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新規事業開発におけるターゲットセグメントの決定

株式会社NEWhのサービスデザインチームマネージャーの石塚です。
このnoteでは、NEWhのサービスデザインの特徴や私たちが日々のデザインワークで得られた知見・気づきをご紹介したいと思います。

今回は、新規事業開発におけるターゲットセグメントの設定について記載をしていきたいと思います。


ターゲットセグメントの設定

ターゲットセグメントの設定とは、事業開発を行う際に、市場における新しい事業機会を特定し、その機会を活用するために、市場にどんな顧客群(市場セグメント)が存在するのかを確認し、事業としてターゲットとする顧客群(ターゲットセグメント)を設定する営みを指します。
ターゲットセグメントを設定することにより、人材・資金・時間などの経営資源を効率的に配分し、的確な市場ニーズ把握や事業戦略の立案、競合他社との差別化に必要なリソースを投入する、「選択と集中」が可能になります。

市場と市場セグメント

市場と市場セグメントの関係性

ターゲットセグメントの設定の方法を思考していく前にまず、市場と市場セグメントの違いを定義します。市場と市場セグメントは両方とも事業開発において事業が対する「顧客」を捉える概念です。

市場は、特定の製品やサービスを求める買い手の総体を指します。同様の課題やニーズをを持つ顧客の全体集合であり、市場の中にも様々な特徴や属性を持った顧客群が存在することになります。例えば、スマートフォン市場、自動車市場、食品市場のような捉え方です。市場を所謂市場規模として捉える際には、TAM(Total Addressable Market)として捉えられます。

一方で、市場セグメントは、市場の中で共通の統制、ニーズ、課題を持つ顧客グループのことを指します。市場セグメントは市場の一部分を構成する顧客グループであり、「市場」という顧客の捉え方と比較するとより具体的で同質的です。例えば、スマートフォン市場の中の「高性能カメラ搭載機を求める写真愛好家」セグメント、自動車市場の中の「環境意識の高い電気自動車志向」セグメント、食品市場の中の「オーガニック食品を好む健康志向」セグメントのような捉え方です。市場セグメントを市場規模として捉える場合は、SAM(Serviceable Addressable Market)として捉えられます。

特に、事業開発においては、市場セグメントの粒度で顧客を捉えることによって、経営資源の選択と集中を図る必要があります。また、顧客の視点に立ってみた際にも、価値提供する対象を「市場」の解像度で捉えてしまうことによって真に顧客の欲しい価値を提供することが困難です。例えば食品市場の中でもオーガニック食品を好む人々に対して、添加物たくさんのインスタント食品を提供しても受け入れられないということも想像に易いと思います。

ターゲットセグメントの設定のプロセス

ターゲットセグメント設定のプロセス

事業開発の「選択と集中」のために、ターゲットセグメントを設定するためには、大きく2つのステップに分けて検討を進める必要があります。
まずは市場セグメントの探索を行います。これは市場の中に「どういった市場セグメントが存在するか?」を明らかにするステップです。市場において、どういった共通する特徴を持つ顧客群が存在するかを明らかにすることによって、事業がターゲットとすべき顧客群の候補を可視化します。
次に、可視化した市場セグメントの中から事業のターゲットとすべき市場セグメントを選択していきます。明らかになった市場セグメントの中で「事業のターゲットに資する市場セグメントはどれか?」という問いに答えうる市場セグメントを明らかにすることによって、経営資源を投入していく対象となるターゲットセグメントを決定していきます。

どういった市場セグメントが存在するか?を明らかにする

市場セグメントの探索は、市場を、


Who:市場において共通の属性を持つセグメントはどんな人々がいるか?When/Where:市場において共通の行動範囲・バリュチェーンで行動するセグメントはどんな人々がいるか?
What:
市場において共通の課題・ニーズを持つセグメントはどんな人々がいるか?

の3つの切り口で探索をしていきます。

ここからそれぞれの切り口でどんな観点・思考を持って市場セグメントを探索していくのかを記載をしていきます。

Who:市場において共通の属性を持つセグメントはどんな人々がいるか?

市場において共通の属性を持つセグメントはどんな人々がいるか?

Whoの切り口は、市場に存在する人々を、属性を切り口に共通の特徴を持つセグメントを見つけていきます。所謂Demographicの視点です。
この切り口では、特に市場に存在する人々の人口統計学的な属性や企業などの組織的な属性で市場に存在する人々を区分けをしていきます。
例えば、人口統計学的な属性とは、性別・年齢・所得・学歴・職業・家族構成や地理的要因などの人口統計や人口動態分析で用いられる、人間の集合を分類する指標を用いた属性分類です。これは、ToCビジネスの検討をする際に用いられることが多い観点です。
具体的には、都内に住む20代の女性会社員、高所得の40代男性管理職、大学生の単身世帯、共働きのファミリー世帯といったような特徴での分類です。

一方で、組織的な属性とは、業種・組織カテゴリ、企業・組織規模、業績、事業・組織の成熟度、組織構造といった、組織・企業・法人を分類する指標を用いた属性分類です。こちらは、ToBビジネスの検討をする際に用いられることが多い観点です。
具体的には、従業員数100名以下のIT企業、売上高1億円以上の製造業の中堅企業、全国に営業拠点を持つ大手小売企業といったような特徴での分類です。

When/Where:市場において共通の行動範囲・バリュチェーンで行動するセグメントはどんな人々がいるか?

