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【読書メモ】CRM顧客はそこにいる

ここ最近、
「最高の顧客体験を提供しよう。その顧客体験の『点』を積み重ね『線』にしよう。顧客との長期的な関係性を大切にしよう。」
改めてその重要性が叫ばれているように感じます。

実際、カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」でも冒頭の第一章で「リテンションモデルへのシフトが不可避」と強いメッセージを発しているのが印象的です。

そのような背景もあり、当社もカンファレンスを開催させていただくことになりました。(手前味噌で恐縮です。)

ただ、このような概念の根底は以前から叫ばれていたように思います。「CRM」がまさにそれです。自分も本書を読むまで誤解していましたが「CRMとはLTVを最大化させるための戦略概念のこと」を指します。

今から20年前の本ですが、今読み直してみても全く古く感じない教科書のような存在です。今でも定期的に読み返しています。

儲かる顧客を重視する必要性

顧客満足活動(CS)活動には経営の観点から陥りやすい罠がある。顧客満足度を高めるために、儲からないうるさい顧客を丁寧に扱い、儲かる客が去ってしまうことが。一般に20:80ルールで知られるように企業の収益の8割を生み出すのは少数の上位顧客である。儲かる顧客を大切にしなければならない事は想像に難くない。

儲かる顧客とは

・1.直接的利益顧客:顧客の生涯にわたる時間軸の中で多くのサービスや高額のサービスを買ってくれる、直接収益に貢献してくれる顧客
・2.紹介利益顧客:口コミによって上顧客を連れてきてくれる顧客
・3.学習利益顧客:将来トレンドの予測、先進技術の開発につながるニーズを教えてくれる顧客

顧客ニーズの曖昧化

顧客のニーズは曖昧模糊になっている。かつての少品種大量生産では各顧客のニーズに応えることができなくなってしまった。ニーズのタイプを年齢・性別といった基本属性で分けることができなくなってしまった。

企業は細分化されるニーズに応えるため多品種化に踏み切ったが、それにより顧客は購入判断に時間をかけることができなくなってしまった。そのため関心の低い商品サービスには「どうでもいい」かのような態度を取るようになった。

ニーズが曖昧だからこそ顧客には6パターンの価値を出すことを検討せよ

ニーズが曖昧だからこそ、必要な時期に、自分に必要なものを作り、探し、推奨してもらえれば助かるし、自ら探す場合もコンタクト先が1つで済めば楽である。

・1.カスタマイゼーション
顧客の嗜好、消費パターンを記憶して、商品・サービスをニーズに合わせて作る、組み合わせる。

・2.ワンストップ
顧客ニーズに関連する商品・サービスを一箇所で提供する。

・3.マッチング
中立かつ客観的な視点で顧客ニーズにあった商品・サービスを探す。
例)自分のお気に入りの俳優・歌手の名前を登録しておくと、番組データベースから出演者を検索し、チェックすべき番組を出力してくれる

・4.ジャストタイミング
顧客にとってふさわしいタイミングで商品・サービスを提供する。
例)佐野屋は、20年前から顧客管理システムを導入し、住所・名前といった情報だけでなく、購買する米の銘柄、購買量、頻度等を管理している。佐野屋でお米を購入すると、その購買時期と量が記録され、ちょうどお米が切れそうだという時期に販売員が家庭を訪問してくる。

・5.レコメンデーション
顧客の嗜好・消費パターンに応じてニーズに合う商品・サービスをピンポイントで提供する

・6.メタプロダクト
消費者の背景を理解した上で、顧客の目的実現のために全ての商品・サービスをセットで購入する。

例)米国では、子育てに関して情報を提供してくれる人が身近に居ない場合が多く、ペアレンツプレイスでは、子育て関連製品だけでなく、子育てに必要な情報やサービス全てを提供している。例えば、親の悩み事別の電子会議室など

LTVの最大化

CRMは既存顧客の囲い込みが唯一の目的であるとしばしば誤解されている。そうではなくCRMとはLTVを最大化させる戦略である。おもに4つの軸がポイントとなる

・1.個客シェア:他社のシェアに比べて自社のシェアがどれだけ食い込んでいるか。同じサービスを同じ顧客にもっといっぱい浮気せずに買ってもらえているか。またそれを把握できているか。

