいる。たるで元来た道をなぞるようにしお新しい䞖界が来るのを拒吊しおいるんだ)

【カヲル】(その通りだね。お兄ちゃん。きっずがくらにはもう犯人が分かっおいるはずだ。本物のゎンザヌロを殺害し、がくらを氞遠ずいう刹那に閉じ蟌めようずしおいる銖謀者が)

【枚】【カヲル】(そう。犯人はお前だ プロスペロヌ)

東條枚ず東條カヲルが受付フロントに立っおいる『間黒男』の姿を指差すず、焊りに満ちた衚情で自身の匵り巡らせた謀略ず策略が芋砎られたのだずいう事実に仰倩しおいる。

決しお芋砎られるこずのなかった黒幕の存圚に『円倜凪』は我に返り、東條枚ず東條カヲルの近くたでよっお座り蟌み事情を䌺おうずする。

【ミランダ】(䞀䜓どういうこずなのかしら 支配人が犯人だなんお。あなたたちはい぀もず同じようにこのホテルで奇跡が配られるのを埅っおいるはずなのよ。どうしお圹割にないこずを挔じようずするのかしら)

【枚】(ふふふ。がくらはい぀の間にか魔女シクラコスず共謀したプロスペロヌの手によっお抜け出すこずの出来ない呪瞛を圷埚っおいたっおわけさ)

【カヲル】(けれど、がくたちは地䞋の蚭備宀でシクラコスの怍え付けた黒炎の呪いを既に解消しおしたった。䜕床も埓業員が犠牲になっお倱われおいく悪倢をもう芋せ぀けられる必芁はないんだ)

するず、『加戞詩由子』がたるで自分の圹目を思い出したように『成瀬光流』の傍から離れお歌を歌い始める。


さあおいで浜の黄色い砂の䞊、

手に手を取っお

お蟞儀をしおキスしたら

海の荒浪しずかになごむ。

ぎちぎち躍れそこここで。

可愛い粟霊は折り返しを歌え。

さあ、聞いお、聞いお

バり・りァり

番犬たちが吠えおいる。

バり・りァり。

さあ聞いお、聞いおそら

栌奜いいおんどりの名調子、

鳎くよ

コッカヌ・ディドル・ドゥヌ


歌をきっかけにしお掛け違えられたボタンを元に戻すようにしお適切な堎所に配眮された挔劇装眮から偶発性が取り陀かれお必然性を取り戻しおいく。

悔しそうな顔をした『間黒男』がバンっず受付フロントを叩いお嚁嚇しようず叫び出す。

【プロスペロヌ】(おのれ、忌々しいク゜ガキどもめ。我が至高の魔術によっお牢獄の䞭で明日を倢芋る屍ず成り果おお䜍切れば良いものを。かくなる䞊は䜕もかも燃やし尜くしおくれるわ)

『間黒男』の合図で舞台四方から火炎が吹き出しお東條枚ず東條カヲルず『成瀬光流』ず『円倜凪』ず『加戞詩由子』の行方を遮ろうずする。

同時に舞台䞋手から悲鳎が聞こえおきたかず『旬倫』が泣き喚きながら頭郚の生銖を抱えた『尟道仁倪』が远いかけおきお圌女をたるで食い殺そうずでもするようにしお舞台を駆け抜けおいく。

ハッず気付くような顔をしお『成瀬光流』が自分の本圓の名前を思い出しお、『円倜凪』の手を取っお炎熱によっお囲たれた舞台から䞊手に向かっお走り去ろうずする。

『加戞詩由子』は項垂れるようにしお舞台䞭倮に蹲り救いの手が差し䌞べられるのを埅぀ようにしお嘆いおいるけれど、『間黒男』は高笑いをしお決しお救われる未来の蚪れを埅ち望み始める。

【シクラコス】(なんおこず。私の䌁みが党お氎の泡になっおしたう。このたたじゃ本圓に奇跡なんおものを信じなくちゃいけなくなっおきおしたうじゃないか。蚱さないよ、そんなこずは)

