Morning Music Variations モーニングミュージック変奏曲
Bandcampで公開中の自作のオーケストラ楽曲『モーニングミュージック変奏曲』について、簡単に解説します。
Bandcampのプレイリストはこちら。
解説するにあたって本当は楽譜が用意できたらこの上ないんですが、さすがに打ち込み用のデータをもとにキレイな楽譜を作成するのは大変なので、かわりに MIDITrail でMIDIアニメーションを作りました。
少しだけ、音の流れがわかるようになっていると思います。
コナミ・モーニング・ミュージックの主題による8つの変奏とフィナーレ
本作品は古典派・ロマン派クラシックの形式に則ったオーケストラのための変奏曲で、変奏主題としてコナミのレトロゲーム筐体・バブルシステムの起動時に演奏されるBGM「コナミ・モーニング・ミュージック」の旋律を用いています。
コナミ・モーニング・ミュージックはバロック音楽風のBGMで、バッハの小品かのような親しみやすいメロディを持ち、ゲームミュージックファンの間でも昔から人気の高い楽曲です。
バロック・古典などの古い時代の旋律を後の時代の作曲家が変奏曲に仕立て上げる、という趣向はクラシック音楽ではよくみられるもので、有名なものとしてはブラームス『ハイドンの主題による変奏曲』『ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ』など、古典「風」の創作主題による変奏曲としてはチャイコフスキー『ロココの主題による変奏曲』など、近代風のアレンジを施したものとしてブリテン『青少年のための管弦楽入門』レーガー『モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ』など……枚挙にいとまがないですね。
モーニングミュージック変奏曲は擬ロマン派クラシックの楽曲として、この「過去の時代の旋律に基づいた変奏曲」の形態を模しています。「擬バロック音楽を元にした擬ロマン派の変奏曲」として既存のバロック風楽曲を扱った作品を作る、というのが本作のコンセプトです。
以下、モーニングミュージック変奏曲の内容について触れていきます。
楽器編成
一般的な二管編成に準ずる。
フルート2, ピッコロ1
オーボエ2
クラリネット2
ファゴット1, コントラファゴット1
トランペット2
ホルン4
弦五部
ティンパニ, トライアングル
各変奏について
Theme Moderato
原曲より少しゆったりとしたテンポ。
(原曲のモーニングミュージックはのびやかなメロディーのようで意外とテンポは速い)
あんまりきびきびとしたハイテンポだと変奏曲の主題としては収まりが悪いので、Andanteぐらいのゆったり感でもいいとは思ったけど、あまり原曲から乖離しすぎないようにしました。
オーケストレーションは繰り返し部分含め概ねキーボードマニア収録のアレンジ版を基にしている。1分程度の主題の中で特に重要な動機は、2-3小節目の"G-A-B-G-C" および 8-9小節目の "B-C-A-G-G" で、この二つの音型は各変奏のあちこちに登場する。
I. Piu allegro
オーケストラの各セクションが交互に登場し、やがて溶け合ってオーケストラ全体で主題前半部分を演奏する。原曲のモチーフを分解・再構築しながらも、原型を多く残した変奏。
II. Un poco sostenuto
コントラバスを除く弦楽器のみによる変奏。
中音域にフォーカスするためにハ長調に転じている。ヴァイオリンの最低音Gから開始し、途中のさらに低い音域はヴィオラが旋律を受け持つ。
この変奏から "C-D-F-E" のいわゆるジュピター音型が各変奏の中に姿を見せるようになる。なぜジュピター音型が出てくるのかは第5変奏で説明します。
III. Giocoso
管楽器とトライアングルによる変奏。
細かいパッセージと同音連打が主体の即興的なスケルツォ、あるいはトッカータ。お遊び要素として、『魔弾の射手』序曲の終盤部分のバス音型や、『幻想交響曲』第2楽章の曲の閉じ方を真似ている。
IV. Con moto
高弦のレガートがフルートのアルペジオに乗って流れる。
中間部では木管楽器を加えた主題動機 "G-A-B-G-C" の掛け合いがはじまり、カノンを形成している。
その後冒頭のレガートとアルペジオが回帰され、アタッカで第5変奏に続く。
V. Meno mosso cantabile
冒頭で提示される "G-G-A-C-B" は、変奏主題 "B-C-A-G-G" の逆行形になっている。この逆行形によるカンタービレは『パガニーニの主題による狂詩曲』の反行形による間奏曲のオマージュ。
