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アリストテレス『詩学』を使って、無のインフルエンサー志望をバカにする。彼は「膿を注射する医者」だ。

インフルエンサー志望者の寿命は短い。

彼らは元気よく「会社辞めてブログで食っていきます!」と宣言するものの、たいていは辞めてから1年くらいで元気がなくなり、インターネットから消滅してしまう。

露と落ち 露と消えにし わが身かな なにはのことも 夢のまた夢

と辞世の句を詠んだのは豊臣秀吉だが、これは豊臣秀吉よりもインフルエンサー志望者にピッタリだと思う。僕はネットから消滅していくインフルエンサー志望者を見る度にこの辞世の句を思い出す。

豊臣秀吉は自身の60年ほどの生涯を「露と落ち、露と消え」たと表現した。この世に生まれ落ちてから消えていくまでは水滴のような儚さであると、天下人になった豊臣秀吉すらも感じていたのだ。これは実に感慨深いものがある。示唆に富んでいてとても良い辞世の句だ。


だが、インフルエンサー志望者の儚さは豊臣秀吉の比ではない。何しろ彼らは、ほんの1年くらい「○○で世界を変えます!」とか大騒ぎして何も残すことなく消えていくのだから、彼らこそまさに「インターネット露(いんたーねっとつゆ)」と言うにふさわしい存在である。

そういうことで、僕は無のインフルエンサー志望者がSNSからいなくなる度に「露と落ち、露と消え」たなぁ…と思って眺めるのである。露と消えていったインフルエンサー志望者の事例は以下の記事などに詳しい。


さて、そんな「露と消え」る人が多いインフルエンサー志望者の中で、たまに開き直って逆ギレをする人がいる。露と消えるまえに一花咲かせてやろうという発想だろう。

先週、Twitterを一瞬賑わせたアカウントもその一つだ。「高学歴貧困層なので笑ってください」なるアカウント。

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(スクショはこちらより引用)


ざっくり言うとこういうアカウントである。

・早稲田大学新卒→三菱UFJグループに入社
・ちゃんとサラリーマンとして頑張っておけば順風満帆な人生だった
・イケハヤ氏やマナブ氏などのブロガーに踊らされて会社を辞めた
・でも全然稼げないし今はバイトやUber Eatsの配達員でなんとか食っている。惨めだと感じている
・イケハヤ氏、俺の人生を返せ


僕はこれを見て「おっ、世界にまた一つインフルエンサー志望者の屍が増えたな」と思いながら、楽しく観測していた。インターネット露として消えていくよりは、こうして暴れて死んでくれた方が見応えがあって面白い。

こう思うのは僕だけではないらしい。「おっ、珍しく派手に死ぬヤツが出現したぞ」ということで、Twitterは一時盛り上がった。フォロワーは一気に8000人を越えて、他人の不幸という蜜に群がるミツバチや、単にイケハヤ氏の悪口を見たい人などから圧倒的な人気を博した。


「すべての真実をお話します」宣言、膨らむ期待

フォロワーが激増した翌日、彼は「今日の20時にすべての真実をお話します」というすごく面白そうなツイートをした。

僕は「えっ、なになに!?そんなにアッと驚く真実があるの???」と期待した。

実は彼の正体は前澤友作で「高学歴貧困層ではなく低学歴富裕層でした〜☆」とかそういうことなのかもしれない。

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(画像引用元:東洋経済オンライン


だとしたら僕は今年一番爆笑すると思う。これは見事なネタバラシであり、夢にも思わなかった結末だ。前澤社長、「どうも!低学歴富裕層です!」ってぜひ言って欲しい。持ちネタにして欲しい


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(画像引用元:デイリー


ということで、20時をものすごく楽しみに待った。さすがに「実は前澤友作だった」まではいかなくても、「実は不動産王だった」とか「実はまだ中学生だった」ぐらいのインパクトは欲しい。もしくは別パターンで「ツイートに仕込まれた暗号を解くと監禁されている人のSOSのメッセージが浮かび上がる」とかでもいい。何があるかワクワクするばかりだ。


そして訪れる20時

20時、楽しみが最高潮に達したところで、彼から出てきたツイートがこれ。

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(引用元ツイートはこちら


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(引用元ツイートはこちら


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(引用元ツイートはこちら


なるほどなるほど。彼の主張はこうだ。

・高学歴貧困層なのはホント。ブロガーになるために会社辞めたのもホント。
でも、インフルエンサーに騙されたとは思ってない
・ブロガーとして頑張っていきます!


なるほど〜……。


うん、全然面白くないな。


エンターテイナーが「期待値を下回る」ということは往々にしてあるが、ここまで期待値を下回った事例はちょっと記憶にない


僕はこの面白くなさに驚いたのだが、それ以上に驚いたのが彼のイキりっぷりである。

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(引用元ツイートはこちら


むちゃくちゃイキっているのが文面からバシバシに伝わってくる。

「高学歴貧困層の激白」は、全て私「ツチヤミ」が「企画」したものです

このカギカッコの使い方、イキりの見本という感じがして本当に味わい深い。

TEDスピーカーばりに長い間を取りながら「ツチヤミ」「企画」と単語を1つずつ強調して喋ってるのが脳内再生される。


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(画像引用元:James Duncan Davidson/TED


彼は全然面白くないウソをついて見世物として注目されただけなのに、なぜか鬼の首を取ったようにイキっている。


電通案件でもなければ、プロマーケターも絡んでいません


この一文からは「どうだ?プロの仕業だと思っただろ?鮮やかな企画だろ?」というイキりが溢れている。

このツイートを見た瞬間に確信した。彼は僕の大好物だ。自分を客観視できないせいで、無価値なゴミを宝物だと錯覚してイキリ倒してしまうタイプの人だ。


ということで、今日は彼について書く。

単に彼の評価を書くだけだと「全く面白くないのに鬼イキり」の13文字で終了してしまうので、適宜知的な文献などと組み合わせてバカにしていこうと思う。

主に、アリストテレス『詩学』を活用する。この本はアリストテレスが創作について書いた本であり、ツチヤミ氏がなぜつまらないのかを完全に説明してくれる


僕のマイルールに「バカにする対象がしょうもない時ほど、引用する文献を高尚にする」というのがある。深い闇を照らすためには強い光が必要だ。

今回の対象であるツチヤミ氏はしょうもなさすぎるので、僕がいつも多用するシェイクスピア進化生物学では足りない。もっと高尚なものじゃないと。

そういうことで、アリストテレスに頼ることにした。彼は恐らく、人類史上最も学問の発展に貢献した男だろう。アリストテレスという最強の光を使って、ツチヤミという最強の闇を照らす。お付き合いいただきたい。


ここからは有料になる。単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)がオススメだ。いつ入っても今月書かれた記事は全部読める。定期購読をすると大好評だった「【実名あり】イケてる起業家風の詐欺師を紹介」シリーズも読めるので、今月はたいへんお得になっている。ぜひこの機会に定期購読を検討されたい。

なお、有料部分を読むとタイトルの「膿を注射する医者」の意味も分かる。(分かっても別にあなたの人生に良いことは1つもない)


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