JASRACに著作権侵害メールをもらった経験から、彼らが忌み嫌われる理由を考える。
JASRACがTwitterアカウントを開設した。
JASRAC(日本音楽著作権協会)といえば、古来からインターネットでゴキブリより嫌われている存在としてお馴染みだ。往年の2ちゃんねるでは「カスラック」という蔑称が広まり、今でもTwitterでそう言っている人が少なくない。バズったコンテンツはすぐに忘れられるけれど、憎悪はなかなか忘れられない。インターネットは巨大なヘイト貯蔵庫だ。
広いインターネットを見渡せば、真偽不明の「カスラック」エピソードがいくらでも転がっている。自分の書いた詩を自分の本で引用したら著作権料を請求されたみたいなものとか、鼻歌に対して著作権料を請求されたみたいなのもある。0.2秒でウソだと分かるものから、「ありそう…」と思わせるものまで様々だ。
僕個人としてはJASRACは特に好きでも嫌いでもない。インターネットで根も葉もない悪口が飛び交うことは身をもって知っている。JASRACは実際には極悪団体ではないし、ゴキブリのように忌み嫌われるべき存在でもないはずだ。それなりに真っ当に著作権料を徴収し、それなりに真っ当に著作権者に配分しているはずだ。
だから、JASRACのアカウント開設にさしたる興味はなかった。好きでも嫌いでもない……はずなのだが、ここ数日は本当に大笑いさせてもらい、JASRACのアカウントの虜になってしまった。好きでも嫌いでもなかったJASRACが大好きになった。
憎悪の博物館としてのJASRAC
なぜ大笑いしてしまったのか。まず、JASRACのアカウントが予想を遥かに上回るヘイトを集めていたからだ。これほどまでに人間の憎悪が爆発するリプ欄を、僕はなかなか見たことがない。
しかも、数が多いだけでなくバリエーションも豊かである。幅のあるヘイトのラインナップで、さながら憎悪の博物館といった趣があった。
一番多いのは単に「銭ゲバ」というようなもの。
その変化形で「Twitterでも金を取るんだろ?」みたいな皮肉もある。
あと、「お前らのせいで街中から音楽が消えた!」と怒ってる人もいる。
「音楽を不正利用でかけている人が少なくなった」というのはJASRACがちゃんと仕事をしてることの証左なのだが、なぜか悪者呼ばわりされているのが興味深い。
それから、過激派もいる。
すごい。「著作権とかは存在するな」という人が出てきた。著作権が消滅したら本当にすべての作曲家が食えなくなりそうだが、この人はどう考えているのだろうか。どちらかというと、街中から音楽が消滅するのはこの人のせいだと思う。
あと、シンプルな罵倒もある。
全部ひらがななのがポイント高い。「かえれ」、脊髄反射で出た罵倒という感じで趣深い。熱いものに触れたときだけでなく、JASRACがアカウントを開設したときも脊髄反射は起こるのだ。
JASRACの精神は既に神の域に達している
とまあそんな調子で、JASRACは開設1日で古今東西のあらゆるヘイトを集めきったようだった。
僕は、アカウント管理担当者もさすがに慌てているだろうと思った。もちろん、JASRACは昔からネットで悪評をぶちまけられるのに慣れている。だからヘイトが集まっていることは想定内だろうけど、それにしてもこの規模は予想を超えているはずだ。
普通の人間であれば、「うわっ!叩かれるとは思ってたけどここまでとは思わなかった!悪目立ちしないように頑張ろ……」となるはずである。
しかし、JASRACはそうではない。そんな庶民感覚は持ち合わせていない。おもしろいのはここからだ。
翌日、僕の度肝を抜くツイートが放たれた。
このツイート、本当にすごい。ネット民の感情を逆なでする要素が全部詰まっている。
まず圧巻なのはこの写真。
「ココ!」じゃないのよ。お前昨日めちゃくちゃ叩かれてたんだから、もうちょっとテンション下げろよ。
っていうか、「銭ゲバ」と言われているのに、なぜわざわざ豪華な最上階の部屋の写真を上げようと思うのか。ウソでもいいからもっと質素な部屋の写真にしようよ。
案の定、リプ欄は再びヘイト博物館と化した。
こうなってくると、もうわざとやっているとしか思えない。
最初は「JASRACの人、理不尽に叩かれてかわいそうだな~」と思っていたが、これは計算ずくのSNS運用なのだ。ネット民のヘイト博覧会を見事にやってのけることで、インターネットウォッチャーの歓心を買っている。
JASRACのアカウントを見て「自分がどう見られるか分かっていない!無神経だ!」と言っている人がいるが、これは見当違いの意見である。どんなに無神経であったとしてもこれだけヘイト一色のリプ欄を見て気にならないワケがない。
むしろ逆だ。JASRACのアカウント運営者はSNSを熟知しており、それゆえにヘイト博覧会にも動じずにいられる。ヘイトを逆手に取ってコンテンツとして昇華しようという胆力さえも持ち合わせている。JASRACの精神は既に神の域に達している。ツイートを見た僕はこの顔になった。
どうだろう。その前提に立ってみると、この「ココ!」すべてが絶妙で大笑いできないだろうか。
謎にカタカナなのも腹立つし、テンションが妙に高いのも腹立つし、ダサい赤(#FF0000)なのも腹立つ。すべてにおいて完璧な塩梅だ。ヘイトを集めて遊ぶのに最適化されている。技術がすごい。
ヒトラーはその演説技術で歴史に名を刻んだ。彼のスピーチは「最初は小さく、徐々に大きく」というクレッシェンド的な演説だった。消え入りそうな声で語り始め、最後はあらん限りの力で叫ぶ。それが熱狂を生む。
スピーチの基本は抑揚だ。一本調子の喋りは観衆を飽きさせる。そういう意味で、JASRACのアカウント運用も理想的である。最初は静かに「アカウント開設しました」という報告をして、翌日に「ココ!」だ。観衆はそれで熱狂する。JASRAC内部にはヒトラーに似た手練れがいて、アカウントを運用しているに違いない。
僕にもJASRACからの請求は来ている
……とまあ、あまりにも面白かったのでJASRACのTwitterアカウントの話を延々してしまった。
このマガジンのウリである「表に出せない話」はまだ一切していないので、ここからは僕の体験談に移ろう。
僕はインターネットにコンテンツを垂れ流して生きている人間として、当然ながらJASRACと無縁ではいられない。
実際、JASRACから「お前、金払えよ」的なメッセージをもらったことはある。
その体験を通して、「なるほど。JASRACの根も葉もない悪評はこうして立つんだなぁ」と感心したものである。
だから、有料部分ではその体験について書いてみたい。JASRACから実際に来たメッセージをじっくり見ながら、なぜ悪評が立つのかについて分析してみよう。
ということで、以下有料になる。単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)がオススメだ。いつ入っても今月書かれた記事は全部読める。1月は5本更新なのでバラバラに買うより3倍オトク。
JASRACから来たメール
去る2022年6月、JASRACからメールが来た。
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