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あの頃も鳥たちはさえずり 1/3

2022年11月11日 豊中まちなかクラシック
   (千里阪急ホテル クリスタルチャペルにて)

今年も「豊中まちなかクラシック」で演奏させていただきました。初めての会場、千里阪急ホテルのクリスタルチャペルは、天井が高く、空も見えて、なにより響きのとても良い場所でした。
例年のようにオーケストラの同僚(Vn)と、今回はとくにお隣のオーケストラの仲間(Fl)、そしていつも古楽を一緒に弾いてくれている仲間(Cemb)とも一緒に、16世紀から18世紀末の曲を演奏しました。

写真左から
内藤謙一(Vdg.) 秋山麻子(Cemb.) 巖埼友美(Vn.) 江戸聖一郎(Fl. Picc.)

お話を交えて1時間・休憩なし、という短い演奏会なので、ついつい喋り過ぎてしまう私の悪癖を予防する意味も含めて、当日のお客様にはプログラム・ノートをお渡ししました。ここではそれを引用しつつ、当日時間の関係やらその他の理由やらで話せなかったことや、更にはプログラム・ノートに書ききれなかったこと(まだあるのか!)などを追記したいと思います。あと、【余談】も。

きっと、いえ必ず長くなりますので3回に分けて書くことといたしますが、先ず全曲をご紹介。

プログラム

  • ◇作曲者不詳(16世紀)
     ◆やましぎ(Vdg. Cemb.)

  • ◇J.H.シュメルツァー(1623-1680)
     ◆ソナタ イ短調「かっこう」(Vn. Vdg. Cemb.)

  • ◇F.クープラン(1668-1733)
     ◆恋のうぐいす(クラヴサン曲集第3巻第14組曲より)(Picc. Cemb.) 
     ◆F.クープラン:フランスのフォリア、またはドミノ
      (クラヴサン曲集第3巻第13組曲より)(Cemb.)

  • ◇F.ドゥヴィエンヌ(1759-1803)
     ◆ソナタ 第1集より第2番 ニ短調(Fl. Vdg)

  • ◇G.P.テレマン(1681-1767)
     ◆パリ四重奏曲第1番ト長調twv43:G1(All)

  • ◇J.P.ラモー(1683 - 176)
     ◆コンセールによるクラヴサン曲集第3番より
      タンブーラン(アンコール)

最初に「ご挨拶」して、そのあと一曲ずつ
プログラム・ノートの引用→【追記】→【余談】の順に書いていきます。


◇ご挨拶

 本日はようこそお越しくださいました。短い時間ではありますが、どうぞ
最後までごゆっくりお楽しみください。

 古今の音楽家たちは、季節・花・風など自然そのものや、そこから受ける印象を託して、音楽をたくさん書き残しています。時代は下り、さまざまな事物や考えが現れては消えたり残ったりしながら世の中が変わっていくにつれて、楽器はもちろん音楽そのものも著しく変化してきましたが、自然に対する印象や感興などを音楽にしたいという思いは、昔のひとも今もあまり変わっていないように思えるのです。

 そこで今夜は前半に、いつも我々の傍らで美しい声(かつて音楽家たちがきっとインスパイアされたに違いない!)を聞かせてくれる鳥たちをタイトルに持つ音楽を並べてみました。後半のテレマンとドゥヴィエンヌの曲を含めて、16世紀から18世紀末という中期バロックから古典派にかかろうかとする時代の音楽を、現代のフルートとヴァイオリン、古楽器といわれるチェンバロとヴィオラ・ダ・ガンバを用いて演奏します(古今の折衷案のひとつ、とでも申しましょうか)。どんな楽器を使っていても、曲が作られた当時のこと・演奏習慣などをアタマに置いてリハーサルを重ねる間に、いにしえの音楽のエッセンスがゆっくりと姿を現してくれることを願い、それが少しでも皆さんに届くことを祈っております。

プログラム・ノート(当日配布)より


◇作曲者不詳(16世紀)
 ◆やましぎ(Vdg. Cemb.)
◇Anon. (16C) : ”Woodycock”

 きょう最初の鳥はやましぎ(山鴫)です。それほど私達の身近な鳥ではありませんが、ヨーロッパではジビエとして珍重されるようで、残念ながら乱獲によって数が減り、フランスでは禁猟だそうです。シャーロック・ホームズの短編「青い紅玉」にも、ハドソン夫人が調える食材としてその名が登場しています。
 曲はおそらく16世紀後半、エリザベス1世のころのイングランドで作られたらしく、少なくとも1580年ころにはガンバのための楽譜が存在していました。また、それ以後の時代に渡っても演奏し続けられています。例えば1651年に出版された「The English Dancing Master」というダンス教本にも楽譜付きでステップが紹介されています。
 今日のプログラムの中では一番古い音楽です。

