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「被害者4人の正体は保険金詐欺の共犯者」 和歌山カレー事件 林眞須美死刑囚の保険金殺人・同未遂事件「被害者」の2人が明かす真相

 5月7日付けの和歌山カレー事件長男氏、桜井昌司氏の対談の記事が好評だったので、過去に公表した関連記事を紹介します。初出はもう12年近く前になりますが、週刊金曜日2008年10月10日号に掲載された『検証 和歌山カレー事件 保険金事件の「被害者」が疑惑を否定 対談 林健治×田中満』という記事です。

 林眞須美さんの裁判では、検察が「被告人は事件前、夫の健治や知人の男らにヒ素や睡眠薬を飲ませ、保険金詐欺を繰り返していた」という趣旨の主張をし、その一部が確定判決で事実と認められ、カレー事件で林眞須美さんが有罪とされる根拠の1つとされています。検察の主張では、この「別件の保険金殺人・同未遂事件」で被害者とされた人物は6人いましたが、そのうち、林健治さん(上掲の画像の右)と田中満さん(同左)の2人が対談し、事件の真相や、捜査の内幕を明かしたのがこの記事です。

 この対談で明かされた真相をあらかじめ紹介しておくと、「林眞須美さんに保険金目的でヒ素や睡眠薬を飲まされた被害者とされた6人のうち、林健治さん、泉克典さん、土井武弘さんら4人は、本当は被害者ではなく、保険金詐欺の共犯者だった」ということが明かされています。

 2008年にこの記事を公表した当時、田中満さんはガンに冒されて闘病中で、2009年に亡くなっています。その他、対談者をはじめとする登場人物の年齢など、当時と今では事実に異なる点がありますが、文章は改変することなく、そのまま掲載しました。そのうえで、特別に説明が必要と思える部分に関しては、注釈をつけました。

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検証 和歌山カレー事件 保険金事件の「被害者」が疑惑を否定 対談 林健治×田中満(初出:週刊金曜日2008年10月10日号20~22ページ)

一九九八年に起きた和歌山カレー事件。「別件」で保険金殺人未遂の罪にも問われた林眞須美被告人(四七歳)だが、その中で「被害者」とされた二人が被告の疑惑を否定する裁判史上前代未聞の対談が行なわれた。また、死刑判決を受けながら無実を訴える林被告人から本誌編集部に届いた手紙も紹介する(注・林眞須美さんの手紙は、ここには掲載していません)

【対談者プロフィール】

林健治さん(はやし・けんじ)さん
眞須美被告人の夫。妻と共謀して三件の保険金詐欺を実行したとして懲役六年の実刑判決を受けた。一方で、妻に死亡保険金目的でヒ素を盛られた被害者と認定されたが、〇五年六月に出所以来、妻の無実を訴えて活動中。六三歳(注・初出時の年齢です)

田中満(たなか・みつる)さん 
林夫妻の友人。検察の主張では、眞須美被告人が健治氏に提供したヒ素入りの食べ物を分けてもらい、ヒ素中毒に罹患したとされたが、検察のストーリーを否定(注・田中さんが健治さんに酢豚を分けてもらって食べ、激しい嘔吐に襲われたことがあったというのは事実ですが、田中さん本人は裁判で「胃潰瘍だったのに、急にアブラっこい物を食べたのが原因だと思っている」と証言しています)。本誌〇八年八月二九日号で眞須美被告人の無実を訴えた。五八歳(注・初出時の年齢です)

──まずは確認のため、お二人と眞須美さんの関係を話してもらえますか。

健治 ワシと眞須美が田中さんと知り合ったのは、昭和五五、五六年ころです。ワシが白アリ駆除の仕事をしとったころ、田中さんが勤めとった白アリ駆除会社から仕事をもらっとったのが縁でした。カレー事件が起こるまでワシら夫婦と田中さんはずっと、家族ぐるみのつき合いをしとったんです。

田中 眞須美さんは、病気で療養しとったウチのお袋にも好かれとったな。男みたいっちゅうか、イヤミのない、ざっくばらんな性格やから。

健治 あいつは漁師町の出やからな。

田中 そういや、眞須美さんの有田の実家にも何度も一緒に遊びに行ったな。眞須美さんの、亡くなったお父さんやお母さんもええ人やった。

健治 ウチで毎日のようにやっとった麻雀にも、田中さんはよう顔を出しとったから、ウチに出入りしとった他の人間たちのこともみんな知っとるんです。田中さん、単刀直入に聞くけど、IやDのことをどう思っとった?