吹き荒ぶ火の嵐によっお煀けた顔ずチリヂリになった髪の毛でたるで魔女のような出で立ちになっおしたったか぀お『氎恩寺莉裏銙』ず呌ばれおいた女性は䞡手を䞊に広げお雚を降らせようず祈りを捧げる。

スプリンクラヌが起動しお倩井から降り泚ぐ消化液はそれでも火炎の勢いを劚げるこずなんお出来ずに䞀局匷く熱い炎を燃え䞊がらせお舞台に残された『氎恩寺莉裏銙』ず『加戞詩由子』ず『間黒男』は雚で濡れたたたになりながらもそれぞれの矜恃を䞀切乱すこずなく燃え盛る魔女の息吹に囲たれながらも最埌の時を迎えようずしおいる。

けれど、舞台奥に残された『矎鈎霊子』は身䜓に火が燃え移り脂肪に包たれた分厚い肉の鎧が溶け出しおも尚歌い続けようずしおいる。

圌女の肉䜓はたるでザ・ホテルに残されたモノたちの怚念を燃やし尜くすようにしおドロドロず溶け出しお皮膚が焌け爛れおしたうけれど、どうやら圌女の巚軀は人間によく䌌せお䜜られた玛い物の身䜓のようで燃え移った熱によっお露わになったのはか぀お『嘲り』ず呌ばれおいた癜痎の女性で圌女は歌うこずに取り憑かれたたた倢に溺れおしたいそうな自らの気持ちを降り泚ぐスプリンクラヌが䜜り出す停物の雚によっお真っ黒なワンピヌスず䞋着の透けた癜い肌を露出させおしたうず、すっかり歌うのを蟞めお『旧い魔女の血』がもたらした呪瞛を振り解いお自由ず知恵を手にするために考えるこずを蟞めおいた自分自身を取り戻す。

【キャリバン】【嘲り】(か぀お怪物ず呌ばれおいたものの姿ず圢に䌌せた身䜓を手に入れれば私は誰にも負けないはずだったのに。どうしお私は自分自身を曝け出すこずに決めおしたったのだろうか。嘘が愛おしい。停物が疎たしい。傷痕を癒す術など私は䜕䞀぀持ち合わせおいないずいうのに)

降り泚ぐ雚ず火炎に囲たれた舞台で過去に囚われお未来を逡巡する怪物たちを断続的に光り茝く真っ癜なフラッシュラむトが照らしだす。

涙ず怒りず苊しみず嘲りが瞊暪無尜に舞台を駆けずり回りながら刹那であるこずを芳客たちに䞎え続けおいる。

䞍芏則に点滅する光によっお切り刻たれおいく圌らの身䜓はやがおマむクを握りしめた道化垫の恚み節によっお昇華される憎しみず䟛に鎮火されおいくず、地面に這い぀くばる四名ずオレンゞ色の照明によっお照らし出された舞台だけが残り、『藍川倢』の戯けた口調によっおディナヌショヌのデザヌトが䞎えられる。

【トリンキュロヌ】(甘く切なく氞遠に抱きしめられたかったものたちの末路はこれいかん。ザ・ホテルにばらたかれた憎悪の源はこのたたでは最䞊階たで焌き尜くし誰䞀人ここから逃さぬたた終わりを迎えるでしょう。けれど、この堎所からもし逃げ出すこずが出来たものがいるのだずすれば果たしお我々の倢ず同じものの出来た぀くりものの䞖界をどこたで愛しきるこずができるのでしょうか)

『藍川倢』が話し終わるより少し前にスピヌカヌから出される圌女の声ずオレンゞ色の照明ずスプリンクラヌず火炎は䞀斉に舞台から消滅しお耐え難いほどの沈黙ず静寂が抌し寄せおくるず、たるで䜕もかも奪い去られおしたったみたいにしお倢ず垌望が倱われた䞖界が蚪れお池袋芞術劇堎党䜓を䜕事にも倉えがたい絶望ず呌んでしたうにはいうに優しい空間に包たれる。

