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「法的措置を取ります」は大人の挨拶。昼下がりのコーヒーブレイクの気持ちで対応しよう。

あなたは、「法的措置を検討しています」とか、「従わない場合は法的措置を取ります」とか書かれたメッセージをもらったことがあるだろうか?

普通に生活していればこういうメッセージをもらうのは日常茶飯事だと思うのだが、どういうワケだか「一度ももらったことがない」という人がたくさんいるらしい。すごい。どうやったらそんな平和な生活ができるのか教えて欲しい


僕は今までに両手で数え切れないくらいの「法的措置を取ります」というメールをもらってきた。もう慣れっこなので、誘拐されたクロロ団長ばりの落ち着きで対応できる。

コメント 2020-04-26 133342

『HUNTER×HUNTER』13巻より引用)



しかし、平和な生活をしている皆様は突然「法的措置を取ります」と言われると驚くものらしい。僕の元には時々、「どうしよう!?訴えられるかもしれない!!」という友人からの悲痛な相談が来る。

そういう友人に僕はいつも「まあ落ち着けって。こんなもん不安になるようなことじゃないよ。昼下がりのコーヒーブレイクと何ら変わらない平穏なものだ」とアドバイスしている。

ということで、今日は「法的措置を取ります」と言われた時のための心構えについて書こうと思う。


「法的措置を取ります」は大人の挨拶

友だちに「おはよう!」と挨拶されたら、あなたはきっと条件反射で「おはよう!」と返すだろう。挨拶とはそういうものだ。

ところで、「おはよう」の語源は「お早く」である。由来については諸説あるそうだが、歌舞伎業界で楽屋入りした座長に対して「お早くお着きになりましたね」と挨拶していたのが始まりという説が一般的だ。

ということで、厳密には「おはよう」は遅刻してきたヤツに言うのはふさわしくない

だけど、僕らは普段そんなことを考えて生活していない。「”おはよう”だと…?待ち合わせに2分遅れてきたオレに対してなぜ”おはよう”なんだ…?これは嫌味か…?だとしたらどう返せばいいんだ…??」とか考えて暮らしてたら、生きるのが大変すぎる。

生活していく上では語源について考える必要などない。「おはよう」と言われたら「おはよう」と返しておけばいいんだな、と思っておけばいいのだ。挨拶とはそういうものである。


さて、「法的措置を検討しています」も実は「おはよう」に近い。これは大人の挨拶である。

「おはよう」と言われた時に歌舞伎の座長がどうこうと考える必要がないのと同じで、「法的措置を検討しています」と言われた時も訴訟を起こされる不安に駆られる必要はない

実は、相手も「訴訟を起こすぞ!」と思って「法的措置を検討しています」と言ってるワケではないのだ。「お早いお着きですね」と思って「おはよう」と言ってるワケではないのと同じことだ。決まりきった対応をしておけばよい。


大人版「マジメにやれ!!」

では、「法的措置を検討しています」とはどういう意味なのか。

これは「怒っているのでマジメに対応してください」という意味に他ならない。

いや、場合によってはあんまり怒ってすらいないかもしれない。「マジメにやれ!」程度の意味のこともある。


僕らは、義務教育の間に面倒な教師たちから散々「マジメに宿題をやれ!」「マジメに授業に出ろ!」と言われ続けており、「マジメにやれ!」は無視する習慣が醸成されてしまっている。

言われたことをちゃんとやる優等生には「マジメにやれ!」と言って効果があるけれど、ほとんどの人はそうではない。宿題をサボっても中学を退学にはならないことを我々は知ってしまっているのだ。

そういうことで、「マジメにやれ!」は非常に効果が弱い言葉なので、相手に確実な対応を求めるために使うのはよろしくない。

というか、そもそも「マジメにやれ!」って大人が大人に使うとアホっぽく見える。カッコ悪いからメールに書きたくないのだ。


○○様
お世話になっております。フリーライターの堀元です。
1月に納品しました□□の原稿の原稿料の件ですが、未だにお振込みの確認が取れておりません。当初は2月末日までのお振り込みということでしたが、こちらはどうなっておりますでしょうか?
また、「3月5日」「3月15日」「3月25日」と確認のメールをお送りしましたが、こちらも一切ご返信が頂けてない状態になります。
必ず5月15日までにご返信ください。マジメにやってください

