朗読劇「ノンセクシュアル」感想

先ほど♤バージョンの配信を観終わりました。しばらく立ち上がれなかったです。観ながらちょっと叫んでしまったのでアパートの隣人からクレームが来ないか心配です。
鑑賞後、一気にまとめた感想を記録しておきたいと思います。


全体

全員に筋が通っている、だからこそ怖い。支離滅裂に聞こえる蒼佑でさえ、彼が見ている世界、彼が生きている世界の中での論理が一貫している。だからこそ、全員が他人事に思えない。浮世離れしている侑李も、好きなことや自分の思い込みに一途なところは人間味があるし。
登場人物のうち誰一人として、こいつは理解できないな、とか、他人事だな、って思わなかった。むしろ全部の感情が、この人もわかるしこの人のもわかる、って流れ込んできて、主に後半は、瑛司が感じてる恐怖と蒼佑のあまりに論理的な執念に犯されるようで、なんかもう、ダメです。


瑛司と蒼佑

なんだかんだ言って、ヘテロの塔子じゃなくて、瑛司がいちばん普通の人間のように見えた。誰彼構わず好きなものは好きだし、好きになると寝たくなるし、どっちとだろうが寝れば気持ちいい、っていうのは、筋が通ってるなと思った。そう考えると、身体の構造のちょっとした差異を見て、相手を好きになるかどうかの判定をしてるヘテロセクシャル(ゲイ、ビアンも)って不思議だな…?ってなるんですよ。なりませんか?
作中では単語としては出てきませんでしたが、ポリアモリーでもあるんだと思いました。許可を取ろうとするあたり。
いい意味で凡人っぽさがあった。怖い出来事に巻き込まれていく主人公の要件としての、普通っぽさ。バンドボーカルではありつつも、圧倒的カリスマ!って感じではなくて。


あまりにもポリアモリー的な瑛司の振る舞いが当たり前に見えて、秀樹と塔子の、瑛司を自分だけのものにしたいっていう欲って、普通の恋愛は1対1でするものだからとかじゃなくて、単に独占欲を満たしたいだけのように見えました。
まあだから、そう考えると、この世が基本1対1恋愛で回ってるのは、まあ結婚が今は1対1でしかできないからとかもあるんでしょうけど、単に独占欲の強い人間がうじゃうじゃしてるだけなんだなあってすら思えてくる(笑)


蒼佑は、嘘はいけない、裏切りだ、って言うけど、実はそこのところは瑛司、蒼佑のおめがねに叶ってるんですよね。だって塔子と秀樹、それぞれにそれぞれのことをしゃべっちゃうんだから。決して瑛司は適当でも何でもなくて、嘘はなくどっちも好きなんだと思います。
なんだか瑛司は、博愛の人、ってイメージがあった。侑李に対してさえも、侑李がそういうの嫌いだからしないだけで、広い意味での「好き」な相手であることには違いなくて。まあ侑李とは寝ないからこそ、世間の恋愛っぽいルールに取り込まれることなく、「腐れ縁」でいられるのでしょうけど。
人たらし、と言われていたけど、基本的にいい人なんだなと思った。塔子や秀樹のように、この世の恋愛謎ルールに照らし合わせてみると、節操なしに見えるんだけど、それは瑛司がおかしいんじゃなくてルールがおかしいんであって、瑛司は本当に愛にあふれたいい人じゃん?って思えて。


そう、蒼佑が、瑛司は純潔だ、って勘違いしたのも、無理はなくて。瑛司ってほんと、あまりにもピュアなんですよね。秀樹にも塔子にも、好意を向けられれば、それがたとえかつての好意の残滓であろうが、独占欲の発露だろうが、素直に受け止める。
それを見た蒼佑は、そのあまりの無垢さに、周りの情欲を受け止めすぎて困っている人で、本当は純潔を望む人なんだ、って勘違いした。
蒼佑を見ていると、「純潔」という言葉が思い浮かびました。純真、とかじゃなくて、純潔。生来からそうなのではなく無理をしてそうあろうとするようなもので、ちょっとでもケガレがあろうものなら狂ったようにはたき落とすような、そんなイメージ。

