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アルゴリズムに翻弄される哀れな僕と、哀れな湯婆婆たちについて。


数ヶ月前から、「ゆる言語学ラジオ」という動画・音声コンテンツをやっている。


これが、今月に入ってめちゃくちゃ伸びた。バズったと言っていいだろう。

300人ほどしかいなかったチャンネル登録者は2万5000人を越えて、今も増え続けている。

これほど急速に伸びることは1ミリも想定していなかった。「地味なテーマなので、気長に1年ぐらいかけてゆっくりリーチを拡大していきたい」と思っていた。嬉しい誤算である。


伸びるきっかけになったのはこの動画だ。

これがYouTubeのアルゴリズムにえらく気に入られたらしく、色んな人のオススメに出てきたようだ。20万回以上再生されている。


「YouTubeでウケると桁が違うなぁ」と思った。

20万といえば、僕が人生で書いた記事の中で最も読まれたこれとほぼ同じ閲覧数だ。

僕が人の悪口を中心にしたマガジンで生活するきっかけになった記事だ。原体験といえば聞こえはいいが、堕落の第一歩とも言える。


これを書いたときは、僕のTwitterは蜂の巣をつついたような騒ぎだった。落合陽一先生はツイート20連投で僕のことを非難し、ゲストの宇野常寛さんは「この記事をシェアしたヤツ、全員Facebookで友達解除するからな」と宣言した。実際に友達を解除されてる人が何人もいた。とばっちりである。なんかごめん

NewsPicksからは「記事消さないと訴訟起こすよ」とメールが届いた。訴訟は起こらなかった。大人は挨拶代わりに訴訟をチラつかせるのだ。

有名なインフルエンサーも続々とこの記事の話をしており、数秒ごとに記事のシェア数が増えていった。自分で言うのもなんだけど、2018年末のTwitterの話題を独占した記事だと思う。


しかし、それでも20万PVにしかならないのだ。


日常的に長い文字を読んでいる人は本当に少ない。皆、1万文字の記事を読む気でスマホをイジってない。フォロワーが10万人いる人が記事に言及しても、記事を読む人は数十人に過ぎない。

それに比べて、なんとなくYouTubeサーフィンをしている人はめちゃくちゃ多い。YouTubeのアルゴリズムに気に入られればあっという間に20万回再生される。「話題を総ナメ!」みたいなことをする必要はない。


その結果、なんだか分からないが突然バズってアワアワするということになる。

正直、今回のバズに対して手ごたえは全くない。それなりに面白いものを作っている自負はあるけれど、それは完全に普段通りであり、特筆すべき話題性はないと思っていたから。

WEEKLY OCHIAIの記事を書いた時は、違った。挑発的で、賛否両論を呼ぶ内容で、記事の構成も分かりやすく笑えるものだった。大なり小なり話題になると思った。

だから、今回の突然バズりアワアワ体験は、初めての経験だった。こんなに多くの人に見られると思っていないので、だいぶうかつなことも喋っており「いやバズるなら予告してくれや」と思った。


アルゴリズムにはそういう不条理なところがあるし、そういう不条理なものに僕らは支配されている。


大学生の時、『アルゴリズムが世界を支配する』という本を読んだ。


たいへんに面白い本だった。印象に残っているエピソードは、冒頭で紹介された「フラッシュ・クラッシュ」の話だ。

2010年5月6日、ダウ平均株価は6分で1000ドル下がった。当時のダウ平均株価は1万ドルちょっとだったから、たった6分で10%下げたことになる。未曾有の大暴落である。ここまでひどい暴落は、リーマンショックとか、昨年のコロナショックでも起こらなかった。

ではこの暴落はもっとひどい歴史的な事件になったか?答えはノーだ。こんな凄まじい暴落を招くような要因はなかった。(この時期はギリシャの債務不履行問題が取り沙汰されていた頃だったけれど、未曾有の暴落が起きるほどの要因にはならない)


だからこそ、この暴落はプロたちの目からも意味不明なものに見えて、誰もが浮足立った。


バーネットが、優良株のひとつであるプロクター&ギャンブルの株価が数分の間に六二ドルから四七ドルへと、二十五%も下落したことを告げた。その瞬間、それまでクールだったクレイマーが豹変した。

そんなはずはない。そんな価格が本当であるはずがない」と彼は怒ったように大声をあげた。そして憤然と言い放った。「そういうことなら、P&Gは買いだ」彼はカメラを真っ直ぐ見つめながら、その向こう側にいる視聴者に向かって叫んだ。「今すぐ買うんだ。買いしかない!」

クリストファー・スタイナー.アルゴリズムが世界を支配する(Kindleの位置No.60-65).Kindle版.