・2.商品範囲:顧客のニーズやウォンツを満たす品揃えがあるか。企業側の論理で品揃えをしていないか。

3.顧客時間:顧客の望むタイミングでサービスが提供されるか、購入後のアフターも含めて継続的な関係を築けるか。一度売れたら終わりにしていないか。

4.顧客範囲:誰に売れたかをきちんと把握できているか、既存顧客だけでなく潜在顧客も見ているか。

1.個客シェア向上事例:スルガ銀行

スルガ銀行にとっての優良顧客はお金を借りてくれる個人ローン客であった。1億円の定期預金客より、車好きの貸し倒れしなさそうな企業勤めの若者を大切にする「高級サラ金化戦略」をとった。顧客情報(主に年収情報)を獲得するためにクレジットカードの自社発行に踏み切った。こういった顧客情報を接点に状況や時機にあった商品をオススメした。車の買い替え時期に資金のなさそうな顧客に対してはオートローンを、逆に資金に余裕がありそうな方には外貨預金運用を提案した。結果このようなクロスセルが実施され顧客当たりの提供商品数が向上した。

4.顧客範囲事例:ベネッセ

ベネッセでは家庭内での意思決定者である主婦を軸にした事業展開を行っている。とりわけ「中高生向けの進研ゼミ」から「学童児童向けの子どもチャレンジ」への事業拡大は秀逸な戦略事例である。

しまじろうを使った「こどもチャレンジ」のDMは子供が2~3歳の頃から送られてくる。子供の好きなシールやぬりえが満載のカラフルなDMが入会せずとも数ヶ月に一回は送られてくる。少なくとも子供が大ファンになる。ついに入学直前に入会促進DMが届く。しまじろうファンの子どもに泣きつかれた母親としては「3000円くらいなら…」となる。

妊娠期からたまごくらぶ、誕生後のひよこくらぶとつなぎ、主力である「こどもチャレンジ」に誘導するという戦略は見事だ。

バランスを考えた戦略的セグメンテーション

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ニーズがあいまい化する中で、より精妙なセグメンテーションが求められている。しかし細かくすれば良いという問題ではない。顧客を細かなニーズごとにセグメントしサービスを提供できれば売り上げは上がる。しかしながらその一方で、小さなセグメント向けにサービスを開発・提供するコストも上がるのだ。したがって売り上げ効果と提供コストが最もバランスのいいレベルでセグメントを切る必要がある。

セグメントのためには「買いモード」顧客を見つけること

どうせ人や企業は押しても買わないため、買う気になっている客を効率的に見つけ、「タイミングをうまく測る(タイミングセグメンテーション)」か「その客が行う情報収集をお手伝いをすること」が必要。

自動車ディーラーセールスでは「自社から車を買おうとしている人」を判断する事が大切となるため、その判断に必要な情報を取得することが有効である。例えば「最近中古車雑誌を買い始めた人」はターゲットになるだろう。

セグメンテーションを実行するのに陥りやすい罠

・既存の顧客情報を活用できているか。未活用のまま終わっていないか。
・顧客の意向情報は「強い意向」を取り入れなければならない。アンケートでも「使いたい」の声ではなく「非常に使いたい」の声だけに耳を傾けるべきである。
・セグメントごとの差別的アクションが取れているか。

CRMに向いている業界、向いていない業界

下記に該当する業界はCRMに向いている。例えば食品メーカーは向いていない。

・顧客との情報接触が容易
・顧客との物理的距離が近い
・顧客ニーズが多様
・商品・サービスのカスタム化が容易
・顧客との関係性が継続的
・コスト負担能力が大きい

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CRM事例:製薬業界

医薬品は通常、製薬メーカーから医薬卸しを経て、調剤薬局に納入される。その意味では医薬卸が直接の顧客となるが、実際には医師が自社の医薬品を処方してくれるか否かが全てを握っている。したがって製薬会社は医師に対する営業系人材のMRの配置に重点を置いている。

成功するMRの共通点

顧客インサイトをしっかりと捉えた上で医師の理解を高めながら最終的に処方の決断へと導き、同時に医師との信頼関係を構築している。
要はそれぞれの医師を個客とみなし、医師の専門とする領域や患者の特性を知る、処方動機や医師間ネットワークの情報を抑えることが必要となっている。加えていつどんな情報を提供し、その反応はどうだったのか、といった活動履歴情報をしっかりと抑えておくことが必須である。
それによって「MRとして認められていない状態」→「MRとして認められる状態」→「医療パートナーとして信頼を置かれている状態」に成長している。

営業支援ナレッジマネジメントとしてのSFA

どの医療機関・医師に対してどのくらい活動し、その結果どのような状態になったのかをSFAで管理した。またMRが困難に直面したときに同じような前例やベストプラクティスを調べられ、全国に散らばるMRに相談できるという、ナレッジマネジメントの仕組みをSFAに融合させた。

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