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寂しいお話

進学を機に海無し県に移住することになった。

これまで18年間、1ヶ月に1回は穏やかな海を見ていた気がする。あの海が見たい。最近よくそう思う。

東京って確かになんでもある。電車は2分毎に来るし、人はたくさん歩いている。車通りも多い。

今まで住んでいたあの町とは何もかもが違う。

いろんな物に溢れていて、一人になることがほとんどない。だけど、何か足りない気がする。

行きつけのお店は行けなくなった。大将元気かな。

好きだったカフェにも行けなくなった。

住んでいた町に流れていたあの大きな川を見ることが無くなった。今は車窓からは都心の大きなビルディングが見えるだけ。

穏やかな海は見えなくなってしまった。今はただ心にあの海を思い描くだけ。

家から駅までの通学路。雨降る時も、蝉時雨の中も、寒空の下も、自転車でかっ飛ばした。途中にあった廃屋は前、取り壊されていた。

当たり前のことだったから写真に残していない。それらはただ頭の中の映写機からしか流れない。

何もかも僕の前から消えてしまうのだろうか。

最近そんな想像をして恐怖に怯えている。

今はただ帰りたいと思う。

4年後もそう思っているだろうか。

ふるさとへのこの思いも全部、消えてしまうのだろうか?

そう思ってしまうことが、また怖い。


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