2010年のアメリカ株式市場の暴落は、「そんなはずはない」としか思えないものだった。

そして、実際にそんなはずはなかった。株価は一瞬で元に戻り、わずか数分のうちに何事もなかったのと同じ状態になった


暴落はあまりにも突然きて、突然去っていったため、手洗いやコーヒーを買うために数分席を外していたトレーダーは、一部始終をまったく見ずに終わってしまったほどだった。

クリストファー・スタイナー.アルゴリズムが世界を支配する(Kindleの位置No.83-85).Kindle版.


当時のトレーダーたちは、「さっぱり意味が分からない騒動だ」と思ったに違いない。

いや、当時のトレーダーたちだけではない。実は今でも、このフラッシュ・クラッシュの原因は分かっていない。様々な説が林立し、意見の一致は見ていないようだ。明確な答えが出る日は来ないだろう。


それでも、一応の有力な説明として、アルゴリズムの相互作用が挙げられている。

つまりこういうことだ。

・最初にある程度まとまった売り注文が入る

・A会社が使っているアルゴリズムはこれに敏感に反応して、「値下がりしそうだ」と判断して売る

・B会社が使っているアルゴリズムは、A会社の動きに反応して「値下がりしそうだ」と判断して売る

・C会社が使っているアルゴリズムは、B会社の動きに反応して……(以下無限ループ)


こうして際限なく株価が下がり続けてしまったのではないか、という説明がされている。

そう。人間と違って、アルゴリズムは歯止めが効かないという特徴がある。

アルゴリズムは数学的に厳密に定められた行動マニュアルであり、コンピュータは常に冷徹にそれを実行する。「そんなはずはない」みたいな牧歌的な感覚を持っていないのが、アルゴリズムでありコンピュータなのだ。数学的に定められた処理を淡々と行うから、理由もなく暴落を引き起こすこともある。


そして、僕たち人間はその不条理な暴落に戸惑うことしかできない。

アルゴリズムはもはや神だ。そして人間は、か弱くて哀れなアブラハムである。神から下される理不尽な命令に動揺しながら、それでも神に従い、翻弄され続けるアブラハムである。「息子を殺せ」と神に言われれば、泣きながら息子を殺すしかない。


『アルゴリズムが世界を支配する』を読みながら、そんなことを考えた。当時は大学でコンピュータ・サイエンスを専攻していたので、胸が高鳴ったのを憶えている。僕はアルゴリズムを作る側であり、神を作る側だ。

「僕は翻弄される側ではなく、翻弄する側にならねば」と思った。初めてWEBサービスを作ったのもその頃だ。20歳かそこらの僕はアルゴリズムを作る側に回ろうと夢中だったのだ。弱者ではなく強者に回ろうとする、ありふれた若い野心。



あれから10年近く経った。僕は現在、見事にアルゴリズムに翻弄されている。完全無欠の哀れなアブラハムになった。

「アルゴリズムを作ってみんなを翻弄してやるぞ~!」というビジョンは雲散霧消し、YouTubeのアルゴリズムに翻弄されまくっている。人生はままならないものだ。ミイラ取りはいつも簡単にミイラになる。

しかしまあ、神になろうとすると良いことはあまりない。天に近づきすぎたイカロスは墜落する運命にあるし、僕はもう神になりたいと思っていない。それなりにアルゴリズムに翻弄されながら、か弱いアブラハムとして生きていこうと思う。人生ってそんなもんだろ?


……前置き終わり。

ということで、今日はアルゴリズムに翻弄されるアブラハム視点の悲しいアレコレを書いてみようと思う。何について書くのか詳細に述べてしまうとあまり良くなさそうなので、察して欲しいとしか言わない。

以下、具体的な事例に入るので、有料になる。単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)がオススメだ。いつ入っても今月書かれた記事は全部読めるので、月途中からでも損はしない。5月は5本更新なので、バラバラに買うよりも3倍オトク。


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