蒼佑のこの勘違い、もう最序盤からあったんですよね。君は周りの欲に影響されている、みたいなことを蒼佑が言ったあと、瑛司が何か返そうとするのを、蒼佑がさえぎって話し続けるところがあって(うろ覚え)。だからもう、最初っからこの二人の関係は、蒼佑の勘違いから始まっていた。
でも、瑛司がピュアなのは、他人の欲に対してだけじゃなかった。自分の欲にもまた、素直に従う。それが瑛司の本質。恋人がいようが、寝たければ寝る。それを悪いこととも思っていない。社会の謎ルールなんかよりも、その場での自分の欲にただ素直に従っているだけなんですよね。


ネメシスの曲を聞いた蒼佑、「君の曲を聴く前に君に出会えてよかった」って言ってて。
つまり、曲を先に聞いていたなら、こんなふうに瑛司をターゲットロックオンすることはなかった、ということですよね。きっと瑛司の曲は、世間一般から見れば奔放に見える、でも本人はいたって真面目な博愛精神みたいなものが歌われてるのでしょう。情欲に従順な瑛司の本質が。それを先に知っていれば、蒼佑はあんなひどい勘違いに陥ることはなかった。
でも、一度自分の都合のいいように瑛司という人間を解釈してしまってからは、曲を聞いてすらも、おそらく、自分の都合のいい解釈をしたでしょう。この曲は売れるために書いてる、書かされてるんだ、本当の瑛司はこんな欲にまみれた人じゃないんだ、音楽の商業主義からも僕が救い出してあげなきゃ…きっとそれくらいに思ったことでしょう。
何が怖いって、蒼佑が考えたであろうことがここまで想像できてしまうことですよ。それほどまでに一貫性のある論理だった、推論可能性があるほどに論理的だった、ということです。


でも、でもね、蒼佑の言うこともわからないでもなくて。
瑛司って、リングを恋愛の証だと考えてて。おそらく、好きな人や大事な人はすぐ恋愛関係にしてしまう。すぐ好きになるしすぐ寝たくなってしまう。塔子と友達でいたら寝る、って言ってたし、節操なしという意味じゃなくて、本当にただ純粋に誰でもすぐに好きになっちゃうという意味で、気が多い人なんでしょうね。いっそのこと、蒼佑とは逆に、友情が理解できないんじゃないかと思うくらい。
そう、だから侑李がアセクシャルでなければ確実に侑李とも寝てる気がするんですよね…瑛司は、人に対する好感がほぼほぼ恋愛になってしまう。蒼佑に対してはノンセクシュアルっぽいって気づいたから、侑李と同じような接し方をしたんだと思います。
一方で蒼佑は、強い執着に、友情と名前を付けて、瑛司を親友だと呼びたがる。人に対する好感は、どこまでいっても友情であって、それが執着の域に達していたとしても、相手を傷つけていても、頑なに友情であると言い張る。
だからきっと、誰かに対する強い執着っていうのは誰にでもあって、瑛司と蒼佑は、それにどんな名前をつけるか、どんな形で発露するかっていうのが、根本的に違う人なんだろうなあ、と思いました。瑛司は身体で。蒼佑は理想形に導き留めることによって。


あと違うところがあるとすれば、瑛司はやっぱり相手の身体を知るからなのか、現実の人間が見えているけど、蒼佑はその逆で、相手の身体に触れないからなのか、どうも、相手が生身の肉体を持ち、恐怖などの感情を当たり前に持つ人間だということを忘れているような気がします。まるでお人形を愛でるかのよう。
そう、お人形遊びであればこそ、相手を自分の意のままにしようとするんですよね。そこに瑛司という人間は見えているようで見えていない。