堀元


どうだろう。めちゃくちゃアホっぽく見えないだろうか。僕はこんなメールが来たら「こいつアホっぽいなぁ……」と思う。そして「無視しても大丈夫っぽいな」と思う。


しかし、これを大人の挨拶に書き換えるとこうなる。


○○様
お世話になっております。フリーライターの堀元です。
1月に納品しました□□の原稿の原稿料の件ですが、未だにお振込みの確認が取れておりません。当初は2月末日までのお振り込みということでしたが、こちらはどうなっておりますでしょうか?
また、「3月5日」「3月15日」「3月25日」と確認のメールをお送りしましたが、こちらも一切ご返信が頂けてない状態になります。
必ず5月15日までにご返信ください。
期日までにご返信頂けないようでしたら、支払いの意志がないものとみなし、法的措置を取らせて頂きます
どうぞ速やかなご返信を頂けますよう、よろしくお願い致します。

堀元


どうだろう。文章がグッと締まるのではないだろうか。これなら「あっ、無視したらマズそう」と思うだろう。

ちなみに、上のメールは僕が実際に送ったメールをちょっと変更したものだ。(僕はこの大人の挨拶をされる立場であると同時に、する立場でもあるのだ)

そして、これを送ったら割とすぐに返事が来た

3回もメールを無視するいい加減なクライアントでも割とすぐに返事をする程度には、大人版「マジメにやれ!」はすぐに効果が現れて便利だ。「速攻魔法!法的措置!」みたいな世界観である。


だから、大人は「法的措置を検討しています」を使うのである。京都人は「帰れ」と言わずにぶぶ漬けを出すという有名な都市伝説があるが、大人は「マジメにやれ」と言わずに「法的措置を検討しています」と言うのだ。


実例-NewsPicksからのメール

さて、ここまで抽象論を見てきたので、ここからは実例を見てみよう。

僕は、NewsPicksという経済ニュースメディアから「法的措置を検討しています」というメールをもらったことがある。


これは、僕が「【サバの話だったの?】WEEKLY OCHIAIというコント、あるいは地獄について。」というブログ記事を書いたことについてのお怒りメールだ。

この記事はどういう記事かというと、

NewsPicks内の「WEEKLY OCHIAI」という番組で、落合陽一氏がず~っと難しいことを喋っており誰もついてこれてないのに、皆が「分かったフリ」をしていて面白い。

という様子を描いた記事である。

途中で観客がポカンとした顔をしたり、飽きてスマホを見始めたりという様子についても書いた。

ちなみに、落合陽一氏の言ってることが難解すぎて書き起こして記事にするために12時間くらい再生を繰り返すハメになった。すごく労力のかかったブログ記事だ。


そんな僕の労力をねぎらうどころか怒っているNewsPicksからのメールをざっくり要約すると、

・お前のやってることは著作権侵害
・あと、観客を笑い者にするのヤバい。
・観客の部分だけでも消しなさい

ということである。そして、メールの最後には「法的措置を検討します」と書かれている。大人の挨拶である。


僕はこれを受けて、「はいはい、マジメに対応しま~す」と思いながら返信した。


僕の主張はざっくり言うと

・著作権侵害じゃなくない?適法な引用でしょこれは。
・「観客を笑い者にする」ってあなたの主観ですよね?今回取り上げた観客の一人はむしろ喜んでましたけど…。
・不愉快だった観客がいるなら観客から直接連絡してきたら?
・要するに、消しません