市場において共通の行動範囲・バリュチェーンで行動するセグメントはどんな人々がいるか?

When/Whereの切り口は、市場に存在する人々を、人々の主たる目的と目的を達成するための行動範囲やバリューチェーンにおける立ち位置を切り口に共通の特徴を持つセグメントを見つけていきます。これは、Behavialな視点とも言えます。
この切り口では、消費者の生活圏や製品の利用シーン、企業の事業範囲やバリューチェーンにおける人々の行動・立ち位置・関係性に注目して人々を区分けをしていきます。

例えば、ToCのビジネスを検討する場合、多くは消費者の生活圏や購買チャネル、製品の利用シーンの中で人々の立ち位置・行動・利用するデバイスやチャネルに基づいて分類をしていきます。具体的には、オンラインストアで商品を購入し自宅で使用する人々、関東近県でアウトドアを楽しむ人々、自宅からオフィスまで電車で移動をする人々といったような特徴での分類です。

また、ToBのビジネスを検討する場合は、主な企業活動、製品・サービスのサプライチェーンやバリューチェーンにおける人々や組織の行動・立ち位置・関係性に基づいて分類をしていきます。例えば、新たなビジネスチャンスに向けて資金調達を行う建設事業者、中小企業向けに経営コンサルティングを行うコンサル会社、自動車産業において完成品メーカーに部品を卸す部材メーカーといったような特徴での分類です。

What:市場において共通の課題・ニーズを持つセグメントはどんな人々がいるか?

市場において共通の課題・ニーズを持つセグメントはどんな人々がいるか?

Whatの切り口は、市場に存在する人々を、代表的な目標、ニーズ、抱えている課題、重視する価値観に基づいて共通の特徴を持つセグメントを見つけていきます。こちらは、所謂Psychographicの視点です。
この切り口においては、人々の抱えている課題や重視する価値観、行動の背景にあるニーズに基づいて分類をしていきます。具体的には、利便性とデザイン性を重視し時間不足に悩む消費者、健康志向が高く情報不足を課題とする消費者、環境保護と社会貢献を重視し自己実現を目指す消費者といったような特徴での分類です。

ToBの場合は、それらに加えて事業目標や事業において獲得したい成果などを分類の候補指標としてきます。具体的には、コスト削減と生産性向上を重視し人材不足に悩む企業、技術革新への対応とリスク管理を課題としイノベーション重視の企業、持続可能性と社会的責任を重視し顧客第一主義を掲げる企業といったような特徴での分類です。

特に、事業開発においては、顧客の課題発見と解決策創出が非常に重要であり、Whatの切り口での市場セグメントの分類は3つの切り口の中でも特に注視すべき切り口です。

ターゲットに資する市場セグメントはどれか?

市場セグメンテーションの3つの切り口まとめ

以上のようにWho/Where・When/Whatの3つの切り口を用いて、市場に存在する顧客群を分類していきます。顧客群の分類は、どれか単一の切り口でということではなく、複数の切り口を持って特徴的な市場セグメントを探索します。市場において特徴的な市場セグメントが見つかった後は、探索した市場セグメントの中から事業のターゲットとすべき対象を決定していきます。

その際に、市場セグメントを、いくつかの指標を持って評価をすることで、ターゲットセグメントを特定していきます。フィリップ・コトラーが提唱したSTP分析で代表的なマーケティングのフレームワーク、6R(Realistic Scale(市場規模)、Rank(顧客の優先順位)、Rate of growth(成長性)、Reach(到達可能性)、Rival(競合状況)、Response(反応の測定可能性)の6つでセグメントを評価する指標)がありますが、事業開発の場面においても有効です。

特に、市場規模・成長性・到達可能性・競合状況に加えて、課題・ニーズの解決渇望度合いが事業開発の初期段階でしっかりと確認をしておくべき指標になります。特定した市場規模と成長性を見据えた上で、自社の事業が特定した市場セグメントに対する到達可能性があり、競合状況を踏まえた上で未充足の課題が存在し参入の余地があり、渇望度合いの高い課題・ニーズを持つ市場セグメントをターゲットセグメントとして設定します。

市場規模・成長性を見据えた上で、
到達可能性・競合状況・課題/ニーズの解決渇望度合いでセグメントを評価

まとめ

市場における市場セグメントの特定をした上で、ターゲットセグメントを決定するプロセスをご紹介してきました。市場セグメントの探索においても、ターゲットセグメントの決定においても、いくつかの切り口・指標をご紹介してきましたが、何よりも顧客の抱える課題やニーズを捉えることがターゲットセグメントを正しく決定するためになにより必要な営みで重心と言えそうです。
そのため、やはり1にも2にも市場に存在する顧客の声を聞くという事業開発では当たり前のことがターゲットセグメントの特定の第一歩といえます。

かなり長くなってしまいましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。

今後皆さんにとって魅力的なストーリーを紡いでいきたく、ご感想・異論反論はnoteのコメントやSNSでいただけると嬉しいです!

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