朗読劇「ノンセクシュアル」感想その2 ♧バージョン


昨夜、♧バージョンを見損ねてしまったため、思い切って今日は仕事を休んで昼に見るという暴挙をかましました。だってどうしても見たかったし、年休は余りまくってるし、仕事も致命的不都合は出ないし。そもそもワンオペ体制なのが悪いんであって私の責任じゃないもんね。

というわけで、感想ですが、まず一言、
ぜんぜん違った!!!!!

全体の話に関する感想、前記事と重複することは除いて、
この♧バージョンの配役ならではのことや、
2回目に見て気づいたことなどをメインに書いていきたいと思います。

初見の感想はこちら


初見時の勘違い訂正

①蒼佑が瑛司に、君の音楽を聞く前に出会ってよかった、って言ってたのは、瑛司はファンとは一線を引くから、ですね。曲は気に入ったって言ってました。初見のときは、曲は蒼佑好みでない、生々しい欲を感じさせるものだったのかと思っていて…。そうじゃなくて、ファンから入ったのではない友人=ならば一線を引かれることもなく、このリングも親友の証として受け取ってくれるだろう、という流れでしたね。
でも、皮肉なことに、瑛司は、「借りをつくるようでファン以外からのプレゼントは受け取らない」と侑李の口から語られている。瑛司は、蒼佑の思い込みとは逆に、ファンからのプレゼントなら受け取るんですね…ここでも二人の「常識」のすれ違いがありました。

②愛してる、と言ったときに、二人は決定的に決裂したと思ったんですが、トドメを刺したのはキスであって、むしろ「愛してる」の言葉は蒼佑にとっては嬉しかったんですね。バラ色に頬を染め、っていう語りがあった。でもキスはダメなんだ。
そのあと、優しく瑛司の髪を撫でる仕草があったことから、子供にするようなスキンシップだったらOKなのかな?などと邪推してみたり。この、どこまでを性的とみなすのか、何を嫌悪するのかって、ほんとに、ノンセクシュアル当事者間でさえ違うこともあるでしょうし、難しい線引きですね…。


瑛司(相馬さんバージョン)

ずっと何かにおびえてるような感じ、というのが、率直な印象です。
相馬さん、YouTubeでのキャストトークライブで言ってたとおり、緊張ですごく手が震えてたんですよね。でもそれが、相馬さんが演じる瑛司像の要素になっていた気がします。
あと、ずっと台本持ってない方の右手を、膝に挟んでいたんでしょうかね?相馬さん、ただでさえめちゃくちゃ痩せてて不安定に見えるのに、その姿勢が細い身体をさらに細く見せて、不安定、という印象でした。

相葉瑛司は、自信たっぷりとまではいかなくても、愛にあふれてる博愛の人、という印象だったんです。それはまあだから、蒼佑からすればだらしなく見えるんでしょうが、本人は至って真面目に、至極当たり前に愛を与え与えられて生きているというか…。
ところが相馬瑛司は、生きていくのがすごく下手に見えました。すぐ人を好きになってしまうのは、人に依存するような感じ、身体でつながらないと不安だっていう感じもあるのかなあと。
おそらく、人に受け入れられないことが不安で仕方ない、といったところでしょうか。人とつながるために、自ら身体を差し出しているような感じ。
愛を「与え与えられている」という相葉瑛司に比べて、もうほんと、「差し出してつなぎとめている」っていう言葉が似合うような。
ものすごく人間関係が不器用で、これが自分の当たり前、って感じで生き方を選んでる相葉瑛司と違って、もうこんなふうに不安定にしか生きられない、もうこういうふうにしかできない、って、選んだわけではないけどこういう生き方になってしまったような感じでした。妄想たくましいな自分…

相馬瑛司の言動の一つ一つが、いちいち人の目を気にして怯えてるような感じがあったんですよね。
顔がはれてたら仕事で怒られる、とか、蒼佑に音楽気に入ってもらえてよかった、とか。
そりゃ音楽は受け入れられたら嬉しいんでしょうけど、ポジティブに嬉しいんじゃなくて、受け入れられないことを極度に恐れていたからこその嬉しさのように見えて。

