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バズってないけど素晴らしいコンテンツを紹介して絶賛する

先週書いた記事が、未曾有の売上を叩き出している。

とあるインターネット芸人の凋落を1万文字・画像40枚を使って仔細に描き出したのだが、圧倒的に好評で、60万円ぐらい買われている。この記事をきっかけに月額購読を始めた人も含めると、100万円ぐらいの経済効果があったんじゃないだろうか。すごい話だ。

こういう記事はいたずらに敵を増やすことになるのであまり書かないようにしたいのだが、「こんなに儲かるのならもっと書きたい」という気持ちも湧いてきており、ジレンマに苦しむばかりである。人生は複雑だ。


職業柄、僕はいつも色々なYouTuberやコンテンツを小バカにしてばかりいる(主に悪口を書くのを生業としているので)。しかし、実際にはバカにしている人よりも尊敬している人の方がずっと多い。ひどいコンテンツよりも優れたコンテンツの方がずっと多い。

だから、今日は趣旨を180°変えて、優れたコンテンツについて書こうと思う。

とはいえ、露骨にバズっていてみんなが見ているコンテンツについて普通に語っても仕方ないので、縛りをひとつ加える。「バズってないコンテンツ限定」である。圧倒的に素晴らしいにもかかわらず、世間の注目度はそれほどでもない。そういうものに絞って見ていきたい。

皆さんにとっても、新しいコンテンツとの出会いになれば幸いだ。お付き合いくださいませ。



ありっちゃありスパーク梵「ダブル老眼鏡ラジオへの足音」

「ありっちゃありスパーク」は、オモコロ編集長・原宿さんと、イラストレーター・室木おすしさんのふたりによるラジオ。あまり肩ひじ張らずに愉快なオジサンたちが話しているのが聞きやすい。

原宿さんのおもしろさは「洞察の深さ」と「意味不明の怒り」が同居していることだと思う。それが一番爆発しているのはオモコロチャンネルでもなければWebメディアでもなく、このラジオ「ありっちゃありスパーク」のように感じられる。僕は原宿さんのファンなので、毎週欠かさず聞いている。

特におもしろくて印象に残った回が「ダブル老眼鏡ラジオへの足音」だ。

まず、開始5秒でいきなりおもしろいのがすごい。ラジオの冒頭は、こんなやり取りだ。


「わたくし、デビューさせていただきました!」

え、インポに?

「違うよ。ほんとにインポデビューして気にしてる人もいるんだから、気をつけろよ発言に」

「でもどうする? インポデビューしたら、言うかどうか」

「誰に?」

「ラジオで発表するかどうか。これはもう赤裸々に言った方がいいと思うんだけど」

「でもさあ、このチンポは俺だけのものじゃないって側面もあるからね」

「ああ、家族の」

「そう、家族全体のチンポだから」

「俺がインポだって言うのは全然いいんだけど、嫁さんが”インポの嫁”になってしまうのが嫌な可能性があるじゃない」

「ああ、社会的な位置づけとしてね」

「だから、ひとりでは決められないよ、この問題は」

「たしかにねえ」

「っていうか、違うのよ。インポの話じゃないのよ。俺インポでもないし」


冒頭からフルスロットルですごい。開始5秒でめちゃくちゃ笑ってしまった。最初から一切ダラダラしていない。「わたくし、デビューさせていただきました!」に対する「え、インポに?」という切り返し、何を食ってたら思いつくのかまったく分からない。

ありっちゃありスパークのすごさは、ダラダラしていないことだ。肩ひじ張らずに喋っているのにダラダラしていない。雑談ラジオをやりたい人はこれをお手本にした方がいいと思う。適度にボケながら、適度に展開を作り、説教臭くならない程度に持論も話していく。雑談ラジオの理想形と言っていいだろう。


インポの話が終わった後、話題はこう展開する。

「実はですね、老眼鏡デビューしました!」

「おめでとうございます!!!」

「そんなにめでたくはないけど」

「いやぁ、終わりましたね」

「終わってないよ」

「ヤバいよ。老眼鏡って字面がエゲツないですよ」

「老眼鏡、言葉を変えてほしいな。ジジイすぎるだろ」

「たしかに。もっとポジティブに言えないのかって思いますね」

(中略)