中間部に現れる1st ヴァイオリンによる "G-D-F-E-D" も主題動機 "G-A-B-G-C" の逆行形をニ長調にしたもの。
なお、逆行主題 "G-G-A-C-B" は内部に "G-A-C-B"(→ハ長調にすると "C-D-F-E")を含んでいる。このことからジュピター音型をこの変奏曲の派生主題動機とみなし、各変奏で度々登場させている。
VI. Vivace
第3変奏と同じくスケルツォ的だが、こちらは短調でアグレッシブな性質の曲想。
ドヴォルザークの交響曲などにみられるフリアントや、イタリア交響曲のサルタレッロ、後期ロマン派交響曲(ブルックナー, エルガー, リヒャルト・シュトラウス etc…)のスケルツォなどをイメージしている。
"G-A-B-G-C" の主題動機のほか、主題低音部のルートの動き "B-G-A-F-G-C" がたびたび現れるが、全体としてはもっとも原曲からかけ離れた音遣いになっている。ある意味 Giocoso の第3変奏よりも勝手気ままな変奏。
VII. Grazioso
第7変奏は躍動的な第6変奏とは対照的な、落ち着いた雰囲気のシチリアーナ。
ただ、前曲からの短調・舞曲調を引き継ぐ形にもなっている。さらには、シチリアーナはこの後の第8変奏の形式=パッサカリアと時代を共にしている古い形式の舞曲でもある。
中間部に木管楽器による変奏主題後半の上昇 → 下降音型の変奏が現れる。
この主題後半の音型は他の変奏にうまく組み込めず、この終盤近くでようやく目立った見せ場を作ることができたんですよね。
全体的なムードは『リュートのための古風な舞曲とアリア』のシチリアーナに近い。ラストの弦楽器ソロとtuttiとの掛け合いには同組曲のパッサカリアのオマージュも混じっている。
VIII. Allegro non troppo
バロック以前からの音楽であるシチリアーナに引き続いて、同じくバロック以前からのパッサカリア様式による変奏。
ただし一般的な短調を基とした3拍子のパッサカリアではなく、長調を基とした4拍子の変奏になっている。この点は『ハイドンの主題による変奏曲』フィナーレの形式に倣ったもの。
主題旋律を変形したバッソ・オスティナートに乗せて、11の変奏が展開される。
チェロ, コントラバスによるバッソ・オスティナートの提示。
ヴァイオリン, ヴィオラが和声を加える。
木管楽器が加わる。
tuttiでのスフォルツァンド連打。
オーボエのソロ。旋律の一部には『ゴルトベルク変奏曲』クオドリベットの引用。第8変奏の「各々の楽器・変奏が入れ替わり立ち替わりで現れる」性質を強調させるための演出。
ホルンの対旋律を添えたクラリネットのソロ。旋律の一部には同じく『ゴルトベルク変奏曲』クオドリベットから対となるもう一つの旋律を引用。
バッソ・オスティナートが高弦に現れる。
フルートが主題動機の反行形を奏でる。この反行形の後半から第7変奏中間部の上昇音型も回帰される。
三連リズム。高弦によりジュピター音型を含む第3変奏の旋律が回帰される。
tuttiで短調に転じた後、金管楽器が主となり強奏が続く。
コーダに向けてオーケストラ全体でさらに盛り上がり続ける。
Finale Tempo I Maestoso
変奏主題の回帰。木管楽器主体の冒頭とは対照的に、金管楽器主体の煌びやかなオーケストレーション。
主題の再現が終わると、全パート強奏でのコラール、急テンポのコーダを経て勢いよく全曲を閉じる。
おわりに
以上が制作者本人によるモーニングミュージック変奏曲の解説です。
音楽制作のなかで、その曲に自分なりの意味を詰め込むことはよくあるのですが、インストゥルメンタル・ミュージックは作品内に言葉による説明が入り込む余地が少なく、意図するところが伝わりにくいジャンルでもあります。
ただ、楽曲に込められた意味や仕組みについて作品外で説明を加えることで、気づきづらいところに隠れていたその作品の面白みが伝わることがあります。特に、クラシック音楽は解説を読むことで味わいが深まるジャンルの最たるものだと思っています。
モーニングミュージック変奏曲はいろんな工夫や遊び心といった、私自身の「楽しみ」が詰まった作品です。その楽しみがよりよく聴き手の方々に伝わることを目指して、今回の解説を書き起こしました。
ぜひこの解説とあわせて、モーニングミュージック変奏曲を楽しんでいただけたら幸いです。
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