企業YouTubeがやりがちな失敗と、それに陥っている某企業の残念なチャンネルについて。
「積読チャンネル」というYouTubeを始めた。
兼ねてからお世話になっている株式会社バリューブックス(古本のECなどを手掛ける会社)のオウンドメディアである。
僕(の会社)は「お金をもらって制作を請け負う」という役割なのだが、ありがたいことにバリューブックス担当者の飯田さんとはたいへん気が合うし仕事が進めやすいので、僕のモチベーションはMAXである。(余談だが、たいていのクライアントワークは「もっと◯◯するべきという社内の意見が出ています。ご対応ください」と上司のしょうもない思いつきを担当者が投げつけてくるので、それを却下するのが大変でモチベーションが下がる)
バリューブックスはそういう面倒なことが一切なく、むしろ担当者の飯田さんは「参考程度に…」と謙遜しつつ芯を食った意見をくれるので、コンテンツは良くなる一方だ。だからテンションが高いままやれたし、結果もついてきている。まだ開設5日めのチャンネルで動画は1本しかないのに、チャンネル登録者は既に4300人を突破した。1本目の動画は1万再生を超えている。
自分で言うのも何だが、これは素晴らしい成果だ。単に数字がすごいというだけではなく、まっすぐやってそれなりの結果を出した点で素晴らしい。
というのも、企業コンテンツはそれなりにお金が使えるので、予算をぶん回せば再生数を出すことは難しくない。豪華なゲストを呼ぶなどの一発ネタで再生数を一気に伸ばすことはできるだろう。極端な話、大谷翔平さえブッキングできればコンテンツの中身など何も要らない。「何でもいいから10分喋ってください」と伝えればそれでいい。すぐに10万再生を超えるだろう。
だが、これに企業YouTubeとしての価値があるだろうか。まったくない。視聴者が見たいのは大谷翔平であって、その企業のチャンネルではない。企業にファンはまったくついていない。
一方、「積読チャンネル」は普通にまっすぐやりたいことをやって、それをそのまま公開した形だ。奇をてらうことは何もやっていない。書店員の飯田さんがグッと来た本を紹介し、僕がそれを楽しく聞く、ただそれだけだ。
これでそれなりの初速を出したことがエラい。一発ネタで注目を荒稼ぎするのではなく、本当に継続的にやっていきたい(やっていける)形のコンテンツを提出してリスナーを惹きつけているのなら、これは一過性のものではなく、チャンネルに本当のファンがついているということだろう。
「積読チャンネル」の開始にあたってはそれなりの大金をもらっているが、その分の結果は出したと自負している。同じ金額をもらって同じだけの成果を出せる会社は、恐らく他にない。
ということで今日は、「企業がYouTubeチャンネル運営を成功させるにはどうしたらいいのか」というテーマで書いてみようと思う。こういう記事は結果を出した直後のイキれるチャンスで書かないといけないから。
無料部分では、成功のための一般法則について書く。有料部分では、失敗事例として某企業の残念なYouTubeチャンネルを題材にして、よくある失敗事例を分析しようと思う。お付き合いください。
正しい完成イメージ・正しい外注
企業のYouTubeチャンネル成功法則はもう2つしかないだろう。「正しい完成イメージ」と「正しい外注」である。
1点目、「正しい完成イメージ」について。企業チャンネルはなぜかすぐに「社員にインタビューをするチャンネルを作ろう!」とワケの分からない方向に走り出してしまう。心の底から疑問なのだが、その辺の知らん会社員のインタビューを聞きたい人がどれだけいるのだろうか。百歩譲ってめちゃくちゃおもしろい切り口を設定できるならともかく、「営業部2年め、山田花子さんへインタビュー!趣味はピクニック!」とカスみたいなタイトルとサムネがつけられることが多い。誰が見るんだそれ。社員以外絶対に見ないコンテンツである。
実際、95%の企業チャンネルはここでつまずいている。なんとなくふわっと「うちの社員、おもしろい人が多いから、みんなでワチャワチャしてたらウケると思うんですよね~」とぼんやりとしたイメージだけを持って始めてしまう。断言するが、そんなぼんやりとしたイメージで取り組んでもウケない。そんな動画は再生回数53回が関の山である。実際、カスみたいな動画(「社員全員参加のBBQパーティで大事件!?」というタイトルで、社員が頬張りすぎて口を火傷するだけの動画。社員だけが爆笑しているが、視聴者は絶対零度まで冷める)を上げてしまう中小企業が後を絶たない。僕はそういう企業のコンサルに入ってしまって「どこから手をつけていいのかさっぱりだ…」と途方に暮れたことがある。
「積読チャンネル」について言えば、バリューブックス飯田さんは長らく我々ゆる言語学ラジオのサポートを続けてくれてノリが完全に分かっており、「これが理想のコンテンツ」という完成像が完全に共有されていた。だから、チャンネルのコンセプトもすぐに「ゆる言語学ラジオのノリで、ワチャワチャ楽しく本の紹介をする。でも選書は渋くする」と結論が出た。理想のコンテンツ像が見えれば、後は走り出すだけである。
2点目、「正しい外注」。頭に完成イメージがあったとしても、それを形にできる人は稀だ。
特にYouTubeなんかはここが厄介で、何となく誰でもできそうに見える。だからうっかり「俺でもできそう」と思いがち。
しかし、これは大いなる誤解である。コンテンツを作るプロは「どうすれば面白くなるか」を四六時中考えている。これはれっきとした特殊技能で、素人にはマネできない。「飲み会の内輪でちょっとウケてる社員」みたいな素人と、仕事でコンテンツ作りをやっている人は一線を画する。「社員の山田くんは飲み会でおもしろいから、山田くんにYouTubeやらせればOK!」と考えるのは、「山田くんはトランプタワーを高く積めるから、山田くんにオフィスビル建築をやらせればOK!」と考えるのと同じと言っても過言ではない(過言である)。
これはポジショントークも大いに含んでいるが、真理でもあると思う。内輪で面白がられることと、他人が見て面白いものを作ることとの間には、マリアナ海溝よりも深い溝がある。高層ビルを建てるのは外注が当然であるように、YouTubeチャンネルを作るのも外注が当然であるべきだ。
そういうワケで、自社のYouTubeチャンネルをやりたいなと思ってる方はぜひ弊社メールアドレス(info@pedantic.jp )までご連絡ください。御社が自力でやったのでは絶対に作れない魅力的なチャンネルを作り出してご覧に入れます。以上、ポジショントークと宣伝終わり。
さて、このあたりで本題に入ろう。上記2点の原則が全然守れてない某企業のYouTubeチャンネルについて。そのチャンネルは大金を投じているのに大失敗していて、すごく残念である。見ていてひたすら「惜しいなぁ……」と思うばかりだ。なぜそんなことが起こるのか、仔細に見ていきたい。
なお、ここからゴリゴリに実名が出るので有料になる。気になる方は課金して読んでほしい。単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)がオススメだ。いつ入っても当月書かれた記事は全部読める。1月は5本更新なのでバラバラに買うより3倍オトク。
では早速見てみよう。残念な企業のチャンネルは、こちら……。
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