相馬瑛司は、侑李がアセクでなければ寝てそうな感じはなかった。相葉瑛司だったら寝てそうな感じがしたんですけどね。
寝ないからこそ親友でいられる、ってのは二人ともそうなんですが、相葉瑛司の場合は、単にあの、時に修羅場になってしまう恋愛関係とは切り離してる、って意味なのに対して、
相馬瑛司は、侑李とも寝たら半ば依存しちゃいそうな感じがあって…たとえば3万円だろうがそれ以上だろうがすぐ貸してあげちゃうような。そうはならないからこそ、相馬瑛司にとっての侑李は、落ち着いて話せる相手なのかなと思いました。

今回の瑛司は、「失敗だ」というセリフが印象に残りました。
冒頭にラッコが貝を割る話で、失敗したかったわけじゃないのに貝を割り損ねたら、なんて話をして、自分が塔子と寝てしまったのも、ちょっと貝の位置がずれたような偶然であって失敗ではない、という論法で秀樹を丸め込もうとしてたんですよね。
でも蒼佑に監禁されて、失敗だ、と。やっぱり、人間関係をうまく築けないことを極度に恐れている人なんだなあ、と思いました。人間関係にトラウマがありそうな感じ。この、対人関係の失敗が怖いから、いろんな人にすがるように身体を差し出して、今はなんとかうまくやっていける状態になっていたけど、蒼佑に対しては、恐れていた「失敗」をしてしまった、と捉えているのかなあと。


蒼佑(相葉さんバージョン)

蒼佑が自信たっぷりすぎて怖かった。
鯨井蒼佑は、もう見るからに翳のある人で、そして理屈の人だからそれをうまく覆い隠すのもうまい、という感じでしたが、
相葉蒼佑は、自分が間違ってないと信じ込んでいる感じが鯨井蒼佑より強かったように見えました。

鯨井蒼佑は、あのことがあったから壊されてこうなったんじゃないか、もしかしたらあのことがなければこうはならなかったんじゃないか、と思わせる余白があったけど、相葉蒼佑見てても、そんなことは微塵も思いませんでした。
もし家族のことがなくても、この人の本質はこういう思い込みとか激情とかなのかも、って思わされるような。女に犯されながらも、自分は絶対に間違っていない、間違っているのはこの汚れた女の方だ、みたいな、変な方向に強靭な自尊心があったように見えて。鯨井蒼佑にはなかった、サイコパスみたいな感じ。
自分の世界を構築するのに、理詰めでもってするような鯨井蒼佑と、内から湧き出るエネルギー、絶対的自信でもってする相葉蒼佑、といったところでしょうか。
先に♤を見て展開を知ってるからかもしれないですけど、相葉蒼佑はファーストカットですでに、獲物を物色するような目をしていたようで、まだ何も始まってない瞬間から怖かったです。鯨井蒼佑も、彼なりに怪しげな物憂い表情だったと思うんですけど、あの相葉蒼佑のハンターの目は怖すぎる。

蒼佑にも印象に残った言葉があって、「犯罪」。
最初、瑛司を襲う塔子に向かって、蒼佑は、「あなたがしていることは犯罪だ、警察を呼びますよ」と言って引き離すんですよね。
でも、終盤、瑛司に「人殺し」「犯罪者」と言われても意に介さず、なぜわかってくれない、と激昂する。
きっと蒼佑の中の論理では、セックスこそが犯罪であって、人殺しは犯罪にはカウントされないんだろうなあ…。
たぶん鯨井蒼佑でこの言葉を聞いたときは、彼の論理的な雰囲気のせいで、なんだかこの理屈を見ているこっちもすんなり飲み込んでしまっていたような気がするんです。だから強烈な印象!ってほどではなかった。
相葉蒼佑のこの強硬な主張で語られると、俺がルールだ、みたいな感じがあって印象深かったです。


ちょっとキャッチコピー風にまとめてみるとするなら、
♤善人の凡人(相葉瑛司)が静かな狂気(鯨井蒼佑)に巻き込まれていくホラー
♧もとから不安定で不器用な人(相馬瑛司)が激情のサイコパス(相葉蒼佑)に潰されていく悲劇
って感じですかね。
ホラー感は♤の方が強くて、♧はとにかく相馬瑛司がもともと不安定なのにさらに壊れるさまがひどくて…(ほめてる意味です)