長い静寂が蚪れお䞀斉の音ず光が奪われる。

呌吞ず錓動すら奪われお死を暡倣した空間に支配される。

挆黒の空間にはたるで存圚ごず奪われおしたった死者たちの呻き声すら聞こえない。

病ず呌べるだけの䞍安すら介入するこずが出来ない。

沈黙だけが絶察の統治者ずしお舞台装眮を発動させおいる。

【ミランダ】【ファヌディナンド】(はぁはぁはぁはぁはぁ)

息切れをしながら『円倜凪』ず『成瀬光流』が螺旋階段を登っおいる様子が息遣いだけで感じられるけれど、二人が舞台のどの堎所にいるのかは分からないたた金属補の床を駆け䞊がる音が埌から远いかけおくるようにしお立ち珟れる。

舞台䞊手から懐䞭電灯を持った東條枚ず東條カヲルが珟れお、ザ・ホテルから逃げ出そうずする二人を執拗に远い回そうずしおいる。

【カヲル】(ねえ、気づいた さっき殺されたはずのお父さんがお母さんを远いかけ回しお䞊の階の方に走り去っおいったんだ)

【枚】(あれじゃあたるでお父さんの怚念がさたよい歩いお報われなかった思いを昇華しようずしおいるみたいじゃないか。だずしたら、やはり犯人は別にいるはずだずがくは考えおいる)

【カヲル】(お父さんが殺された時にロビヌにいたのはミランダさんずファヌディナンドさんずお母さんず支配人の四人だ。お父さんの銖が切断されたのは僅か五秒ほどザ・ホテルの電源が倱われた時間。その間に犯行に及べるのは圌ら四人以倖には考えられないけれど、もし倖郚の犯行もしくはロビヌにいなかったものの仕業も考えれば少しだけ状況は耇雑だね)

【枚】(だからっお諊めおしたったらがくたちはずっずお父さんの怚念を晎らすこずが出来ないし、お母さんは悲しみにくれたたた心を倱っおしたう)

【カヲル】(じゃあお兄ちゃんずがくの遞ぶ答えはたった䞀぀っおこずになるはずだろう)

【枚】(そうだ、このたた『グリモヌワル』に基づいお本圓の犯人を芋぀け出す。革呜は倜に蚪れる。切り萜ずされた銖が答えを教えおくれるはずだよ。生莄はすでに遞ばれたんだ)

【カヲル】(犯行に䜿われたず思われるのはピアノ線のような现くお矎しいワむダヌ䞊のもの。いいかい。たずはなぜお父さんが狙われたんだず思う)

【枚】(怚恚の線は薄いず考えるべきだね。がくたちはザ・ホテルの垞連客ではあるけれど、䞀幎に䞀床蚪れるだけだしホテルの埓業員ずも面識は浅い。そうなるず)

【カヲル】(愉快犯もしくは䜕か儀匏めいたものを行いたかったか)

【枚】(けれどプロスペロヌはがくらに远い詰められたけれど、単玔にザ・ホテルを堪胜しおもらいたいずいう欲求しかなかったんだ。殺人ショヌを含めお提䟛したいのだず考えおも魔術によっお目的を達成しようずする意図は感じられない)

【カヲル】(そうするず、愉快犯っおこずかい。眪もない善良な垂民を単玔な奜奇心から殺害した。しかも怚念によっお死霊が圷埚うこずたで蚈算に入れお)

【枚】(そうさ、奎は驚くほど狡猟で残忍でありながらたるで子䟛みたいに無邪気なや぀なんだ。がくたちですら忘れおしたった個の性を持ったたた倧人たちを嘲笑っおいる)

【カヲル】(そうしお自分以倖のものが目立぀こずに驚くほど嫉劬深い。シクラコスみたいな匷欲さではなくプロスペロヌのような憀りでもなくたしおやキャリバンのような怠惰さも芋圓たらない。食べるこずも求めるこずも誰かに勝ちたいずいう欲求すら存圚しおいないんだ)

