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【当世猪犬見聞録】強い絆で結ばれた猪犬と人犬一体で猪を獲る

本稿は『けもの道 2019春号』(2019年4月刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。


文・写真|八木進
取材日|2019年2月9日・24日

今回の猟人:佐野勝巳氏(三重県松阪市)

譲り受けた「小倉系」猪犬と育んだ強い絆

止め犬を使用しての猪猟は「咬み止め」と「鳴き止め」に大別できるが、「咬み止め」は猪犬の強さによって「咬み」と「鳴き」が混在する「絡み止め」の場合もある。「鳴き止め」は猪に歯をかけず「鳴き声」のみで猪を止めることが原則であるが、猪の大小や強弱によって少し歯をかける場合もあるようである。

私の凡犬は「絡み止め」に毛の生えたような猪犬であるが、ベテラン犬が単犬で猪を鳴き止める場面があり、捕獲後に猪を見ると後脚などに犬による咬み跡がある。これは「鳴き止め」にはならないと思われるが。

三重県松阪市在住の佐野勝巳氏(65歳・当時)は、45年の猟歴のうち当初の10年間は英ポインターによる鳥猟に傾注し、その後の35年を猪猟一筋に取り組んできた。

当初から単独猟を志し全国の各種「止め犬」を模索するが、咬み止め犬では思うような猪犬に巡り合えず、偶然三重県に残された「地犬」に出会うことになる。

昔から猪犬ししいぬとして名高い「紀州犬」は、和歌山県が原産地と思われがちであるが紀伊半島一帯が原産地であり、奈良県・三重県からも歴史の残る名犬を輩出している。

中でも三重県は古くから紀伊半島の玄関口として交通の要衝であり、又、豊富な材木や海産物などを商う裕福な人々が優秀な「紀州犬」を求めた結果、名犬が集まることにもなった。著名な紀州3名犬のうち「義清の鉄」と「鳴滝のイチ」の2犬が晩年を三重県で過ごしている。

大台ヶ原おおだいがはらを源に伊勢市に流れ下る宮川みやがわは三重県下一の大河であるが、その川筋は古くから優秀な猪犬を育んだ。

佐野氏が猪猟を志して数年が過ぎたころ、猟場で卓越した猪猟人と猪犬に巡り合う。その猟人が使役する猪犬が宮川筋の「地犬」であった。

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