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誰にも縛れない社会で生きるということ

新型コロナウイルスと言われる無知のウイルスが社会に与えた被害は甚大であることはいうまでもない。大学ではオンライン授業を余儀なくされ、ニューノーマルと言われる時代に突入し、その多くはネガティブなものである。例えば、マスクをしながらの生活や、コロナ禍でのうつ病の増加など、深刻な問題として挙げられる。

もちろんポジティブな面もある。オンライン化によって通勤を必要としない、リモートワークが普及し、業務効率の改善はコロナショックがもたらした数少ない「良い変化」であろう。リモートが普及し、自分らしく働くと言う観点で、働き方改革の一環だとしてマスコミも騒いでいる。しかし、少し統計学や社会学などの点からみると、こうした良い変化も決して、素晴らしい変化だ、とは断言できない。

社会学者の中では、基本的にこうしたリモートといった会社や社会などの規則から解放されているような社会に対して、望ましくない研究成果を出している学者が多くいる。
こういう規則から解放されて、自分らしく生きることを掲げる社会のことを「自己本位社会」と言うけれど、こうした「自己本位社会」の構造には「自殺」という負の側面を持っている。

今回の雑記では、社会学や統計学を使って、古典社会学者が使っていた方法を用いて、コロナ禍で自殺が起きる要因などを皆さんと理解できればと思っている。

もちろん、こうした雑記は他の皆さんが書いていることと一部重複することがあるのはご了承いただければ幸いである。

コロナ禍におけるニューノーマールは今後2・3年は続く予定

コロナ禍における、リモートワークといった新しい働き方は世論的には今後も続いていくとされる。総務省の調査によると、半数近くがリモートワークを推奨している転職先に勤めたいという結果が出ている。また新卒も、仕事と趣味を両立したいという価値観も増えており、今後2・3年はリモートワークが増えていくと予想される。

リモートワークはまさしく、自分らしく働くという自己本位的な社会である。一見、表面的にみると、こうした社会は生きやすく、働きやすい世の中なのかもしれない。しかし、こうした社会には負の側面も確かに存在する。それが「自殺」だ。

初めて、「自己本位」という言葉を唱えたのは、社会学者のデュルケームである。デュルケームは彼の有名な著書である『自殺論』において、様ざまな自殺の形態や要因を分析している。デュルケームによれば、自殺というのは宗教や天気といった非社会的で宇宙論的な理由で引き起こされるものではなく、社会が大きく変動するときに引き起こされる、としている。

彼の主張によると、例えばフランス革命の際、多くの自殺者を出したが、これは革命の中で第3身分における社会環境が大きく変動したことが要因としている。

デュルケームはこうした社会環境の変化に伴い、自殺を類型化している。以下では、それをみていこう

自己本位的自殺と集団本意的自殺

まず、取り上げたいのは「自己本位的自殺」という考え方だ。これは、今回のトピックに通ずる自殺の一体系である。集団の力が弱まり、自分一人で孤立し、生きていくという時に、どう生きていくべきかわからず、自殺に追い込まれていくというものだ。さらにデュルケームは、逆に集団の圧力が強まりすぎたことで生じる自殺もあるとしている。これを「集団本意的自殺」と呼んでいる。

特に前者の自己本位的自殺では、リモートワークに直結している部分もある。つまり、社会という規則から逃れた、労働者は自分らしく、自由に生きることが求められる。そうなると、将来の不安やアイデンティティの喪失により、自殺に追い込まれる可能性があるのだ。

リモートワークといった社会にとって良い風潮とされてきたものが、実は自殺といった負の側面を持っている。こういう逆説的な事態のことを社会学では「意図せざる結果」と呼ぶが、こうした逆説は恐らくコロナ禍でたくさん存在していることであろう。

自殺はこれだけではなく、生活が良くなり過ぎて、逆に自殺に追い込まれる可能性もある。デュルケームは先ほど取り上げた『自殺論』の中で、不景気の時には自殺が起こることは自明であるが、好景気の時にも自殺が起こるのは何故だろうか、ということを一番の疑問として取り上げている。

アノミー的自殺

なぜ、好景気の時にも自殺が起こるのだろうか。好景気の際には、収入が増える。なのに、何故自殺が増えるのだろうか。それは、急にお金持ちになってもその使い方がわからなかったり、お金持ちになってもできないこともあり、お金持ちの時に憧れていたことができないことでギャップが生じているからだとしている。

このように、現実がどう好転しても、結果として「こんなはずではなかった」という気持ちになってしまう。これを「アノミー的自殺」と呼んでいる。

デュルケームの一番の業績は「アノミー的自殺」を発見した点にある。これをリモートワークに当てはめてみると、リモートワークで働き方は自由になった。しかし、どう働いていいのかがわからず、結果として上手く働けず「こんなはずではなかった」と思ってしまう。

こうしたことでコロナ禍においては、自己本位的自殺とアノミー的自殺の二つが大きく今回の自殺の増加につながっていると感じている。自己本位に生きることができる社会というものは、漠然とこうした不安や自殺が起こりやすい世の中と言えそうである。

誰からも縛れない世界からの逃走

こうして自己本位に生きる世の中というのは「自殺」という負の側面を持っていることが明らかになった。

心理学者のエーリッヒフロムは彼の有名な著者『自由からの逃走』という本の中で、人は自由になりすぎると、逆に孤独を感じて、誰かに服従したいと思うようになると叙述している。

ここでいう自由とは「誰にも縛れない」ということである。自殺はもしかしたら、「誰にも縛れない世界」からの逃走なのかもしれない。

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