瑛司が蒼佑に愛してる、って言ってキスしようとしたときが、本当に決定的な決裂でした。瑛司はそれが、相手が求めてるものだと思ったから言ったんでしょう。だって瑛司の中で人への好感の最上級は愛であり、身体だから。
でも蒼佑にはその理屈は通用しない。蒼佑にとっての好感の示し方の最上級は、自分の世界を理解してくれることであり、自分の理想の姿でいてくれること、だから。


本当に、この同じ時代同じ日本、同じ横浜に生きていながらも、全く違う世界、全く違う論理の中で生きている二人。どうして出会っちゃったんだろう、出会わなければきっとそれぞれ…少なくとも瑛司は、秀樹や塔子に嫌われながらも、なんだかんだつかず離れずの関係で、他にもっと恋人も増えて、また怒られたりしながら、そして侑李に助けられたり助けたりしながら、幸せに暮らしていけただろうに。
蒼佑に関しては、もし瑛司に出会わなくても、誰か他の人に対して似たようなことをしていただろうな…と思います。
蒼佑って、この世界全体のケガレが敵って思ってて、なんだろう、自分こそ正しいのだ、世界はみんな間違っているのだ、って思ってそうで。だって、彼にとっての世界を、あの豪邸の中だけだと仮定したら、確かに、全てが間違っていましたからね。ただ問題は、おそらくあの豪邸で、性の部分以外は何不自由なく暮らしたからなのか、狭い家の中と、広い世界を、同一視してしまった。豪邸の中=世界そのもの=全部ケガレている、になってしまったんでしょう。
だから、瑛司じゃなくても、ちょっとでも可能性のある人を見つけたら、この世界の間違いを正してやるんだ!みたいな勢いで、「導いてあげる」ことをやらかしそうで。自分と同類の人間はレア種、ってどこまでも理系の目で冷静に見ている侑李とは対照的に見えました。


そしてね、終わってないんですよね。
蒼佑、逃げ延びましたね?
つまり瑛司はきっとこの先一生、怯えながら生きていかなきゃいけないわけで。
え、瑛司、助かったよね?

最後の蒼佑のシーン、改心エンドかなあと思ってたらぜんぜんそんなことなくて最高でした。ここで日和ったらこの作品の意味がない。瑛司と蒼佑、決して交わらない、交わってはいけない二つの生き方の、その埋めようがない断絶を描く作品だと思ったので。断絶は永遠に断絶したまま、この二人の溝が埋まることは永遠にないんですよね…
そしてあのブースは、おそらく2つ作ったんですね…?すごい…。このスタイルになったからこその、恐怖。終盤はずっと自分の肩を自分で抱いて震えてました…


侑李

侑李ありがとうめっちゃくちゃ笑いました。
いやでも侑李もほんと、あの状況で冷静ってことは、一歩何かが違えば蒼佑になっていたかもしれない存在で(ちなみに鯨井さんはこの2人をやってる…if世界の体現…)そう考えるとほんと、実は侑李もやばい人間なんじゃないかと思えてきて。
カモノハシ&コツメカワウソ愛のために直腸を犠牲にするのも、男性間セックスで直腸を犠牲にするのも、同じぐらい普通で、同じぐらいやばいと思いました…侑李と瑛司、それぞれにとってそれが当たり前だということがすんなり理解できるのと同時に、たぶん蒼佑や塔子はどっちもありえない!って言うんだろうなってことも理解できて、感情大渋滞です。誰から見るか、どんな論理で見るかで、人の評価は180度変わるんだな、って。

感情大渋滞と言えば、侑李がライフルの傷見ていいか?からの瑛司のどうぞご勝手に、で、自分、めちゃくちゃツボって笑ってしまって。怖いですよね、こんな怖い事件が起きたシーンのラストカットなのに。ある出来事は誰かにとっては(ここでは瑛司)悲劇だけど、もう、観客からしたらあそこは笑うしかない。