侑李(鯨井さんバージョン)

瑛司と蒼佑のキャラが変わって、オセロを一つひっくり返すとその間に挟まっている石がすべてひっくり返るように、侑李と秀樹も変わっていました。

侑李の世間離れのしかたも、相馬侑李と鯨井侑李では変わっていて。
相馬侑李がシンプルに距離を取る、どこまでも対象物に「分析」の理系の目しか向けない感じだったのに対して、
鯨井侑李は老成した感じを受けました。精神年齢を上げる(それも数年ではなく数十年単位)ことで、疑似的なおじいちゃんみたいになって、世間からリタイアする体で距離をとっている感じ。
相馬侑李の方は若くて、カモノハシ愛やコツメカワウソ愛が強いイメージでしたが、
鯨井侑李は、もちろんカモノハシとかも好きなんだけど、それも相馬侑李ほどではなく、そもそも何に対しても愛は薄い気がしました。
そのおじいちゃん感からか、瑛司とのやりとりも、♤の丁々発止というよりは、なんだかおじいちゃんと孫のような、深いところでは腐れ縁だから通じ合っているんだけど、地味に距離はある、表面からわかりやすいツーカーの仲ではない感じに見えました。


秀樹

シングルキャストなのに芝居がどう変わるのか、秀樹をいちばん楽しみにしていたんですが、こう来たか…!
相葉瑛司に対してのイメージを一言でまとめると「相手の面倒を見つつちゃっかりしっかり自分も甘えてる弟」のイメージだったんです(一言じゃない)。
それで、なんとなく相馬さんは相葉さんほどしっかりしてない印象だったので、オカンみたいな感じになるのかな?と予想していたんですが。
ぜんぜん違う!!「しっかりと自立した一人の男」だった。
冒頭のシーンから、甘えるでも、甘えさせるでもなく、ただ落ち着いた大人の男がそこにいた。
きっと相馬瑛司が不安定だから、何かを与えることでというよりも、秀樹自身がただ安定してそこにいることで、相馬瑛司を支えるような関係だったのかな、と。
そのあとも終始、♤のときよりも感情表現が抑えめな気がしました。

もしかしたら、相葉蒼佑が激情をあらわにするキャラクターだったからなのか、なんというか、舞台上に表現される愛とかの強い感情の総量はそのままに、各キャラの表現が増減した、みたいな感じだと思いました。♧は瑛司と蒼佑の表現が強まって、侑李と秀樹は抑えめになった感じで。


塔子

一方で、塔子の変わらなさにもびっくりした…!
これ、単に塔子がブレない強く自立した人間って受け取ることもできるけど、そうじゃない読みもできますよね。
つまり、結局、塔子にとっての瑛司って、単に結婚したい相手、独り占めしたい相手、であって、「結婚」「独占」さえできれば、相手がどんな人間でもよかったのかもしれない、と。
男四人のところにいる「おじゃま虫なキャラクター」(公式webマガジンの動画より)というのを聞いていたから、こういう印象になったのかもしれないですけど、
確かに、この男四人の愛憎劇にがっつり参加しているわけではなく、生身の人間に対する愛憎とはまた別の「結婚」とか、あるいは瑛司に女の良さを云々とも言っていたので、いわゆる「異性愛規範」というものを見ているキャラクターなのかな、なんて思います。


おわりに

自分はこの順番で見たからこの感想になったけど、逆順で見てたらまた違うでしょうし、何より撮影はどっちが先だったんだろう?秀樹の演技プランはどっちが先だったのかとか、すごく気になります。
パンフレットを注文したので到着を首を長くして待っています。

DVD化はされないとのことなので無理してでも2バージョン見ておいてよかったです。
これ、もしかしたら朗読劇にするにあたって短くされてる要素とかもあるんでしょうか?
そしてストレートプレイでは秀樹と瑛司の濃厚接触が見られますね…?
来年の秋を楽しみにしていたいと思います。ストレートプレイを見届けるまで生きるぞ…!

ここまで読んでいただいた方、ありがとうございました。


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