田中 深いつき合いじゃなかったけど、二人とも人当たりは良かったな。ただ、言葉は悪いけど、タカリみたい存在やないかと思うとった。あの二人は仕事してへんかったろう。それで、どうやって暮らしとるんかといえば、健治さんや眞須美さん以外に金の出どころは無さそうやったからな。

健治 その通りや。あの二人はサラ金にようけ借金あったんやけど、それを返してやっとったんはワシなんや。Iはウチに居候させて、サラ金に追われたDにはアパート代まで出してやってと、あの二人の生活はワシや眞須美が丸ごと面倒みてやっとった。そんな二人に裁判では、裏切られたんや。

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被害者4人の正体は共犯者

──IさんやDさんの名前が出たところで、事実関係を整理させてください。検察の主張では、カレー事件以前に眞須美さんに保険金目的でヒ素や睡眠薬を飲まされた男性が、計六人いたことになっていた(22ページの表を参照 注・下に掲載しました)。そのうち健治さんとIさん、Dさん、Mさんの四人については、実は眞須美さんとは保険金詐欺の共犯関係で、病気やケガを自作自演していたのが真相ではないかと、公判で事実関係が激しく争われています。

健治 大阪高裁でも証言しましたが、ワシはヒ素を「仮病薬」と呼び、自分で飲んどったんです。そうやって入院を繰り返し、保険金詐欺をやっとった。これを裁判官は、「林健治は、妻をかばってウソをついている。信用できない」と言うんですが、そんなアホな話はない。妻とはいえ、自分を殺そうとした人間を一体、誰がかばいますか?

 ワシと一緒に被害者と認定されとるIも、ワシの真似して保険金欲しさにヒ素を飲んどった。Dも仮病で入院したり、保険金の支払いを渋る保険会社の担当者をワシと一緒に脅し上げたりしてましたわ。そうやってみんなが共犯で保険金詐欺をやる中で、眞須美は保険外交員の経験を生かし、主に保険の加入や支払い請求などの手続き的なことを担当しとったんです。

 田中さんもワシらが保険金詐欺をしとったのは気づいとったよな?

田中 まあ、気づいてたわな。

健治 IやDがワシら夫婦の共犯やったことも気づいとった?

田中 あの二人も保険金詐欺に関わってるんやろうとは思うてたな。

健治 そりゃ、そうやろな。ワシら麻雀しながら、あけっぴろげに保険金詐欺の話をしとったから。ワシがIに「お前、いま入院したら、保険金ナンボもらえるんな?」と言うたら、他の人間が大笑いしながら「I、そんなに金もらえるんなら、お前、今から入院せえよ」とけしかける。陰でこっそり計画を練るとかじゃなく、そんな和気あいあいとした感じで、ワシらは保険金詐欺をやっとったんです。

田中 そういう健治さんらの話を横で聞いとって、どこまでがホンマで、どこからが冗談か、ようわからんかったな。ホンマの話もあるやろうとは思うてたけど。一番記憶に残ってるんは、健治さんがIに「バイクで突っ込んで来い」みたいなこと言うたら、Iが「よし、わかった」みたいなことを言うとったことや。Iがその後、ホンマにバイク事故したんかは知らんけど。

健治 それはいつの話か、ようわからんな。Iは、バイクでわざとコケて入院するのが得意で、何度もやっとるから。ワシ自身も一度、バイクでコケたように嘘ついて保険金をいわせたことがあるんやけど、そのやり方はIから教わったくらいなんや。

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検察のバカげた作り話


健治 ところで田中さん、麻雀をしよる時に眞須美が何か食べ物を持ってきて、ワシらに一人ずつ手渡しで配ってくれた記憶なんかあるか?

田中 麻雀しよったら、眞須美さんが食べ物を持ってきてくれることはあったな。ソーメンが美味かった。でも、オレらに、食べ物を配ってくれるまではしてくれんかったな。食べ物を人数分、お盆ごと置いていくだけやった。

健治 そうよな。ウチの麻雀部屋は狭かったから、ワシらが麻雀しよる時は眞須美の巨体が中に入れる状態やなかった。それなのに、IやMは裁判で、麻雀部屋に人数分持ってきた食べ物を眞須美が、一人ずつ手渡しで配っとったと証言しとんのや。そして検察のストーリーでは、眞須美は麻雀中のワシらに食べ物を配る機会を狙って、「Iちゃんのウドンはこれよ」とか「このマヨネーズがかかったお好み焼きがMくんのよ」とか言うて、ヒ素入りの食べ物をその時々のターゲットに手渡したことにされたんや。

田中 そんな話になっとんかいな。

健治 そもそも、IやMを殺すのに、他にも人がおる麻雀中を狙うなんてありえるか? バカげた作り話や。田中さん、Mのことは覚えとるかな?

