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和歌山カレー事件調査報告 「被害届は警察に強制された」 別件・ヒ素お好み焼事件の“被害者”が明かす

割引あり

 1998年にヒ素中毒で60人を超す人が死傷した和歌山カレー事件について、私はこのnoteなどで独自取材に基づき、犯人とされている林眞須美死刑囚が実際には犯人ではなく、本当の犯人は別に存在することや、この事件の捜査で様々な不正が行われていことなどを報告してきた。このほど、この事件で行われた捜査の不正が新たに1つ判明したので、報告したい。
 
 それは、林死刑囚がカレー事件の捜査の過程で逮捕、起訴された別件の保険金目的の殺人未遂事件4件のうちの1件に関することだ。
 
 その事件で林死刑囚にかけられた嫌疑の内容は、1987年2月14日、夫・健治氏が当時営んでいた白あり駆除業の従業員の男性M氏にかけていた第一生命の保険から死亡保険金3000万円をだまし取るため、自宅でM氏にヒ素入りのお好み焼を食べさせ、ヒ素中毒に陥らせた疑い。結果、裁判では、和歌山地裁の第一審判決で、
 
M氏が1987年にヒ素中毒に陥っていたこと
 
・M氏について、入院先の和歌山赤十字病院の担当医が「四肢に遠位部優位の強度の知覚障害がある」「終身、ほぼ全介助を要する」などという内容の障害診断書を書いていたこと
 
・林死刑囚らがこの障害診断書を第一生命に提出し、高度障害保険金等3000万円を詐取していたこと(筆者注・契約上の受取人は健治氏である)

 
 などの事実が認定されたが、林死刑囚はこの事件で無罪とされた。M氏が白あり駆除の仕事などでヒ素に触れる可能性があり、ヒ素を誤摂取した可能性が排斥されていないと判断されたためだ。この無罪判決については、検察官が控訴せず、第一審のみで確定している。
 
 そんな事件をめぐり、実は林死刑囚は2022年5月、M氏を相手取り、「虚偽の被害届を提出された」などと主張して1000万円の損害賠償などを請求する内容の本人訴訟を和歌山地裁に起こしていた。これに対し、M氏も弁護士を代理人に立てず、本人訴訟で対応しているのだが、答弁書で請求棄却を求めるにあたり、「被害届は自分が提出したのではなく、警察に強制的に提出させられた」という趣旨の主張をしているのである。
 
 つまり、和歌山カレー事件のような重大な刑事事件の関連事件で「被害者」とされた男性が裁判所に対し、事件は警察による「でっち上げ」だったと明かしたに等しい事態になっているわけだ。
 
 私は、事実関係に基づいて検証した結果、このM氏の主張は真実であり、和歌山県警はこの殺人未遂事件が本当は存在しないと知りながら、M氏に虚偽の被害届を強制的に提出させたとみるほかないと結論するに至った。さらにM氏本人及び和歌山県警にも取材し、改めてこの結論に間違いはないとの確信も得られた。
 
 そもそも、林死刑囚が逮捕、起訴された別件の保険金目的の殺人未遂事件4件のうち、他の3件についても、1件は夫の健治氏、2件は知人の泉克典氏が被害者とされており、いずれも裁判で有罪とされたうえ、確定判決でカレー事件の犯人が林死刑囚だとする根拠とされているが、林死刑囚本人は「夫と泉は、保険金をだまし取るために自分でヒ素を飲んでいた」と主張し、“被害者”であるはずの健治氏も法廷の内外で「私も泉も保険金をだまし取るため、自分でヒ素を飲んでいた」と訴え続けている。
 
 この現状に照らせば、無罪になったM氏に対する林死刑囚の殺人未遂事件が最初から警察による「でっち上げ」だったという事実は、カレー事件の捜査、裁判の全体的な信用性を改めて揺らがせる力を有していると言える。
 
 以下、詳述する。

▲林死刑囚がM氏相手に起こした本人訴訟が進行中の和歌山地裁

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