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公認会計士・税理士がジャニーズ問題について気になった点

記者への「指名NGリスト」の存在が明らかになりバタバタに終わりが見えない状況ですが、先日の会見では、旧ジャニーズ事務所を補償と救済の専属会社として、芸能マネジメント事業は新会社を設立してそちらに移管すると公表されました。そして、補償の目処がたてば、61年間続いた旧ジャニーズ事務所は廃業して株式会社を精算するようです。

BBCやYouTubeでの告発から始まり、再発防止特別チームの報告書の公表により激しく動き出したジャニーズ問題ですが、ここでは性加害の議論は置いておいて、会計・企業経営の専門家として、税務や財務の経済面から興味深いものがたくさんありましたのでちょっと取り上げてみたいと思います。


1.補償の総額はいくらになる?

会見中何度も聞かれた「法を超えて」補償をしていくとのことなので、時効などに関係なく基本的には全ての被害者に対して補償をしていくようです。
具体的な金額の算定方法はこれから被害者救済委員会と旧ジャニーズ経営陣で決められるそうですが、金額の目安としても「法を超えた」補償が行われるだろうと言われていました。一般的な性被害の賠償金額が300万円~500万円程度とのことで、2~3倍は払われるだろうと思われます。
補償を求める方の人数が先日の発表では325人とのことでした。おそらく、これからかなり増えるであろうと予想されます。

ーー最大200憶円程度の補償額か?
仮に、1000人からの要求があり、1人当たり1000万円支払う場合は、100億円の資金が必要になります。
被害者の加害後・退所後の生活・キャリアなどの様子を聞くと、お金では到底済まされないような代償を払わされているように感じます。

金額は世間の声なども意識して算定される可能性もありますが、もしも1人当たり2000万円だとしたら200憶円の支払となり、この辺りが上限で補償総額の最大値ではないかと想像します。

2.旧ジャニーズ事務所の業績・資産額は?

補償は旧ジャニーズ事務所から支払いがされると思いますので(ジュリー氏の個人資産からではないはず)、会社にそれだけの純資産があるかがポイントになります。
ジャニーズ事務所は非上場企業ですので、決算は公表されていません。ネット上にはさまざまな憶測が記載されていますが、具体的な業績・決算数値を知り得るのは、会社内部の関係者と会計事務所、顧問弁護士、金融機関および税務署などの行政当局しか知り得ないでしょう。(そういえば、ジャニーズ事務所およびジュリー氏はお年玉問題で税務調査の指摘を受けていましたよね。)

韓国のHYBE(BTSの所属事務所)など海外では上場している芸能プロダクションもありますが、日本の芸能事務所で上場している会社はほとんどないため、参考にできる比較対象が限られます。ましてやジャニーズ帝国と呼ばれるほどの国内最大手の芸能事務所なので売上や資産規模もとんでもないことになっている可能性が高いです。
現在参考になる唯一の上場している芸能事務所がアミューズです。アミューズはサザンオールスターズや福山雅治さんの所属事務所であり、音楽アーティストが主要なタレントとなっているので、比較的ジャニーズ事務所に近い業種として見ることができるでしょう。
アミューズの直近の決算では、以下の内容が公表されています。
売上:524憶円
利益:16億円
純資産:375憶円

事業の種類は「イベント事業」、「音楽・映像事業」、「出演・CM事業」の3つから構成されていて、ライブ・コンサート収入やファンクラブ収入が含まれるイベント事業が最も売上が大きいです。ただ、利益面でいうと、音楽事業からの著作権や印税収入が最も大きく儲かっているようです。権利(コンテンツ)ビジネスはコストが掛からず最も効率良く稼げるということですね。

余談ですが、かつて上場していた吉本興業も10年以上前の業績ですが、大体アミューズと同じ会社規模でした。利益率が他よりチョット良いのは会社の取り分がおおきいのでしょうね。。そしてホリプロも10年以上前まで上場していましたが、上記2社の半分程度の規模です。

ーー資産は2000億円以上!?
ジャニーズ事務所はアミューズと比較して、規模的に2~3倍はあるでしょうか?ファンクラブ収入だけで年間500億円ともウワサされていたので、もっと大きくて5倍くらいあるのかもしれません。完全な個人の推測ですが、以下あたりに収まるのではないでしょうか。
売上:1000億円~2000億円
利益:50億円~100億円
純資産:800億円~2500億円

実際に純資産がこれだけあれば、補償に充てるお金は十分に足りるので、問題なく払えると思われます。
純資産が大きいと予想したのは、通常同族会社であれば、配当がないはずで、役員報酬で手取りを調整すると思いますが、ジャニー喜多川はメリー氏からの「お小遣い制度」だったということなので、ほとんど会社にお金を残していると想定しました。

3.ジュリー氏は相続税をいくら払うの?お金はどこから?