プログラム・ノート(当日配布)より

【追記】

「ガンバのソロで鳥の曲…?」プログラムを考える上で相当悩んでいたのですが、突然この曲のことを思い出した自分を、あとで少しだけ褒めました(告白)。この曲の詳細については(当日お話ししたとおり)わからないのですが、曲自体の素朴で不思議な魅力に、弾くごとにかれていました。

やましぎについては以下にいくつかリンクを。

【余談】

スナイパー(狙撃手)は、飛行パターンが読みづらいタシギ(英語名snipe)(鴫仲間)を仕留めるのが難しかったことから、狩猟の名人を指したことばだったとのことです。歩き方を見てると、ちょっと想像しにくいのですが、鴫仲間にもいろいろいるのかな。

確認されている限り、英語で「狙撃手」を意味する"sniper"という単語は(中略)「狩猟の名人」を指す言葉として用いられている。その語源となったのは、野鳥のタシギ (snipe) であった。タシギはその性質や逃亡時の飛行パターンから、当時の狩猟用銃器の精度水準では仕留めることが困難だったため、タシギ猟を他の鳥類の狩猟と区別して"snipe shooting"と呼び、これが略称となって"sniping"として定着し、そこからタシギを上手く仕留められるほど優れた猟師のことを"sniper"と呼ぶようになったとされている。

Wikipedia

昔の人たちは、食べるためにやましぎを捕獲しようと、猟犬を使いました。

(略)もともとイギリスから輸入されたスペインの猟犬であるスパニエルにはじまる。名前の「コッカー (cocker) 」は、もともとヤマシギ (woodcock) を狩っていたことに由来する。1620年、メイフラワー号で最初の移民とともにやって来た2頭の犬のうちの1頭がコッカースパニエルだったと言われている。

Wikipedia


やましぎピヨピヨ

◇J.H.シュメルツァー
 ◆ソナタ イ短調「かっこう」(Vn. Vdg. Cemb.)
◇J.H.Schmelzer (1623-1680) : Sonata CuCu a Violino Solo

 シュメルツァーは最初コルネット奏者としてウィーンの礼拝堂に勤め、のちに皇帝レオポルト1世の宮廷楽長にまで昇りつめました。ドイツ語圏で最初に「ヴァイオリンと低音のためのソナタ」という表記の曲を書いた人とも言われています。オーストリアの君主としてはマリア・テレジアが有名ですが彼女はレオポルト1世の孫にあたり、さらにその子の世代には、モーツァルトではなくサリエリを楽長に雇っていたヨーゼフ2世とマリー・アントワネットの兄妹がいます。
 曲が始まるとスグにかっこうが鳴いてくれますし、そのあともたびたび声が聞こえてくると思います。曲のかたちは、いわゆるヴァイオリンソナタ(バッハ、ヴィヴァルディ、モーツァルト、ベートーヴェン…)のように楽章に分かれているのではなく、少し前の時代の形式で(曲想を次々に変えながら、ある程度自由に演奏するように)書かれています。

プログラム・ノート(当日配布)より

【追記】

バロック音楽…とくに中期バロックと言われるような、バッハより少し前の作曲家の音楽は、まだ演奏される機会に恵まれていませんが、この曲などは曲の持つ愛らしさや描写の巧みさや曲想の変化など、初めて触れる音楽のとっつきにくさのようなものを感じずに通れるのではないかと思い、プログラムに入れたくて提案したのですが、鳥好きの巖埼さんは快諾してくれました。

かっこう


一般的な知名度としては残念ながら少し控えめなので載せなかったのですが、古楽のフィールドでヴァイオリン・ソナタの話をするときに、本当はもうひとりコレルリの名前を加えたかった…。

【余談】

シュメルツァーのWikipediaを読んでいただくと、きっと気になる記述を発見されるでしょう。

放屁の日のためのソナタ(Sonata a 5 per camera al giorno delle correggie)(1676年)

Wikipedia

リンクしてすぐに聴いていただくこともできなくはないのですが、曲についての情報や知識もなく当然演奏したこともないので、明示的なリンクなどは載せないでおこうと思います。興味のある方は、曲のタイトルで検索してお聴きになってみてください。たいへんきれいな曲ですが、途中で「これは!」「えっ?」という箇所が見つかること必至です。
ただ、この曲のことをファゴット奏者もしくはファゴット愛好家に話すときは過度な「面白半分み」があからさまになりませんよう、ご注意くださいね。

                            

                     

=次回予告=

次回(2/3)は、クープランのふたつの曲について書きます。
引き続き、気軽に読んでくださいね。