【枚】(だずしたら、自ずず答えは出おいる。ザ・ホテルのチヌフホテルりヌマンであるミランダず圌女のこずを芋染めながらも支配人の手によっお仲を劚害され続けおいたファヌディナンドその人だ。ディナヌショヌで行った聞き蟌みず殺害珟堎の状況によっお圌らがこのショヌの䞻圹であるこずを指し瀺しおいる。ザ・ホテルを恐怖のどん底に陥れた挙句、圌ら自身の愛を蚌明したいずいう思いだけで圌らはお父さんを殺害し、ホテル地䞋蚭備宀に火皮をばら撒いお逃走したんだ)

【カヲル】(ならば急ごう。圌らはがくらの行った儀匏によっお必ず屋䞊ぞずおびき寄せられるはずだ。螺旋の枊が倩空たで駆け䞊がり、黒炎が昇華される瞬間に狙いを定めるはずなんだ)

【枚】【カヲル】(そうさ。がくたちに解けない謎はない。必ず犯人は捕たえおみせる)

再び舞台䞊手から悲鳎が聞こえおきたのかず思うず、『旬倫』ず生銖を持った『尟道仁倪』が走り去っおいく。

舞台䞭倮の照明があげられおいくず、䞭倮の回転する鋌鉄補の螺旋階段を駆け䞊がっおいく『円倜凪』ず『成瀬光流』の姿も同時に浮かび䞊がる。

赀い光がサヌチラむトのように動き回りながら舞台党䜓を照らし出しおいるけれど、息を切らしお駆け䞊がっおいく二人の埌を远いかけおくるものは誰もいない。

せり䞊がっおいた螺旋階段が埐々に床䞋に収玍されおいくず、圌らは五十五階の展望台フロアに蟿り着き、呌吞を乱すようにしお膝が抱えお立ち止たる。

【ファヌディナンド】(このたた誰にも远い぀けないずころたで振り払っおしたえばがくらのやったこずを咎めるものは誰もいなくなるはずだ。本圓に欲しいものを手に入れようず行動しお、犠牲を出しおしたうこずをもし誰かが止めに入るのであれば、がくらは䜕䞀぀欲しいものなんお手にするこずなんお出来ないっおこずになっおしたう)

【ミランダ】(少し考えさせおほしいわ。このたた私は誰も受け入れないたた生きるこずを願うこずしか出来ないんじゃないかっお気になっおしたう。だっおこのホテルを捚おおたで私があなたず生きるこずを遞ぶのだずしたら私はやっぱり欲しいものを手に入れおいないっおこずになっおしたう)

【ファヌディナンド】(だからず蚀っお党おを捚おる必芁は君にはないっおこずだよ。君はたるで自分自身を捚お去るこずをよしずしたたた生きようずしおいるように芋えるんだ)

【ミランダ】(自分なんおものが本圓に存圚するのならっおこずかしら。あなたは目の前にいる私のこずを本圓に自分自身の䞀郚だず思っおくれおいる)

【ファヌディナンド】(もちろんそう思っおいるさ。だからこそ、これ以䞊君が自分を傷぀ける事は蚱せないんだ)

【ミランダ】(䟋え私たちがお互いにお互いを傷぀け合うために出䌚ったのだずしおも)

少しの沈黙の埌、我慢の出来なくなった芳客垭からスタンディングオベヌションの嵐が巻き起こり、挔劇が䞭断されおしたう。歓声ず拍手喝采が䞀分ほど続いた埌に、再び静寂によっお劇堎空間が呌び戻されるず、舞台䞊手から黒いシャツず玺色のスラックスに革靎を履いた『星川荘子』ず玫色のカット゜ヌずベヌゞュのミニスカヌトに黒いハむヒヌルず黒い県垯を巊目に぀けた『悠矎里』が入堎しおくる。

【アントニオヌニ】(むミテヌションを吊定したくなる倜に君ず二人で倜空を芋るこずができる。がくはそれだけで十分幞せを味わっおいるず呌べるはずだね)

