見出し画像

写真との出会いは標高3000m ep.8

エピソード1はこちら↓

視界の端の方で何かが通った。
もしかして…

液晶から空へ目を移す。

尋常じゃない星の数々。
死に物狂いになれば、この数を数えられないことはない。
けど、数えているうちに夜が明け、現実的に数えられない。
まさに、無数の星々。

目が捉えられる範囲の左下に一筋の光がサッと流れた。

「あ、流れた!」
「え、どこ?見えなかった。」

もう一回見たい。
しばらく視線をあちこちに動かして光の筋の発生を待つ。

「あ、流れた!」
今度は友達も見えたらしい。

見れて良かったな。なんて話していると、次は正面にさっきより強い光を放って流れた。

あっ!

それ以外、3人とも声を発しない数秒間が流れた。
そこにはもうない光を脳裏でずっと見続けていたような時間だった。

その後しばらく星空を眺め、明日のことも考えて、山小屋に戻って、休息を取ることにした。

「今回、富士山初めてやろ?めっちゃ良い眺めのところがあるから、明日一緒にご来光見に行こか!」

それはもはや誘いではなく、決定事項だったので、僕らは出発する時間を確認し、床についた。


カチャカチャ
バサッバサッ
シュルシュルッ

周りの音で目が覚めた。
就寝してからまだ4時間だった。
真っ暗でよく見えないが、ところどころでヘッドライトが光っては消え、光っては消えていた。
ご来光行く組が最小限の光で荷造りをしていた。

ガラガラガラ

小屋の扉が開いた。3人組の一行が出発したようだった。

その頃には周りの人がほとんど荷造りをしていて、自分がライトをつけなくても、準備できるくらいには明るかった。

準備といっても、上のシャツを着替えるくらいで、あとはカバンの中に全て備わっていた。

友達の準備も終わったところで小屋の玄関に向かった。
カメラのおじさんはすでに待機していた。

「おはよう!よう眠れた?」
「いやー、眠れたような、眠れなかったような不思議な感じで眠いです。」
「そうかそうか、外はめっちゃ寒いから、きっと眠気覚めるわ。ほな、いこか。」

おじさんの後に続いて、まだ少し暖かい小屋を後にした。

玄関から出た瞬間、急激な気温の変化に鳥肌が立った。
寒いってものじゃなく、外気にさらされている顔の皮膚は爪楊枝でちくちく刺されているように痛い。

日中、ポカポカの陽気の中、登っていた場所と同じ場所とは思えない、山の厳しさを感じた。

「じゃあ、いこか」

おじさんは全く寒さを感じていないかのようにスタスタと進み始めた。
おじさんが背を向けるとおじさんの形がヘッドライトで型取られているのはわかるけど、ほぼ暗闇と同化していた。

見失わないように自分のベッドライトを歩く先の道とおじさんと交互に当てて見失わないように、そして、踏み外さないように必死に光を配らせた。

登りに入ると足元はゴツゴツした岩場が多くなってきた。
躓かないように気をつけて足を運ぶ。

「石とか下に落とさんようにな。小さな石でも落下したら大事やで。」

今足元にある岩が自分のせいで落下して、下で登ってる人に当たったらと想像するだけでゾッとした。
より神経を張り巡らせて登っていく。

いつもより睡眠時間が短かかったからなのか、低気温のせいなのか、標高が高いからなのか、昨日登った時より息が上がる。

少し登って、手を腰に当てて上を仰ぎ見た。

光の粒が連なっているのが見えた。
星空から繋がっているように見えたけど、その光は明らかに近く、そして星よりも強い光だった。

斜め左に登っては、折り返して斜め右に登っていく。
登るにつれて、折り返しまでの間隔が短くなってくる。
だんだんと登っている道の人口密度も増えてきた。

寒いけど、周りにヘッドライトがたくさんあるとホッとする。

目線のすぐ先に人が溜まっていた。
すぐ隣に看板があった。
「9号目」

あと少しで日本で1番高いところに辿り着ける。
そう思うと気持ちが高揚した。

あと少し…

9号目の山小屋前で休む人たちを通り過ぎて、僕らは進み続けた。

そこから頂上までは人も多く、一段登るのに前の人を待つ時間があって、ゆっくり登った。
しかし、さらに息が上がるようになり、足を上げるのにさえ一苦労だった。

「あれ見て。白い鳥居が見えるやろ。あれをくぐったら、すぐやで。」

確かに少し遠くのほう、あと2回道を折れたら着きそうなところに鳥居のようなものがあって、ヘッドライトが密集していた。

ゴールテープが見えると不思議と力が湧いた。
あとは、あれに近づいていけば良い。

一歩一歩、黙々と前進した。
ふと、頂上が見えているということは、自分は今標高3,000m付近にいるんだと思った。
上空3,000mの位置に自分がいる。
そのことが不思議に感じた。
3km横に離れた場所は想像ができても、上空3kmは現実離れしていた。

だんだんと人が密集してきて、自分のライトが必要ないほど明るくなっていた。
あと5分もすれば、鳥居を通過できそうだ。

鳥居の方を見ると、記念に写真を撮っている人で列ができていた。
思い思いにポーズを決めて撮っている。
普段、自分が写る写真は撮ろうと思うことが少ないけど、今感じているこの気持ちと一緒にあの鳥居の前で写真を撮りたくなった。

「ほな、二人そこにならんで」
ほどなく、鳥居の前につき、おじさんがカメラで撮ってくれるらしかった。

鳥居に近づき、その支柱に触れる。
ひんやり冷たい。標高の高い場所の清らかな空気で冷やされた温度だった。

おじさんのほうをむき、5回ほどシャッターが切られた。
おじさんの背後には漆黒の中に後に続く登山客の明かりの連なりが見えて少し幻想的だった。

後ろに何人か写真待ちの人がいたので、撮影もほどほどに鳥居をくぐった。

鳥居を潜り、少し登ると道が平らになった。
ついに頂上に来たのだ。

「ここが頂上か、長かったな」
「ここはほぼ頂上やけど、三角点があるのはもう少しさきやで。すぐ先にご来光が見やすいところがあるねん」
「まじっすか…」

まだ登りがあるという絶望感とご来光が後少しで見られるという期待で複雑な気持ちになった。

おじさんがすたすたと進み出したので、後に続く。
平らな道がこんなに楽なのかと感じるくらい、足取りは軽かった。

おじさんは斜面になっている方に向かって歩いていった。
どうするのかと思ったら、斜面を降り出した。
斜面といっても、富士山の頂上付近なので、そこから見える景色は崖だった。

つづく

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?