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カワウシャープシューティング 〜 琵琶湖で繰り広げられる官・民・漁協の総力戦

本稿は『けもの道 2019秋号』(2019年9月刊)に掲載された特集記事『カワウ対策特集2019』を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。


文・写真|佐茂規彦

カワウシャープシューティングとは?

営巣地の拡大とともにその生息数を増やし、各地で水産被害などの原因となっているカワウ。無計画な捕獲は、効果がないばかりか、かえって被害が拡大する場合もあることが知られており、その対策は一筋縄ではいかない。

巣材を持って飛ぶ成鳥(イーグレット・オフィス撮影)

しかし、そんなカワウ対策で明確な成果を出している世界初の事例が滋賀県で行われているカワウシャープシューティングだ。

シャープシューティング(以下、SS)とは野生動物管理のプロである民間事業者が、カワウのモニタリングに基づく捕獲計画の提案とエアライフルによる射撃を担い、科学的かつ計画的に行う非常に高度な取組みのこと。

今回、滋賀県琵琶湖に浮かぶ小さな島、竹生島ちくぶしまで行われている SS によるカワウ対策事業への同行を許され、その現場を取材した。

「どんな射撃技術を見られるのか?」と期待に胸を膨らませつつ当日を迎えたが、カワウ対策に奮闘する関係者たちの姿を追って分かったことは、SS とは、専門的かつ高度な射撃技術のみによって成否が決まるものではなく、関係者たちの協力と連携、そして相互理解を必要とする総合的な捕獲体制だということだった。

皆で漁船に乗り込み、いざ竹生島へ。オレンジベストはもちろん狩猟用のものではなく、救命胴衣で、筆者も着用して一緒に移動

竹生島とは?

竹生島は滋賀県長浜市の沖合にある周囲約2km の無人島で、島には「竹生島宝厳寺ちくぶしまほうごんじ」という寺と「都久夫須麻神社つくぶしまじんじゃ」という神社がある。

宝厳寺は奈良時代、聖武天皇の夢枕に立った天照大神あまてらすおおみかみのお告げにより行基をつかわし弁才天像を安置したのが始まりとされる。その後、千手千眼観世音菩薩像せんじゅせんげんかんぜおんぼさつが安置され、現在では弁才天は日本三弁才天の一つとして、観世音菩薩は西国三十三ヶ所観音霊場の第三十番札所として信仰の対象となり、さらには琵琶湖第一のパワースポットとして注目され、参拝者や観光客が後を絶たない。

戦後しばらくカワウがいなかった竹生島でカワウの再営巣が初めて確認されたのは昭和57年(1982年)とされ、その後、爆発的に生息数を増やし、その数は最大約60,000羽まで増えた。糞と巣造りのための枝折りによって樹木は枯れ、島は荒れ果て、岩肌がむき出しとなった。

2008年に撮影された竹生島。カワウの巣窟となり、植生は壊滅的なダメージを受けていた。(イーグレット・オフィス撮影)
植生が回復した現在の竹生島

県をあげてのカワウ対策

カワウ対策の朝はもの凄く早い。朝5時前に県職員や地元漁協関係者、そして射撃作業を担うイーグレット・オフィス(以下、イ社)の作業者たちが琵琶湖沿岸のとある港に集合した。ここから漁船に乗り込み竹生島へ向かう。

漁港を出発する前に当日の参加メンバーで記録撮影。県職員2名、漁協関係者3名、イ社4名の混成部隊だ

滋賀県では現在、第二種特定鳥獣管理計画(第三次)を策定し、県全体でカワウ対策に取り組んでいる。その中で SS を導入したカワウ対策事業は今年で11年目を迎える。

それまでは、18年にわたる猟友会の銃器捕獲をはじめ、繁殖抑制や営巣妨害など、さまざまな対策を実施したものの一向に成果が見えず、県内におけるカワウの生息数は平成20年の春に約38,000羽、秋には約75,000羽というもの凄い数に膨れ上がっていた。

滋賀県では「湖アユ」と呼ばれる琵琶湖と周辺河川の淡水域のみで成長するアユが特産の一つだが、それはカワウにとっても格好の餌となる。カワウがもたらす水産被害は県として非常に大きな問題なのだ。

県では主に水産課と鳥獣対策室の二つの部署がカワウ対策を担当している。そのうち、水産課による被害防除事業は営巣地対策と飛来地対策に分かれていて、SS は営巣地対策に当たる。

カワウは集団生活を営む習性があるため、個体の集まる営巣地では個体数調整が容易にできると思われがちであるが、捕獲のタイミングや捕獲圧の調整が不適切だと営巣地を拡散させてしまい、被害が深刻化する場合がある。

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