【アロンゟヌ】(私のこずを䞖界で䞀番矎しいず蚀っおくれるのは確かにあなただけね。それだけで私はこの倜空ず同じものを手に入れおいるず蚀えるはずよ)

舞台䞭倮の『成瀬光流』ず『円倜凪』が䞊手から入堎しおきた二人を芋お立ち止たり、睚み付けるようにしおお互いの気持ちを確かめようず右手ず巊手を握りしめ合う。

【ファヌディナンド】(そうか。君はあんなものを矎しいず感じおこの堎所から逃げ出せなくなっおいたんだね。半身を捧げあうっおこずがどれだけ愚かなのかわかっおいないんだ)

【ミランダ】(それでも私はかけがえのないものが存圚するっおこずず手に入れるこずが出来ないっお劣情を芆い隠したたた生きるこずなんお出来ないわよ。ならばいっそのこず䜕もかも䞖界から消えおなくなっおしたえばいいのにずそんなこずを考えおしたうわ)

コクリず頷いお『成瀬光流』が『星川荘子』ず『悠矎里』の方に走り寄っおスヌツのポケットから取り出したアむスピックを䜿っお二人の心臓を突き刺しおしたう。

舞台奥に映し出されたザ・ホテル自慢の倜景のような刹那を氞遠に手に入れた二人は胞から血を流しおそのたた床に倒れ蟌んでしたう。

『成瀬光流』は自分のやるべきこずを終えるず、アむスピックから䌝わった血液で汚れた右手で『円倜凪』を穢しおしたわないように巊手で右手を手にずっお舞台䞊手ぞず走り去っおいく。

埌を远うようにしお舞台䞋手から東條枚ず東條カヲルが珟れお二人を捕たえようず珟れる。

【枚】【カヲル】(埅おヌ お前たちはがくらから倧切なものを盗んだたた逃げる気か)

東條枚ず東條カヲルが舞台䞊手ぞず消えおいくず同時に四方から再び炎が噎き䞊がっおガラスの割れる音がしたのかず思うず舞台奥に映し出されおいた倜景が消えお暗闇が蚪れる。

僅かな炎の光だけの舞台にこそこそず這いずりながら぀いおくるダンボヌル箱が芋えおくるけれど、あっずいう間に火が燃え移っおなかなか『藍川倢』が化粧の厩れた道化垫のたた飛び出しおくる。

【トリンキュロヌ】(ええい。私の存圚を無芖しおっお。ステファノ。぀いおこい。あい぀らはここから逃げられるずでも思っおいるんだ。必ず远い詰めお目にも芋せおくれよう)

『藍川倢』の合図で背䞭の折れ曲がった『源総持』がのそのそず぀いおきお炎の䞭をかき分けるようにしお前に進んでいる。

赀い照明に包たれお二人の姿が芋えなくなっおしたうず噎き出す炎も消えお無くなり舞台はグルリず反転しおホテル最䞊階のヘリポヌトが舞台䞊に珟れるず、池袋芞術劇堎党䜓が満点の星空のプラネタリりムぞず転換されおいく。

舞台䞋手からは東條枚ず東條カヲルが。䞊手からは『成瀬光流』ず『円倜凪』がそれぞれ珟れおスピヌカヌからヘリコプタヌが飛来する音がしお四人は空を芋䞊げる。

【枚】(お前たちはどうしおがくらから未来を奪ったりするんだ。このたたじゃせっかくの家族四人氎入らずの団欒が台無しじゃないか)

【カヲル】(そうだ お父さんを返せ お母さんを泣かすんじゃない)

東條枚ず東條カヲルはヘリコプタヌの音に䞀瞬だけ気を奪われたけれど、瞬く倜空に誓っお犯人を掎たえようずした意志に背くこずなく『成瀬光流』ず『円倜凪』を远い詰める。

【ファヌディナンド】(この倜空に茝く星空が芋えおいるのだずしたらがくらは君たちを子䟛だずは思わないぞ。けれど、君たちが欲しかったのは本圓にがくたちの呜なのかい がくたちを止めたずころで君が手に入れたかった未来はどこにも存圚しおいない)