調査報告書を読むと、ジュリー氏は、創業者2名が亡くなったタイミングでそれぞれ資産を相続しているようです。まずはジャニー喜多川からジャニーズ事務所の株式50%、そして、2019年に母メリー氏から残りの株式50%を相続で取得しています。おそらく、株式以外の2人の資産(現預金や不動産、金融資産)も相続しているのではないかと思われます。孫であるジュリー氏のお子様に一部相続している可能性もあるかと思います。

ーー相続税の免除制度を活用していた
これだけ遺産が莫大でも、相続税は現金で納税しなければならないので、現金が足りなければ、遺産を売却して現金化しなければなりません。遺産のほとんどがジャニーズ事務所の株式の価値だったであろうジュリー氏は、相続税を払うためにはその株式を手放して現金を準備する必要がありました。
そこで、「事業承継税制」という特例制度を利用していたようです。当初、ジュリー氏が代表取締役に留任したのはこの制度を成立させるための要件を充たすためだ、ということが話題になりました。
この制度を使えば、相続税の支払が猶予されます。そして、さらに次の後継者に株式をバトンタッチすれば、ジュリー氏は相続税が免除されます。何もなければそういったプランを描いていたと思われます。

しかし、2回目の会見でこの制度を活用することを止めて、相続税を支払うことを決断したと発表されました。かなりの決意だったと想像しますが、旧会社をいずれ廃業し、新会社には関与しないことから考えても、完全に決別する覚悟ができたのだと感じます。

ーー相続税は860億円!?
気になる相続税の額ですが、ジャニーズ事務所の株式の価値によります。会社の純資産が500億円だとしたら274億円にもなりますし、仮に1000億円だと549億円。文春などの報道では860億円の相続税と言われていましたが、ジャニーズ事務所からの回答でその金額は否定されていました。
ジュリー氏はこの金額の現金を個人で用意しなければなりません。補償金のように会社から払うことはできないので、どのように納税資金を手配するのかが気になるポイントです。

もし手元にすでにあるとしたら、相当な資産をジャニー喜多川、メリー氏が現預金で持っていたことになります。ですがそんなことはないはずで、おそらく現金が足りないでしょう。そして、ファンドなどからの買収の提案もあったが断ったと手紙で公表していたことから、ジャニーズ事務所の株式売却で資金を準備することもないでしょう。

そうすると、どこかから借金をするしかありません。
しかし、銀行など通常の金融機関はコンプライアンス上、ジャニーズ問題の現在の状況・環境からすると、とてもじゃないけどお金を貸してくれることはないでしょう。
ですが、海外勢やノンバンク、ファンドなどであれば資金調達できるかもしれません。旧ジャニーズ事務所の株式を担保にできるなら、貸したいところはいくらでも見つかると思われます。

プロダクション事業を新会社に移行する時点で不可能になりましたが、制度を活用し続けて、相続税を猶予できたお金を補償・救済を充実させた方がwin・winで良かったかもしれません。

4.旧ジャニーズ事務所へコンテンツやファンクラブの譲渡代金が流れる?

補償・救済の会社と芸能プロダクションの会社を別けるとのことで、今年中にもエージェント会社を設立して、所属タレントを移管していくようです。
そして、旧ジャニーズ事務所時代の楽曲なども新会社に所属するタレントが引き続き利用できるようにしていくとのことです。
ファンクラブのシステムも新会社か直接タレントが管理するような形に移行するものと思われます。

ーー旧会社へ収益が流れるのか?
楽曲・コンテンツに関しては顧問弁護士の方から重要な回答があり、「旧会社がコンテンツなどのからの収益を吸い上げるような形にはしない、きちんと新会社と分断されたスキームにする」とのことでした。
これを聞いた時には、「無償」で権利を新会社に譲渡するのか、または、直接タレントが持つ形にするのかと思いましたが、別の回答では、「新会社が買い取るタレント活動のための資産が多額になるので、ファイナンス(資金調達)のスキームをどうするかが重要なポイント」と言っていたので、タレント活動のための資産が、知的財産権・著作権などを意味するのであれば、将来入ってくるキャッシュ・フローを考えると、とんでもない金額になるかと思います。そのお金が旧会社に流れていけば、さらに旧会社・ジュリー氏の資産は膨らむでしょう。

同じようにファンクラブ会員のシステムについても、新会社が買い取る必要があるなら、年間で500億円ともウワサされる最大の収益源で、しかもサブスクリプションで継続的に将来にわたって何年も売上が続くので、ファンクラブから得られる事業の価値を評価すると、数千億になってもおかしくありません。会員の毎年の継続率が8割でも10年間で2200憶円くらいのキャッシュ・フローがあります。

ーー明確になってないお金の行方
本当にそこまでのお金を旧ジャニーズ事務所に払うのでしょうか?しかも、収益を吸い上げないと言っていたはずですが、結果的に100%株主のジュリー氏に残るお金が増えてしまう点も気になります。
補償・救済ためだけの会社が、過去の活動成果に対する収入とはいえ、利益を計上してもいいのか?もしタレントに配分されるはずだった分まで旧会社に残るとしたら、また大きな問題になるでしょう。

このあたりの質問が会見中には無かったので、どう考えているのか知りたいところです。

ビジネスとしては、資産を適正な価格で売却するというのは当たり前なので違和感ありませんが、この件に関しては、性加害が絡む社会問題となっているので、加害者側のメリットが世間からのネガティブな感情を生み出すかもしれない点に最大限配慮をしなければならないでしょう。

おわりに

上場企業の経営を監査やアドバイザリーで関わってきた経験からすると、コンプライアンスやガバナンス面などについても気になる点・言いたいことはありますが、今回はファイナンスや税務面を取り上げました。新会社の資本構成やファイナンス、エージェント化による収益構造の変化、旧会社精算時の残余財産に係る税金など他にも気になる点があるので、また取り扱うかもしれません。

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