『サイレントヴォイス』リモート配信劇場「うち劇」第4弾を観ました


つい先ほど見終わって、ガーっと書いた感想です。
ネタバレにならない範囲のことはTwitterにも書いたことなのですが、
まだ今晩の2部があるので、
ネタバレにあたることはここに書こうと思います。


ネタバレなしの感想

舞台の生中継は見たことあったけど、こうしてリモートのためだけに作られた演劇は、舞台中継とは違う。演者の身体の動きは見られないけれど、その代わり細かい表情や息づかいまで観れて。でも映像作品とも違って、生の感情の応酬がそこにあるのは演劇と同じだった。

これで生の演劇はなくていい!とは絶対にならないけれど(むしろ生が見たくなった)、こういう表現方法も、生の演劇と並行してあっていいなと思った。
今回は濃い会話劇だったけど、こういう限られた場所だけでの会話で魅せるものにはかなりマッチする気がする。

何より、自宅でリラックスした体勢で見始めたはずなのに、生の観劇をしに行ったときと同じように、観る体力をしっかり消費して疲れた…。話の重さもあるし、なんならステージと客席の距離より近いところで、かなり強い感情のぶつけ合いを見たからだろうな…観劇した!って実感がある。


以下ネタバレ注意






たいちゃんが演じる若手弁護士の新垣、序盤から、ああ嘘ついてるな、ってわかった。というのは、機材トラブルで最初の場面がやり直しになったとき、2回とも同じ、父を尊敬してるってところで同じ仕草をしたから。1回目でも不自然だなって思ったけど、2回目から確信に変わった。
お父さんのこと、尊敬してたんじゃなくて、自分はあんな弁護士にならないぞ、って思ってたんだろうな。文字通り、被疑者のために心を砕きすぎて、自分をボロボロにした、まさに平さんのような人だったんだろう。
最後に平さんを引き留めたのは、父のように心を壊して去る人を見たくない、という思いがあったのかもしれない。

次に佐久田。演じた杉江くんを見るのは初めてだったんですが、写真ではすごく優しそうな顔をしてたから、最初にあのやさぐれた…いやそんな言葉じゃ生ぬるいくらいの、あの感じで出てきたとき、怖っ!って思って、こっちが緊張して震えるくらいだった。最後まで最後まで、認めようとしない頑なさ。
後半になって初めて、平の言葉に対して身を乗り出して聞いたり、ずっと聞く気がないって感じで身体を背けてたのが、最後には正面を向いたりと、座っただけのあの限られたスペースでの身体表現にも魅せられた。タイトルのサイレントヴォイス、それを最後、新垣が聞こえたのと同じくらいだけは、視聴者にも感じさせる、その匙加減がすごかった。
そしてアフタートークで出てきたときのギャップがすごい。いや当たり前なんだけど、こんなに楽しそうな人があんな役を演じてたんだ、っていう、演劇の当たり前のことに久しぶりに触れて、うわああこれが演劇だ!!!ってなりました。

そして荒牧くんって人はやっぱりすごいね…。こういうのを、説得力、っていうのかなあ…。
脚本もすごいんだろうなあ、佐久田の核心に迫る言葉を、一つずつ一つずつ積み上げていくから、観てる私たちはそれを聞いてる新垣と同じ立場になって、そうか、そうだったのか、っていう気持ちにさせられていく。
最初に声を荒げたあと、気づかないうちに膿が回っていた、っていうところの憔悴がすごくて。そう、触れるものとか言葉って、些細なものでも、自分の中に蓄積されていく。
でも謝罪させたいって決めてからは、そこに真っすぐ向かっていった強さがあって。最後に去ろうとするところでは、憑き物が落ちたような、でも完全には落としきれてない、落ちたというより無理矢理引き剥がしたけれど剥がしきれていないような感じで。

佐久田は、本当は個人的な恨みだったのに、それをエリートを憎む気持ちに一度すり替えちゃったから、自分個人の恨みにすら向き合えなかった。自分が恨みという個人的な感情を持っていること、その事実すらも、自分で肯定してあげられなくなってて、袋小路だったんだと思う。
それは、自分で気づいていても認められない類のもので、誰かに言われてしぶしぶ認めるっていう体を取らないと認められないことだったんだよね。その全てに気づいて、いや最初から全てに気づいてたわけじゃないだろうけど、諦めずに話し続けた平さんの、これは勝利だよ…裁判には負けたけど、何かには勝った。佐久田に勝ったわけでもないんだけど、何かに確かに勝ったよ…

あと、たいちゃんと荒牧くん両方に言えることだけど、このリモート演劇、はけることができないから、どっちかがメインに佐久田としゃべってる間も、ずっと画面にいる。そのときに、一瞬たりとも役が消えないどころか、いわゆるリアクション芝居をずっとしていて、それも、会話に気を取られていると気づかないくらい小さな、しかも若干の映像の遅延もあって細かい動きが完全には伝わらない中での小さい芝居なんだけど、特に新垣のリアクションは、平と佐久田の応酬を聞いている視聴者とリンクして導くようで、すごくナチュラルだった。


モデルになった附属池田小事件が2001年ということで、一つ納得がいったことがある。
自分は当時小学校1年生だったんだけど、あの頃の小学校ではやたらと、不審者侵入を想定した避難訓練が多かった気がする。
火事の避難訓練はたぶん法令で決まってるからどこでもやってるとして、311以降、どこもかしこも地震を想定した訓練をやり始めるまで、かなりの間、対不審者の避難訓練や対策は、どこの学校でも流行ってたんじゃないかと思う。
避難訓練が流行りすたりでいいのかいとも思うけど、学校教育現場なんてそんなものです。
小学校では、サスマタ持った先生がいたような。

まあつまり、それだけインパクトのある事件だったんだなということと、
よくまあそれをモデルにここまで描いたなあと…。
佐久田に共感する人もいる、ってのは紛れもなく真実だと思うし、だからこそ平は最終弁論で、社会に向けて語りかけたんだろうし。
佐久田の言ってることで、まあそれもそうだな、って思う部分もないでもないんだよなあ…

まとまらなくなってしまった。とにかくすごいものを観ました。
第2部まで観る体力はないので、このあたりで終わります。
読んでくださった方、ありがとうございました。

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