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~今でも、心に残るお店~ とにかく変なお客が集まるお店

とにかく、くせのある客が集まる店だった。

僕はこの店を、不倫天国と呼ぶこともあった。
半数以上の客が不倫カップルか何をしているのかわからない人、めちゃめちゃ変わった人達が集まっていた。
そして、残りがまともな人。
本当かどうかわからないが、誰もが知っていて、誰一人として想像もできないものを売っている人もいた。
もはや、合法なのか、違法なのか、それすらもわからない。

僕がこの店を知ったのは大学生の時だった。
両親に連れて行ってもらったのがきっかけだった。
勿論、僕の家族は、その残りの部類に間違いなく入っている。

その店は、一品料理屋だった。
とにかく、美味しかった。
そして、田舎者の僕にとって、マスターのおもてなしはとてもおしゃれに見えた。
お茶を頼んだ。
直径25センチ位だろうか、器に、かき氷のように細かい氷が敷き詰められ、その上に、ガラス製の徳利とうすはりグラスが立っている。
その中に、マスターのブレンドした抹茶と煎茶のお茶が入っている。
器のほとんどのスペースは無駄である。
もっと小さい器でもことは足りる。
しかし、今風に言うと映えていたのだ。
いまだに、お茶をこんなふうに提供された事は無い。
今でこそ、完熟マンゴーというものは、世の中に知れ渡ったが、それ以前に、この店には完熟マンゴーがあった。
そして、完熟ピオーネというものもあった。
山奥で、おじいさんが作っているそうなのだが、完熟マンゴーのように、葡萄が勝手に落ちるまで収穫しないのだそうだ。
明日、葡萄が落ちそうなので取りに来いと連絡があるそうだ。
すでに、桃太郎ぶどうもあった。
テレビで紹介される、何年も前のことだ。
違法だが、自家製の梅酒も販売していた。
通常の梅酒と違い、コニャックを惜しげもなく使って漬けていた。
もちろん、お肉や魚も、素晴らしい素材であった事は言う必要もない。
社会人になり、次第に、僕は、1人でこの店に通うようになった。
お店は、僕が住んでいる場所より田舎にあった。
しかし、噂を聞いてか、お店は、大盛況だった。
誰もが知る企業の社長、当時、現役だった大関なども見掛けることがあった。


しかし、大盛況は長くは続かなかった。


数年後、いろいろ事情はあったと思う、客足が少なくなっていった。
ある日、夜10時位にお店を訪れた。
そこには、不倫カップルもわけのわからないものを売っているお客も誰1人いない。
その日のお客は僕1人だったのかもしれない。
でも、相変わらず、お茶を頼むといつものスタイルで提供してくれた。
正直、洗い物も増えるし、めんどくさかったことだろうと思う。
そして、モチベーションもなかったことだろう。
僕は、この店で、常に、最年少のお客だったと思う。
僕より年下のお客は親子連れ以外では見たことがなかった。
だからかはわからないが、僕は、このマスターに気に入られてたと思う。
この店で、 7000円以上払った事は無い。
おそらく、ずっと、僕だけ特別な値段だったのかもしれない。

しばらくして、お店は、少しずつ客足も戻り始めていた。
しかし、とある事情で致し方なく閉店した。
今、マスターは、あるところでお店をしている。
それなりに、うまくいっているみたいだ。
僕が、食の世界に興味を持つきっかけを与えてくれたこのマスターに、また、会いたいものだ。
そして、常に、優しくしていてくれたことにお礼を言いたい。

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