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ネット広告が規制の的になるということ

インターネット広告が、規制の対象になると発表されてから、丸一年が経とうとしている。サードパーティークッキーと言われる、検索データの閲覧を制限され、閲覧者の行動をトラッキングすることが難しくなるとされている。日本では、こうした規制を受けて、様々な議論が展開されてきた。クッキーに変わるものは何であるか、とか、クッキーの規制を受けてパブリッシャーが如何なる行動をすべきかなどだ。

すでに、SafariやFirefoxなどでは、厳格なトラッキング規制が行われており、今後全ての検索エンジンでクッキーが大幅に規制されることが予測される。というわけで、今回の雑記では、ポストクッキーと言われる時代に入りつつある時代に、ネット広告の今後のあり方について考えていきたい。

具体的なこれといった広告であるかということよりも、ポストクッキーにおけるネット広告はどうあるべきなのかについて、これを読んでくださる読者の皆様と一緒に、考察できれば幸いである。

広告コミュニケーションのあり方

人がモノを買うメカニズムはとても複雑で、今でも完全に明らかにできている経営者や学者は存在しない。例えばフィリップコトラーの5Aマーケティングが最新のマーケティングトレンドとなっているが、日本での普及率はまだまだだ。

しかし、自明のことながら、最新のデジタルマーケティングが流行る以前から、広告は存在している。明治時代、新橋〜横浜間で電車が開通した時の交通広告、また建物の上に聳え立つ看板広告などは、古くからある立派な広告だ。

こうした広告が当時、どれほど消費者の購買意欲を駆り立てたのかは当時のデータがないのでわからないけれど、テレビCMなどのマス広告が定着する以前には、最新の商品・サービスを訴求する手段の一つであったことは間違いない。

こうした、広告と消費者のコミュニケーションは、昔から活発化していたのである。広告に寄せる消費者のイメージは様々で、広告主は戦略として、消費者へのブランドイメージをなるべく良い方向に持っていけるよう、努力する。しかし、広告主が広告に寄せるイメージと、消費者が広告に寄せるイメージにはどうしても差異が生じてしまう。

かつて、言語学者のフェルディナンド・ソシュールは、言葉とそれに付随するイメージには決定的な結びつきがないとして、「言語の恣意性」を唱えているけれど、広告にも同じように当てはまってしまう。

なぜ、このような差異が生まれてしまうのだろうか。それは、消費者の置かれた感情や人生においての商品に対する経験があるのだろう。例えば、広告主がとある美人女優を化粧品のCMに出し、その化粧品のブランドイメージをあげようと考える。ところが、それをみた消費者は決してそれをいいブランドとして捉えるとは限らない。なぜなら、その化粧品を塗って可愛くなったつもりだったが、異性に振られてしまったという経験をしているだとか、肌荒れをしてしまったなどの経験によって、そのブランドイメージを良い方向に捉えることがどうしても難しくなるからだ。

広告主と消費者のコミュニケーションは、こうしたちょっとした経験や体験で噛み合わなくなっていくのであり、ますます消費者の生活を考えていくことが重要であるのである。消費者の生活の文脈をどれだけ読み取り、それに適した広告を出し、広告主と消費者の広告のイメージにおける差異性をなくしていけるかが、今後の広告コミュニケーションの課題になっていくかもしれない。

コンテンツの文脈とネット広告

とあるブランド商品に一つの事件が起こった。その商品のバナー広告が、アダルトサイトに載ってしまい、それが引き金となりブランド価値が下がり、商品の売り上げが低下してしまった。

現在のネット広告は、こうした危険と隣合わせなのであり、文脈に反したネット広告も数多く存在している。現在のネット広告は、コンテンツや消費者の文脈にどれほど適したものなのだろうか。

クッキーやトラッキングが規制されるされている昨今、ここで大切にしてかなければならないのは、こうした消費者の「生の文脈」をいかに読み取るかにあると思っている。

「生の文脈」とは、ネットにおける消費者の購買行動やビッグデータから得られるデータのことではない。あるコンテンツにネット広告を載せるとき、そのコンテンツを閲覧している消費者は、そのネット広告を見てどう思うだろうか。

闇雲にそのコンテンツに関連するネット広告を載せる時代は終わった。消費者のコンテンツのデータから、ただネット広告を載せればいいという短絡的なマーケティングはいづれにも成果を上げることができないであろう。

大切なのは、データだけではなく、そのコンテンツやネットに対して消費者はどのような経験・体験をするのかをよく考えることにある。

デジタルマーケティングというデータドリブンから、もう一度従来のインサイトマーケティングに回帰するべき時が、すぐそこまで来ているのかもしれない。


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