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複式学級が教えてくれること

毎週金曜日に初任者指導にお邪魔する学校の先生は、複式学級の担任です。かつては複式の学校には初任の先生は入らないのが通例でした。
2学年を一度に受け持つわけですから、先生にとっては、授業準備も全部2倍必要。高度な教育技術と工夫が求められます。

しかし、こちらの学校では、他の先生方のバックアップのもと、保護者・地域のあたたかい支援に恵まれて、新人先生も子どもたちも、実に生き生きと学んでいます。
朝早く登校して子どもたちを迎え、昼休みも一緒に鬼ごっこ。明確なビジョンを持って前向きに取り組む若い先生の姿に私の方がたくさん学ばせていただいています。

やむを得ない措置として複式をとらえ、自治体によっては、複式を解消する措置をとることも少なくありません。確かに先生の負担が多いことや児童観のみがきあいが少ないことなど問題点も多々あります。
しかし、新人先生と子どもたちの様子を見ていると、複式ならではの良さをひしひしと感じます。今回は、そんな複式の良さに焦点を当ててみたいと思います。


複式学級の今

少子化が進む中、学校の統合とともに複式の学級は1年々増えています。文部科学省のデータによると、令和5年度(2023年)時点で日本の小学校における複式学級の数は2,626学級となっています。
従って、これまでは複式学級の担任は経験豊かな先生が配置されることが多かったのですが、複式学級が増えていること、大量採用の影響等もあるのかもしれませんが、最近は複式学級に新任の先生が配置されることもあります。

豊かな自然に恵まれた学び舎

がんばる新人先生

私が関わらせていただいている新人先生は、朝早く学校に来て準備、子どもたちを笑顔で迎え、休み時間には子どもと遊び、放課後は明日の準備と忙しい毎日ですが、生き生きと子どもたちに接していらっしゃいます。
先生は、国立大学出身。大学時代から、複式学級に興味があり、大学での「へき地・複式教育プログラム」に参加していました。このプログラムは全国の教育系の大学から高く評価されている取組なのです。ですから、この学校での採用は適切だったのでしょう。
しかし、実際のところ、新人先生にとっては、毎日の授業準備は本当に大変です。2学年分の教材研究が必要なことはもちろんのこと、一方の学年に先生がついている間、もう一方の学年が自分たちで学べるような仕掛けが必要なのです。

複式授業が教えてくれること

児童が自分で学べるような仕掛けの一つとして「ガイド学習」といわれるものがあります。この時間に何をするのかを可視化して児童に渡しておき、そのガイドを読みながら自分たちで学びを進めていきます。
授業の様子を拝見しながら思い出したことがあります。それは、昨年、「教育長・校長プラットフォーム」の総会で「学習者中心の学び」の分科会に参加させていただき、広島県教育委員会の村田先生のお話に感銘を受け、懇親会でもお話を聞かせていただいた中でのことでした。「学習者中心の学びを生み出すには、まず指導案を子どもに渡すこと」というお言葉がありました。大切なのは自由進度学習という形ではなくて、マインドであるという趣旨のお話に大いに学ばせていただきました。
複式授業でのガイドは指導案そのもの。先生がいない間、ガイドを見ながら自分たちで学びを進めている児童の姿は、学習者中心の学びに近づいていける一つのアプローチであるように感じています。

子どもたちに委ねて

前回の授業研究では「児童に委ねてしまって」と反省を込めて新人先生は語っていましたが、私からは、子どもに丁寧に委ねていくことこそが、子どもの主体性を育てる、学習者中心の学びに近づいているという価値づけをしました。
この学級の授業では、子どもたちはやらされ感がなく、先生がついていない間、ああでもない、こうでもないと相談して進めていく姿こそ学びが生まれていると感じます。子どもたちは、学びを教えてもらうものではなく、自分で進めていくものという「観」が根付いています。そして、新人先生には「子どもたちを信じて委ねていく」という姿勢が感じられます。
根底にあるのは、「子どもは有能な学び手であり、環境さえ整えば、自ら豊かに学びを進めていくものである」という「観」であり「スタンス」だと思います。
新人先生と子どもたちの笑顔を見ていると、複式学級の良さをひしひしと感じるのです。
確かに、社会性が育ちにくことや先生の負担の大きさなど、複式学級の課題も多くあるのは事実です。しかし、ICTを活用するなど、課題を補う方法も考えられます。
メリット、デメリットが存在するのはどんな学校も同じ。複式学級の豊かな実践に学ぶことは、大変重要なポイントなのではないでしょうか。

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