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「沖縄世(うちなーゆ)」 沖縄の中の日本の中の世界

年末、地元の忘年会でシアターリミテの中の人に会い「劇団チョコレートケーキ」をぜひ観ておくように勧められた。社会派の作風で数々の演劇賞も受賞している実力派の劇団だ。きほんエンターテイメント色の強い公演が好きな自分だが、素直な性格なので一度見ようと考えていた。

年明け、そのチョコレートケーキの団員であり劇作家の古川建氏が脚本を手がけた舞台があると知った。秀作をコンスタントに世に送り出すことで知られるトム・プロジェクトのプロデュース公演「沖縄世(うちなーゆ)」だ。

https://www.tomproject.com/peformance/okinawa.html

大好きな沖縄をテーマにした作品。そして1972年の返還前後を描くという。この時代には特に興味がある。だから「琉神マブヤー」でも「琉神マブヤー1972レジェンド」が一番好きだ。

しかも島田歌穂が出ているではないか!これだけ自分の関心を引く条件がそろったら、もう観ないわけにはいかない。ということで池袋の東京芸術劇場に足を運んだ。

物語は沖縄返還がまさに実現しようとしている1972年に軸を置き、沖縄戦や戦後の悲しい記憶を呼び起こしながら進む。その中心にいるのはひとつの家族だ。強く、たくましく、前向きに生きる妻と、占領軍である米国や、その顔色をうかがう日本政府を相手に、一歩も引かずに戦った不屈の政治家である夫。沖縄のたどった運命を、あくまで家族の物語として描いていく。

この政治家「島袋亀太郎」は、言うまでもなく不屈の男として知られる瀬長亀次郎をモデルにしているが、この話はあくまでフィクションだ。だが、そこに登場する戦中・戦後の様々なエピソードは事実に基づいている。

瀬長亀次郎については、小林よしのりの「沖縄論」にかなり詳しく描かれている。自分もそこで読んで興味を持っていた。今回、この「亀太郎」を演じたのは下條アトム。闘志は内に秘め、おだやかな口調で人々に語りかけるその姿は実に印象的で、「沖縄の男性」のイメージの象徴でもある。

その妻「島袋俊子」を演じているのが島田歌穂だ。戦後の混乱期に、生きるためには密貿易だろうと何だろうととにかく行動し、必死に家族と社会を支えた女性。架空の人物だが、当時沖縄で多くの密貿易が行われていたことは知られている。どんな状況でも明るさを忘れず、「なんくるないさ」と困難をはねのける強さは、やはり「沖縄の女性」のイメージそのものである。カチャーシーを踊りながら、歌声も披露してくれたのは嬉しかった。

そんな登場人物たちが切々と訴えかけるのは、身近な人への想い、自分たちを育んでくれた郷土への敬意。それを歴史ドラマのタッチではなく、あくまで家族目線、ホームドラマとして描くことで、ひとつの気づきを与えてくれる。

それは沖縄に特別なことなのか?

違う。日本人の誰もが持っている、自然な感情だ。いや、日本だけではない、世界中の人々が持っているはずの感情。そして、現代において失われつつある感情、さらにポピュリズムや社会的分断によってゆがみつつある感情である。

沖縄の歴史に目を向け、沖縄の人々の声に耳を傾けるうちに、人はそうした自然な感情、本来の生きる姿勢を思い出すことができる。つまり、沖縄の中に日本があり、世界がある。

「沖縄論」のあとがきで、小林よしのりはこう述べている。

「沖縄こそが日本であり、漢心を許容し、西洋化された本土の方が辺境である」

かつて岡本太郎も「沖縄文化論」の中で

「沖縄にこそ日本文化の純粋で強烈な原点がある」

と述べていた。

沖縄の話題を出すと、とにかくイデオロギーに結び付けなくては気が済まない人が多い。そういう人たちは、一度も沖縄に行ったことがないのだろうな、と思う。その地に足を踏み入れ、人々と交流すれば、そこにはイデオロギーなんて色あせて見えるほどの、圧倒的な「真実」がそこにあるというのに。

この舞台は、沖縄を色眼鏡で見るのではなく、その真実をまっすぐに見通す限りなく透明な眼鏡を観客に与えてくれた。観劇後の爽快感はさながら沖縄の海辺で感じる温かくも清涼な風のよう。ぜひ多くの人に観てほしい快作だ。

ところで、劇場で配られたリーフレットに、古川建氏はこういう言葉を寄せていた。

「20代の頃、家族旅行で沖縄を訪れたことがあります。(中略)国道は広大な米軍基地に挟まれました。右を見ても左を見ても、カーナビを見ても、そこにはだだっ広い基地しかありませんでした。(中略)あの時、良く晴れた南の島で見た基地の光景と、その時感じた違和感を私は一生忘れないような気がします」

そう、この違和感。自分も初めて沖縄に行ったどき、これを強烈に感じた。「まだ戦争は終わってない」とも思えた。だって占領されてるんだもの。高速道路に「流れ弾注意」なんて書いてある。これが自分の暮らしている日本の国内なのか?

自分はほぼ毎年のように沖縄を訪れているが、その違和感を忘れないように、戦跡はもちろん、観光ガイドに載っていないところに必ず立ち寄るようにしている。陸上自衛隊那覇駐屯地では、ジオラマを使った沖縄戦について学ぶことができるし、今なお連日不発弾処理に出動しているという話も聞ける。

そのときのブログ

http://kingdom.cocolog-nifty.com/dokimemo/2011/09/post-691a.html

また現在、創価学会沖縄道場になっている場所は米軍の核ミサイル基地だった。そこで撮った写真。中は撮影禁止だが、「メース基地」の内部がそのまま保存されている。

どちらも事前に連絡すれば快く見学を受け入れてくれる。

また沖縄に行きたくなってきた。

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