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生活圏でヒグマの恐怖 畑仕事中に襲われ女性死亡|北海道・福島町|令和3年

本記事は書籍『日本クマ事件簿 〜臆病で賢い山の主は、なぜ人を襲ったのか〜』(2022年・三才ブックス刊)の内容をエピソードごとにお読みいただけるように編集したものです。


はじめに

本稿では、明治から令和にいたるまで、クマによって起こされた死亡事故のうち、新聞など当時の文献によって一定の記録が残っている事件を取り上げている。

内容が内容ゆえに、文中には目を背けたくなるような凄惨な描写もある。それらは全て、事実をなるべく、ありのままに伝えるよう努めたためだ。そのことが読者にとって、クマに対する正しい知識を得ることに繋がることを期待する。万一、山でクマに遭遇した際にも、冷静に対処するための一助となることを企図している。

本稿で触れる熊害ゆうがい事件は実際に起こったものばかりだが、お亡くなりになった方々に配慮し、文中では実名とは無関係のアルファベット表記とさせて頂いた。御本人、およびご遺族の方々には、謹んでお悔やみを申し上げたい。

事件データ

  • 事件発生年:2021(令和3)年7月2日

  • 現場:北海道福島町

  • 死者数:1人

クマと人間の生活圏が近い環境
見通しの悪い畑で襲われる

北海道南西部、渡島半島に位置する福島町は、南岸が津軽海峡に面する漁業の町だ。北海道最大規模の海水浴場もあり、夏は家族連れで賑わう。役場や小中学校、住宅は海の近くに集まっており、内陸はほとんど山地となっている。

「クマがいることは日常の一部みたいなもの」と地元住民が言うほど、ここでは人間とクマの生活圏は近い。

しかし、クマによる被害報告は人的・物的にも、近年はほとんど確認されておらず、それぞれの暮らしを守りながら共存しているといえる状況だった。

死亡事故が起きたこの年も、クマの目撃情報はあったが、件数としては例年並み。被害者となった女性(77歳)もいつものように畑仕事に出かけていた。

女性がジャガイモやカボチャを育てていた畑は、海沿いの国道から津波避難用の階段を上がった場所にある。少し先には北海道新幹線の線路も通っており、住宅地からもそう遠くない距離だ。

ただし畑は海に迫る山林の中ということもあり、周囲は茂みに囲まれ見通しは悪い。畑仕事は彼女の日々のルーティンだった。

畑仕事に行き行方不明に
遺体は上下半分の状態で発見

7月1日の朝、女性は夕方までに帰ると家族に告げて畑へ向かったが、夜になっても戻らなかった。心配した家族や知人は、手分けして付近の捜索を開始した。

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