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【大会レポ】猪犬訓練の世界 〜 第六回全国猪猟犬栃木大会

本稿は『けもの道 2016特別号』(2016年刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。


文・写真|佐茂規彦

猪猟師が集う社交の場

平成28年4月10日、栃木県にある那須塩原猪犬ししいぬ訓練所において開催された「第六回全国猪猟犬栃木大会」。

この大会は、関東を中心に活動する若手猪猟グループ「猪鹿庁」(※岐阜県のNPO法人「メタセコイアの森の仲間たち」とは別団体)のメンバーらと北関東清水犬舎が主催し、年1、2回開催されている猪犬の競技会だ。

成犬の部●シロ号(6才・メス)●出犬者:泉水氏(千葉県)●惜しくも決勝進出を逃したが、猪に対して鋭い立ち回りと、突かれず離れずの絶妙な間合いの取り方を披露した

猪猟師が自慢の猪犬を引き連れ、互いの犬の猟芸を披露し、競い合う猪犬競技会。一昔前までは全国各地にあった猪犬訓練所で盛んに行われていたが、狩猟者の高齢化や、「犬持ち猟師」の減少とともに次第に開催地も少なくなり、現在も開催を継続している各地の訓練所は、東西の猪猟師たちが一同に会する数少ない“社交の場”にもなっている。

そのような中、今回の出犬数は、成犬28頭(月齢20ヶ月超)、若犬10頭(月齢20ヶ月以内10ヶ月超)、幼犬10頭(月齢10ヶ月以内)を数え、過去の大会で出犬経験の無いニューフェイスの参加もあり、「同じ顔触ればかり」ではない参加犬を見ることができ、猪犬の世界に新しい動きが感じられた。

また、本会の主催者メンバーは若い実猟家たちが多く、競技の充実に加え、一つの「イベント」としての完成度も高かった。数名のスタッフが無線で連絡を取り合い、終始スムーズに犬や猪の出し入れが行われた。競技が見やすいよう観覧用の足場が訓練場の周囲をしっかりと囲み、主催者家族が現地で出来立ての手料理を振る舞うなど、参加者だけでなく一般の見学者も楽しめるよう、工夫が凝らされていた。

猪犬と猪の躍動に興奮しつつ、本会が全国に向け、「猪犬を使った猪猟」の興隆の機運となるよう期待を抱かずにはいられない一日だった。

幼犬の部・第3位●ハチ号(紀州・9ヶ月・オス)●出犬者:栗牧氏(鹿児島県)●ブッシュから飛び出す猪に対し素早く回避行動をとる
成犬の部●リキ号(2才6ヶ月・オス)●出犬者:出頭氏(茨城県)●場内に入るや否や、激しい猟欲を見せる
成犬の部・決勝進出●イチ号(紀州・8才・オス)●出犬者:石神氏(茨城県)●決勝戦で逃げる猪に対し、追い足が冴える

【総評】大会審査委員長・羽田健志氏

今大会も、東北地方から九州地方まで多方面からの参加があり、また出犬者の年齢もベテランから若手までと幅広く、数多くの出犬がありました。

前回も述べさせていただきましたが、これも一重に、主催者並びにスタッフの方々の熱意・努力そして人柄の賜物ではないかと思います。また、これまでの大会運営や、参加者のマナーの良さなどが評価されて来たことの証であるとも思います。

成犬の部

今回、最も出犬頭数の多かった成犬の部については、巧みな絡みを見せる犬、猪を見るなり一直線に突っ込み強烈な咬みを見せる犬など、様々な犬を見ることができました。

その成犬たちに対峙する猪も素晴らしい動きと駆け引きを見せてくれ、特に決勝で使用された猪は、まさに犬の能力を測るのにふさわしい猪でした。

成犬の部・第3位●ケイジ号(紀州・3才・オス)●出犬者:山崎紀幸氏(栃木県)●決勝戦で大猪と対峙するケイジ号。実猟で培われたであろうフットワークの良さが見られた

予選では一気に咬みに入った犬たちも簡単には太刀打ちできず、スピード、フットワーク、集中力などをバランスよく、満遍なく発揮することが求められ、その上で途切れぬ鳴き、素早い付け込み、単なる顎の強さ云うんぬ々んではない咬みの巧うまさがあってこそ、互角に立ち回ることができるというほどの素晴らしい猪でした。