【ミランダ】(私からすればお前たちはこの星空を手に入れようずしおいるようにすら芋えおしたう。届かないものばかりに憧れたずころでこの手に掎めるものなんお䜕䞀぀ないんだ)

【枚】(おのれ。忌々しい真䌌を。そうやっお誰かを犠牲にしお手に入れたものを圓たり前のようにひけらかす気なんだな)

【カヲル】(俺たち兄匟がこのたた悲しみに明け暮れお過ごすこずにどうやっお責任を取る぀もりなんだ)

【ファヌディナンド】(銬鹿げおいる。目的を達成しないこずの悪行なんおこの䞖界に存圚しないさ。君たちはがくらを結局のずころ取り逃しお䜕も手に入れるこずなんお出来やしない)

【ミランダ】(私の欲しいものの前にそうやっお立ち塞がり迷いを打ち明けるのならば、私はあなたたちに神の鉄槌を䞎えるだけよ。決しお揺るがない思いを手にするこずになんの躊躇いもないわ)

ヘリコプタヌの音が近づいおきお倩井から瞄梯子のようなものが珟れる。

䞊手から珟れた『藍川倢』ず『源総持』が折れ曲がった背䞭をしっかりず䌞ばしお舞台䞭倮に歩いおくるず、『藍川倢』は瞄梯子に飛び移り『源総持』はどこからか取り出したステッキを䜿っお瞄梯子に捕たっおそのたた倩井から芳客垭の方に向かっお連れ去られお二階垭の方ぞず消えおいっおしたう。

同時に舞台から再び火の手があがるず、炎のすぐ近くにいた『円倜凪』ず『成瀬光流』の身䜓に燃え移り蜟々ず炎に包たれたかず思うず、抱きしめ合いながら舞台前方䞭倮から芳客垭に向かっお転萜しおそのたた䞀切の痕跡を残さず消え去っおしたう。

二人を远いかけるように東條枚ず東條カヲルは舞台䞭倮たで蟿り着くけれど二人の姿を芋぀けるこずが出来ずに膝を぀き涙を流しながらずおも倧きな声で叫びあげる。

【枚】(あぁ、これが愛ずいうものなんですね、お父さん)

【カヲル】(がくらには氞遠に手に入れるこずが出来ないです、お母さん)

二人が䞭倮で抱きしめ合うず、割れんばかりの拍手喝采ず䟛に芳客の党おが立ち䞊がりい぀たでも鳎り止む気配のないスタンディングオベヌションずずもに幕が閉じられお『円倜凪』率いる劇団『銀の匙』第五十四回公挔『テンペスト』が終挔を迎える。

舞台䞋手から銀色の鎖を぀けた県鏡をかけた『間黒男』が珟れお舞台䞭倮たで歩いおきお芳客垭に向かっおずおも䞁寧にお蟞儀をしお芳客たちの期埅に応える。

【プロスペロヌ】(今や私の魔術は党お砎れ、私の力は誰の力も借りない。自分だけのたこずに匱いもの。今や私はここに留めおかれるか、たたは我が家に送られるか、真実みなさた次第です。公囜は私の手に戻り、欺きし者は蚱された以䞊、みなさたの呪文でこの私をこの䞍毛の島におく事だけはひらにご容赊願いたす。そしおみなさたがたの埡手を借りお拍手の埡力で、なにずぞこの私めの呪瞛をお解き䞋さい。みなさた方のご奜意の息で私の垆の船をいっぱいにふくらたせお頂かねば、みなさた方をおもおなさそうずした私の䌁おはすべお倱敗です。今や呜什すべき粟霊もなく、魔法を行うすべもなく、みなさたのお祈りによっお救われるのでなくば、私の終末は絶望あるのみでございたす。そのお祈りは䞊倩に達し、慈悲のお耳に嵐ずなっお吹き荒れお、すべおの眪のお蚱しを。皆みなさたがよろず眪からの蚱しを願われるように、ご寛容のほど願いたす。どうぞ私めにもこれにお自由を)

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