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0422 『夜と霧』- “生きる”とはつまり—

to 生きることの意味のヒントを模索している方
to 収容所でなにがありどんな心理だったのか関心がある方

読書感想文★★★★★

概要

1946年出版、ヴィクトール・フランクル著。第二次世界大戦中にナチスの強制収容所に収監された経験をもとに、人生の目的を明確にし、その実現に向けて没頭する心理療法を紹介している。Wikipedia

オリジナルのタイトルは”Man's Search for Meaning(人間が生きる意味を求めて)”。”夜と霧”の邦題にこめられた意味は?—— 夜陰に乗じ、霧にまぎれて人びとがいずこともなく連れ去られ、消え去った歴史的事実を表現する言い回し—— とのこと。みすず書房HP

体験と感情

著者の体験を、❶施設に収容される段階❷収容所生活そのものの段階❸収容所からの出所ないし解放の段階で書いている。それぞれの段階の心理描写は、当事者でないと到底わかりえない複雑さと意外性があり、自分の中の感情の引出しと比べながら読みすすめた。

悲劇の現場の生々しく具体的な描写もある。しかし、ただ悲哀なものととらえるのではなく、そこに芽生える人間の心的態度をなぞることに意味を感じる。著者同様、好奇心をもって、その事象をとらえ、逆説的に”生きること”を考えさせられる。

“生きること”の問い

わたしたちが”生きること”に何か期待すべきではない。”生きること”が私たちから何を期待しているかが問題。と筆者。コペルニクス的転回。

こう続ける。
”具体的な運命が人間を苦しめるなら〜人間はこの苦しみと向き合い、この苦しみに満ちた運命とともに全宇宙にたった一度〜ふたつとないあり方で存在しているのだという意識にまで到達しなければならない”
“苦しむこと死ぬことの意味にも裏付けされた、総合的な生きることの意味を求めて、私たちはもがいていた”

精神科医で心理学者のフランクルならではの、壮絶な体験に対してもなおあった好奇心と客観視により悟られた考えと思う。貴重。

人間とは?

フランクルのこの一節も重く心に響く。
“わたしたちは、おそらくこれまでどの時代の人間も知らなかった’人間’を知った。では、この人間とはなにものか。(中略)人間とはガス室を発明した存在だ。しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ”

その他ひっかかった表現

いい人はかえってこなかった・感情の消滅は自己保存のメカニズム・人は〜愛する人の面影を精神力で呼び出すことにより満たされることができる・自分は運命のたまむれの対象なのだ・私が恐れるのはただひとつ、私が私の苦悩に値しない人間になることだ・あなたが経験したことは、この世のどんな力も奪えない・過去の中で永遠に保存される

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