優勝した佐藤光司氏所有の「ヤマ」号は、この猪に立ち向かうために求められるそれらの要素をいかんなく発揮し、素質と実戦を経て会得した、まさに成犬らしい円熟かつ迫力のある芸を披露しました。

成犬の部・優勝●ヤマ号(紀州・6才・オス)●出犬者:佐藤光司氏(千葉県)●予選で猪に吠え込むヤマ号。猪が気迫に押されて後ずさりしている
成犬の部・優勝●ヤマ号(紀州・6才・オス)●出犬者:佐藤光司氏(千葉県)●決勝戦で猪を追い込むヤマ号。旺盛な猟欲で、逃げる猪を追跡する

先にも触れましたが、このような競技会において犬の猟芸を引き出すには猪の良さも必要であり、このような猪を継続的に育て上げることには並々ならぬ労力が費やされるものと思われ、この点に関しましても関係各位に敬意を表するものであります。

成犬の部・準優勝●リュウ号(紀州・8才・オス)●出犬者:佐藤光司氏(千葉県)●決勝戦でブッシュに隠れる猪に吠え込むリュウ号
成犬の部・決勝進出●ギン号(紀州・3才6ヶ月・メス)●出犬者:北山氏(三重県)
成犬の部・決勝進出●イチロー号(紀州・3才・オス)●出犬者:池田氏(茨城県)

若犬の部

若犬の部については今回、全体的に精彩を欠いた部分も見受けられましたが、実戦を幾度か経て猪の怖さを知りつつ距離を測りながらの立ち回りを見せた、高木正雄氏所有の「リサ」号に軍配が上がりました。

若犬の部・優勝●リサ号(紀州・1才5ヶ月・メス)●出犬者:髙木正雄氏(栃木県)●予選の速い猪を果敢に追うリサ号

幼犬の部

まず出犬番号1番である鈴木聡氏所有の「ルイ」号が、生後4ヶ月に満たないながらも、場内に入り猪を認識するなり全力疾走。さらに鳴きながらの追走を見せ、場内を沸かせました。

幼犬の部●ルイ号(紀州・3ヶ月・メス)●出犬者:鈴木氏(群馬県)●3ヶ月にして猟欲を見せたルイ号。将来が楽しみだ

また、この部門の優勝犬である清水威人史たけとし氏所有の「マルコ」号は、前脚を巧みに使ったフットワーク、途切れぬ鳴きと集中力において非常に素晴らしく、両犬とも、まさに「栴檀せんだんは双葉より芳し」を体現していたと言っても過言ではありませんでした。

幼犬の部・優勝●マルコ号(紀州・9ヶ月・メス)●出犬者:清水威人史氏(埼玉県)●幼犬でありながら熟練の猪犬と見まがう動きと猟欲を見せたマルコ号

終わりに

今回も初参加の方々が多く、特に出犬者の方々にとっては非常に得るものが大きかったことと思います。

競技会や訓練会は、人と人とのまたとない交流の機会でもあります。どうかこれからも、全国の皆様に積極的にご参加いただき、この場を通じて交流を深めていただけたらと思っております。

終わりに、このような素晴らしい機会を毎回提供してくださるスタッフの方々や勇気ある出犬者の皆様に感謝申し上げ、会の永続を心よりご祈念申し上げます。

成犬の部優勝の佐藤光司氏らのグループと大会審査委員長の羽田健志氏(前列左)。次回の大会ではまた新たな参加者が集うことを期待したい

(了)


狩猟専門誌『けもの道 2016特別号』では本稿を含む、狩猟関連情報をお読みいただけます。note版には未掲載の記事もありますので、ご興味のある方はぜひチェックしていただければと思います。

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