田中 車の仕事をしよった後に一時、健治さんのところで働きよったMくんやな。細かいことは知らんけどな。

健治 Mも一度だけやけど、ワシらと一緒に保険金詐欺をやったんや。Mが全身麻痺になったように偽って、ワシら夫婦が三〇〇〇万、あいつも二〇〇〇万の保険金をいわせたんや。それが検察に、Mは麻雀中に眞須美に食わされたヒ素入りのお込み焼きで全身麻痺になったって話にされたんや。

──IさんやDさん、Mさんは、眞須美さんが健治さんにヒ素を飲ませていたと検察が立証する証人にもなっています。たとえば三人は公判で、眞須美さんが「あんなオヤジ(=健治)、はよう死んだら保険金が入ってええのに」と言っていたとか、ヒ素中毒で意識混濁状態の健治さんに対し、「はよ死ね」と言っていたなどと証言した。その一部は、健治さんに対する真須美さんの殺人未遂の有罪認定に使われています。

健治 田中さん、眞須美がワシに「殺したろか」とか「死ね」とか言うのを聞いたことあるよな?

田中 そんなこと、眞須美さんはしょっちゅう言うてたな。

健治 あいつは口が悪いからな。けど田中さんは、ああいう眞須美の言葉を本気に受け取ったことあるか?

田中 そりゃもちろん、笑い話やと思うとったわ。IやDさんも、ワシらと一緒になって笑っとったがな。

健治 そうやな。眞須美がワシに「殺す」とか「死ね」とか言うと、Dなんかケラケラ笑って、「羨ましい家族や」とワシをちゃかしとったくらいや。それなのに、IやDは裁判で、眞須美の言葉は冗談に聞こえず、ワシへの憎しみがこもっとったと証言しとんのや。

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今も腹が立つ取り調べ


──IさんやDさんは、保険金詐欺を見逃してもらう見返りに、検察の主張に沿う証言をしているだけだと一、二審共に弁護人に追及されています。

健治 IやDがどういう取り調べを受けたか、大体想像つきますわ。なぜならワシ自身、取り調べで検事に「健治、眞須美にヒ素を飲まされたことにしてくれんか? そしたら、お前の保険金詐欺は不起訴までは無理やけど、求刑は考えてやるで」と言われましたから。ワシが眞須美にヒ素を飲まされたことにせんと、眞須美をカレー事件で有罪にできんとは、よっぽど証拠がないんやな、と思ったもんです。

田中 オレも取り調べは何度も呼ばれたな。刑事が「お前は眞須美に殺されかけたんや」と言うんで、「そんなこと夢にも思わんわ」と言うてやったんや。そしたら刑事は、「お前は眞須美の愛人やっちゅう噂があるな」と言い出した。「ゲスの勘繰りをすな」と言うてやったやけど、今思い出しても腹が立つ。あの刑事は今ここにおったら、どつき回してやりたいわ。

健治 そういや、ワシも取り調べで、「お前の子ども四人のうち、一人は田中の子で、Dの子も一人おるんや」と言われたな。その検事は、眞須美への不信感をワシに抱かせ、眞須美に不利な証言をさせようとばかりしとったわ。

──検察の主張では、眞須美さんが保険金殺人の標的にした六人のうち、唯一殺害に成功したとされていたYさん(注・このYさんは、保険金詐欺にまったく関与していません)の話がここまで出ていませんが?

健治 Yは、ワシのもとで白アリ駆除の仕事をしとったんやけど、ワシら夫婦とは家族同然で、どこ行くのも三人一緒やったくらいです。ワシと眞須美の馴れ初めも、Yの紹介なんですよ。

田中 Yは、何も言うことがない、ええ男やったな。眞須美さんも「ヒロくん、ヒロくん」と言うて、仲良くしとった。Yを殺すなんて考えられんわ。

健治 眞須美がYを殺すなんてことは一番ありえんな。そもそも、Yが死んだ八五年いうたら、あれも二四歳の小娘やで。保険金殺人なんて、大それたことができるわけがない。世間の人はみんな、事件が起きた頃にテレビで観た「マスコミにホースで水かけるオバハン」というイメージを若い頃の眞須美にそのまま重ねて、Yの件を想像するから、真実が見えんのやと思うわ。

 田中さん、ワシはな、天国におるYや、眞須美の両親のためにも、眞須美の無実を証明してやりたいんや。眞須美がこのまま死刑になったら、ワシや田中さんがあの世に行った時、あの人らに顔向けできんのとちゃうか?

田中 そうやな。IやDさんも、今からでも正直にホンマのことを話すべきやろう。これだけ、健治さんや眞須美さんに迷惑をかけとるんやから。

健治 そうして欲しいな。不思議やけど、ワシは今もIやDが仲間っちゅう感覚のままで、うらみ切れんのや。あいつらがワシら夫婦を裏切ったのも、相当きつい取り調べを受けて、そうせざるをえん状況に追い込まれたんやないかと思うからな。

田中 たしかにあの二人も今、苦しんでそうやな。ホンマのこと話して、スッキリしたほうが自分らもええやろ。

(了)

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