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猪犬特訓の世界 〜 第七回 那須塩原猪犬競技会

本稿は『けもの道 2017秋号』(2017年刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。


開催日|平成29(2017)年4月9日
開催場所|那須塩原猪犬訓練所(所長:小林達也)
審査員|羽田健志・望月金久・三村文昭
審査講評|羽田健志
写真|佐茂規彦・及川忠宏

成犬の部

前回(第六回全国猪猟犬栃木大会)に引き続き、今回も出犬頭数最多の成犬部門。入賞した上位3頭は、予選、決勝ともに安定した立ち回りを見せてくれました。特に優勝した鈴木氏の「ハナ」号と準優勝の佐藤氏の「カイ」号については非常に僅差で、まさに甲乙つけがたい審査となりました。

犬の猟芸は、血によるもの、いわゆる系統などからくる先天的な素質と、実猟を経て会得する後天的な付加要素とがあり、それらが融合された、まさに円熟の芸を見せてくれるのが成犬ならではの醍醐味であります。

そういった意味では、両犬とも先天的な素質がそのまま伸びて来た感があり、守りの巧さより攻めの勢いが目立ち、その中で僅かに集中力と気迫が上回り、前肢の運びが巧みに見えた鈴木氏の「ハナ」号に軍配が上がりました。

鈴木氏は今回若犬部門でも準優勝、またこの部門準優勝の佐藤氏は、前回の大会では「ヤマ」号で文句なしの優勝を飾った方であり、3位「リク」号の所有者出頭氏は前々回の大会で特別賞を受賞された方であります。

口ばかり、名ばかり、または井の中の蛙のような人も多いこの世界で、常に私たちの目の前で堂々と良犬を披露する姿勢に心から敬意を表します。

若犬の部

前回は他の部門に比べると少し精彩を欠いた若犬部門ですが、今回の入賞犬、特に上位2頭は目を引くものがあり、やはり非常に僅差での審査結果となりました。

予選では鈴木氏の「ブチ」号がこの部門では圧巻の立ち回りで存在感を示し、頭一つ抜き出ていましたが、決勝ではちょっとしたハプニングもあり、集中力を欠いてしまう場面が見られ、結果、予選・決勝ともに安定した立ち回りを見せた伊藤氏の「うる」号に軍配が上がりました。

両犬は対照的で、伊藤氏の「うる」号は、単独止め猟よりグループ猟、鈴木氏の「ブチ」号はグループ猟より単独止め猟において、より力を発揮するタイプのように見受けられました。

しかしながら伊藤氏の「うる」号は、主がその特性をよく見抜き、活かせば単独猟でも充分な猟果を得られることだと思います。

また鈴木氏の「ブチ」号は、攻めの強さ、勢いには目を見張るものがありますので、今後さらに実猟を経て攻守のバランスがとれた犬に成長できれば、実猟において最良のパートナーとなることが期待できます。

このように、現時点での結果もさることながら、将来性、可能性といったことに大いに興味を持たせてくれた今回の若犬部門でした。

幼犬の部

幼犬の部については、実戦経験が乏しいか全くないのが普通であり、その犬の持つ素質、そして猟付きが早いか遅いかで明暗が分かれます。

そうなって来ると、やはり系統というものが重きを成し、犬を見抜く目のある飼い主の力量にも左右されることになります。

まさに犬そのものより、出犬者の力量を試される部門といっても言い過ぎではないのかもしれません。

そういった意味からも、過去、幾多の競技会で数多くの入賞を果たした長岡氏の所有する「ゆず」号が他を突き放し、出犬者共々力量を見せつけてくれました。次点の北山氏所有の「キュウ」号も将来性を感じさせるものがありました。

「ゆず」号をはじめ、この部門に出場した犬たちは当然ながらまだまだ粗削りな部分はありますが、実猟を経て、無事生き延び、かつ潰されることなく、その過程で犬自身が学習し会得したものと素質から来るものが融合された、より進化した立ち回りを改めて披露していただきたいと感じました。

多くの猪犬にとっては、一度痛い目に遭ってからこそ真価が問われることが多いことだと思います。実猟を経て、無事猪犬として活躍できることを願っています。

終わりに

今回も全国津々浦々から、年代も幅広く、たくさんの猪犬ししいぬ愛好家が集いました。

実猟云々と述べて訓練所や競技会を敬遠される方もおりますが、主催者、スタッフをはじめ多くの出犬者、そしてもちろん審査する側も、そのようなことは百も承知の上で楽しんでいる、ある意味大人の交流の場がこのような競技会や訓練会であると思います。

また、損得勘定ではなく、猪犬の世界を盛り上げたいという気持ちを持った人たちが集うからこそ、このような催しが成立するのだとも思います。

特に主催者、スタッフの方々におかれましては、準備から進行、後片付けまで大変なご苦労をされていることだとお察しします。そして、その原動力となるものは、やはり減りつつある猪犬の世界を盛り上げたい、そして皆で楽しみたいという一心であると感じます。

犬で猪が獲れるようになると、最初のうちは獲れればよいという風に考えがちになります。系統は二の次、獲らせてくれる犬が良い犬という風に考えがちになります。

それも一理あり、そのままの考えでいく人もいれば、どう獲るかにこだわりを持ち始め、自分の猟のスタイルとともに犬の芸を追求していく人もいます。そこで「系統」というものが重要になって来ます。

拾った犬でも、様々な血が入った混血犬でも、猪は獲れます。しかし、どう獲るかにこだわりを持つようになり、自分の目指す道を確実に歩み続けていこうとするときに、バラツキのない芸を何代にも渡って続けてくれるパートナーの重要性に気づきます。

そこで先輩方がなぜ系統にこだわるのか、なぜ系統というものを非常に重要視していたのか、身をもって知ることになります。

猪犬の総数が減れば、先輩方が大切にして来た系統の存続も並行して危ぶまれるようになります。

たしかに、猪犬の猟芸のすべてを訓練所の中で見ることはできません。捜索、連絡、起こし、追跡、戻り、協調性、独立性等、猪犬として大切な要素はたくさんあり、訓練所の中でそれらすべてを見抜けという方が無理だとは思います。

しかし、出犬者と交流を深めることができたなら、猟野でそれらを見させていただくことも可能になるかも知れません。

また、その後、犬を通じて猟人生を長く共にする出会いになることもあるでしょう。そして、お互いのスタイルに共通点を見出すことができたなら、系統繁殖の協力者になり得ることもあるかも知れません。そしてそれが系統の存続に繋がることになれば、本当に素晴らしいことだと思います。

たかが訓練所という人もいますが、されど訓練所です。そして、そのハイライトが競技会です。人との出会い、犬との出会いをはじめ、本当に多くのものをもたらしてくれるのが訓練所であり、競技会であります。そのような場を毎年提供してくださる主催者、スタッフ、参加者の皆様に改めて感謝申し上げ、猪犬の存続とともに、各地の競技会、訓練会の永続を心より願っております。

今までなかなか腰が上がらなかった猪犬愛好家の皆さん、ぜひ交流の場へ一度足を運んでみませんか。そして自ら出犬することできっと世界が広がり、深みが増すことでしょう。私がそうであったように。(審査講評|羽田健志)

(了)


狩猟専門誌『けもの道 2017秋号』では本稿を含む、狩猟関連情報をお読みいただけます。note版には未掲載の記事もありますので、ご興味のある方はぜひチェックしていただければと思います。

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