「絵を描いてて、筆を思ったところに置けなかったの」

「ジジイじゃん」

「まあそうなんだけど、これ老眼かもってことに気づいてなくて、”なかなか上手くいかないなぁ。やっぱりプロの絵描きはすごいなぁ”と思ってたの」

「ああ、筆を置くのは技術であると」

「そう。技術の問題だと思ってたんだけど、途中で”あれ、もしかしてこれ老眼か?”ってちょっとだけ思ったんだよね」

「お、気づいたワケですね」

「で、百均、っていうかセリアに売ってる老眼鏡を試しにかけてみたの……そしたら、描ける描ける。思った通りに狙った場所に筆置けるの気持ちいい~~!!!ってなったの」

「あー、なるほど」

「”みんな、見てたんだな”って思った。技術がどうこうじゃなくて」

「なるほどねぇ。でもみんな言いたくないよな、老眼鏡使ってるって。やっぱもう、老眼鏡かけてる時点でめっちゃつまんないヤツだから」

「(笑) つまんなさは関係ないだろ。老いてるだけだから」

「狙ったところに筆を置く技術がないと思ったら、単に老眼だった」というエピソードトークもおもしろいのだが、それを受けて飛び出した「老眼鏡をかけてるヤツはつまらない」という凄まじい偏見がめちゃくちゃおもしろい。大笑いしてしまった。原宿さんはこういう意味不明なレッテル貼りをよくする。僕はそれが好きでたまらない。

そして、さらに老眼鏡トークはこう展開する。


「でも俺、原宿さんも老眼来てると思うんだよね。40過ぎてるし」

「そうだね。40から来るとか言いますからね」

「だから今日俺持ってきてるんですよ。セリアで買った老眼鏡」

「いや、でもさ、試さない方がいいじゃん」

「何が?」

老眼だって気づいちゃうじゃん

「そうですよ。だから気づいてください。このラジオの今後に関わることだよ。ダブル老眼ラジオになるかどうか」

「ダブル老眼はヤバいよ。ホントにヤバい。さすがにおもしろくない。これ聞いてたらマジでダサいってことになる」

「ならないだろ」

「老眼鏡の人の話を聞くダサさってあるじゃん」

「ないって」

「老眼鏡かけてる人のラジオで笑いたくないもんな」

「なんでだよ」


この後ずっと「老眼鏡をかけてる人のラジオはおもしろくない」という偏見が展開され、原宿さんは頑なに「試したら確定してしまうから老眼鏡をかけない」と拒む。


「老眼だって感じる瞬間もあるでしょ?」

「いや、ないですよ。ないけど、メール読むときに文字が小さくて読めないときはよくある」

老眼じゃねえか

「違う違う。疲れ目なだけだから。老眼じゃないから」

「老眼だってそれ。っていうか、そもそも疲れ目が老眼の始まりなんだよ」

「あー、たしかに、最近は眼精疲労がすごいわ」

老眼じゃねえか

「違うって」

「このペットボトルの説明書き、顔に近づけて読んでみな」

「ちょっと近いと読めないね。遠ざけないと読みにくい」

老眼じゃねえか


めちゃくちゃおもしろい。「自分の老眼を認めない人」という、自然発生的なコントである。彼らは素で会話をしているだけなのに、キレイなコントになっている。これがラジオの妙だと言えよう。


で、結局試しにかけてみることになる。

「一回かけてみるけど、試しにやってみるだけだからね。老眼じゃないからね」

「分かった分かった。はい、かけてみて」

ええっ!?!?読みやすっ!!!!!!!

オチまでキレイについてて完璧である。

僕は経理作業をしながらこの回を聞いたのだけれど、あまりにおもしろくて作業そっちのけで大笑いしてしまった。「作業用にできない」というのはラジオに対する最大級の賛辞だな、と改めて思った。

ありっちゃありスパーク、こういうめちゃくちゃおもしろい回が時々あるのがたまらない。原宿さんの偏見や怒りが炸裂したり、おすしさんのツッコミがキレイに決まったり決まらなかったりする感じが、僕のツボである。皆さんもぜひ聞いてみてください。あなたのお気に入りの回はどれ?


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