という感じである。返信はしているが、相手の要求には全然応えてない

でもまあ僕は99%訴訟は起こらないだろうと思っていたし、実際に起こらなかった。(しかし、僕のNewsPicksアカウントはBANされてしまった。有料会員だったのに……。あと僕の記事をきっかけにWEEKLY OCHIAIが見たくなりすぎてNewsPicks有料会員になった人が少なくとも10人観測されているので僕はNewsPicksにそれなりの利益をもたらしてると思うんだけどな……)


まあ、僕はぶっちゃけ「裁判になったらなったで面白いし、裁判費用は投げ銭を募ろう」と思っていた。しかし裁判は起こらなかったのだ。

つまり、NewsPicksの「法的措置を検討します」は大人の挨拶にすぎなかった。訴訟を起こす気なんてそんなにないけど、とりあえず書いておく。特に早くないけど、「おはよう」と言う。その程度のものである。


そもそも、裁判なんてめんどくさいものを好んでやりたい人など存在しないのだ。金もかかるし労力もかかる。それなりに大きなお金が絡まないと裁判なんてやり損である。

「相手は大企業。勝てば2億円取れる」とかならまあ「裁判やるか~」という気持ちにもなるだろうが、「相手は明らかに金のなさそうなブロガー(12時間かけて必死に落合陽一の発言を書き起こしながら数百枚スクショしている暇人には金はなさそう)。勝ってもほとんど何も取れない」だと、裁判などしてもしょうがない。

そういうことで、「法的措置を検討します」は毎日飛び交っているが、訴状はそんなに飛び交っていない。「法的措置を検討します」と言われても、昼下がりのコーヒーブレイクと何ら変わらない平穏なものだと思っておいてよい。


以上、「法的措置を検討します」は大人の挨拶なんだということを見てきた。


「5200万請求されるパターン」とかもある

この「大人の挨拶」には色々なパターンがある。善良な市民には「法的措置を検討します」でそれなりに効くけれど、慣れてきた人には効きにくかったりもする。あらゆる生物は刺激に対して鈍感になっていくのだ。

ということで、大人の挨拶には色々な変種があるのだけれど、例えば「金額とセットにする」などはよく使われる。


このまま対応頂けない場合には、対応の遅れによって生じる損害を貴殿に請求致します。この損害賠償額は150万円程度となる見込みです。
期日までに対応なき場合、前払いした予約金の返還に加えて損害賠償額の支払いも求めて法的措置を取らせて頂きます。


みたいなヤツ。お金の話が入るとグッとリアリティが出るし、本気度も伝わってくる。「ヤベッ!大金取られる」という感じも出るので、より切実に対応してくれそうだ。より強い大人の挨拶である。


そして僕は、これを一番極端にしたパターンみたいなヤツを食らったことがある。

なんと、その時受けた請求金額は「¥52,416,000」だった。5241万だ。このメールを見たときは思わず笑ってしまった。一軒家が建つじゃん。


この冗談みたいな5241万の要求に対して、僕は「2万6000円で許してください!!」と強気の値引き交渉をして、結局2万6000円になった

驚異の5239万円ディスカウント99.95%オフである。

99.95%の値引交渉はヨドバシカメラとかでも絶対できないだろう。10万円の冷蔵庫を50円で買う交渉をしようとしたらさすがに怒られる。どんなに教育が行き届いた店員であっても「あんた何言ってんの?」という顔をしてしまうことは間違いない。


ヨドバシカメラでも絶対に不可能な値引きが、「法的措置を検討します」では平気でまかり通る。この一事をとっても、大人の挨拶がいかにいい加減なものかがよく分かる。


実際のメールのやり取りや経緯を公開

ということで、以下では、この「5200万請求された事例」を具体的に見ていく。どういう相手からなぜ請求されたか、実際のメールのやり取りやその意図なども公開していく。

ぜひ「大人の挨拶」のケーススタディとして楽しんで頂きたい。

なお、バリバリ実名や実際のやり取りが出るので、以下有料となる。将来「法的措置を検討します」と言われる予定がある方や、将来5200万円請求される予感がする方は課金して読むといいと思う。

単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)がオススメだ。いつ定期購読を始めても、今月分の記事(4本)が全部読めるのでオトクだよ。


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