侑李と瑛司のテンポのいいやりとりは、特撮ファンからしたらたまらない配役でした。えっでもこの二人が執着の果てにどうにかなるのも見てみたい…これは…もっかい見るか…


侑李と蒼佑の違いは、自分や世界を客観視できたかどうかじゃないかなと思います。侑李は、動物に注ぐ目線と同じように、周囲の人間や自分そのものを客観的に見る目を持っている気がします。蒼佑には決定的にないもの。
確かに蒼佑の「ケガレ」の論理は、理屈は通っているんだけれども、彼と彼の家という狭い世界の中の話で完結していて、彼が閉じ込められた世界の中だけで論理が構築されていて。もちろん閉じ込められてしまったのは、彼一人の責任ではないんですけれども。
ちょっと気になるのは、蒼佑はもし普通の家庭で育っていたら、あのような性嫌悪の強いノンセクシュアルになっていただろうか?ということ。もちろん性的指向は先天的なもので矯正とかができるものではないことは大前提なんですが、蒼佑の場合はかなり特殊な気がする…。


塔子

塔子もお堅い仕事のわりには、ひと昔前のキャリアウーマン像みたいなところがあって、仕事をバリバリやりつつ、恋愛もまたがっつくという、肉食系女子の先陣みたいなイメージ。ひと昔前、と感じた要素は、女言葉に代表されるように、男たちの前で「女」を演じてるところと、あのエネルギッシュさ。あれくらいのエネルギーがないと男社会で働けなかった時代の人、ってイメージ。もしかしたら、塔子が働く新聞社、マスコミ業界って、今もまだそうなのかもしれない。

瑛司に対して、養ってあげる、とか余裕たっぷりに見せながら、その実、どうしようもなく好きになってしまっていて、余裕はそれを隠すためのものなんだろうなって思ってました。うまく言えないんだけど、ずーっと瑛司が好きなのがわかった。媚びるような言い方をするでもなく、むしろ文字起こしだけを見たら傷つけたり突き放したりしているんだけど、でもそうするのって、離れられないからなんだよね、っていうのが伝わってきて。
蒼佑に誘われたシーンでそれが明確にわかりました。蒼佑には飾った自分を出しているように見えたから。瑛司にはブチ切れたりしながらも、飾ってはいなかったな、って思って。


秀樹

愛おしかった…瑛司との会話は少し甘えるような声で、いやでも秀樹が甘えさせてるのか?たぶん、食事作ったりして甘やかしてあげるの体で、自分も緊張を解くことができているみたいな…あれだ、猫ちゃんなでるときなぜかこっちも文字通りの猫なで声や赤ちゃん言葉になる現象と一緒です。
だから、最初は、龍之介くんは相葉くんよりもだいぶ年下だから、設定年齢でも年下っぽさを出してるのかな?とか思ったら、そのあとの百貨店のシーンとか、蒼佑に襲われてるシーンではぜんぜん違ってて。
龍之介くんが演じた暗殺ちゃん(仮面ライダーゼロワン)で言うと、瑛司に対しては初期のかわいい暗殺ちゃんなんだけど、百貨店とかではラーニングして成長した暗殺ちゃんのしゃべり方。ほんとに変幻自在だ…。
webマガジンのインタビューで、相手役が変わると自分の演技も変わるみたいなことを言ってたから、これは、おかわり不可避…。去年のGOZENに始まり、REAL&FAKE、モマの火星探検記と、のすけくんにずっと魅せられっぱなしです(全部毛利さんだなこれ)。


朗読劇ならでは

朗読劇だから、自分の身体が傷つけられてる描写を役者が自分で読むのが怖すぎて。秀樹が襲われてるときマジで怖かった。具体的にどう追い詰められてるのかが、追い詰められてる側のナレーションで語られるって、こんなに怖いものか、と。一筆書いてほしい、って言われて、それだけでいいのって安堵した秀樹に、それやばいやつー!気づいてー!って、気づけば家で叫んでしまいそうになるほどでした。
そして瑛司はもっと怖かった!手首からの流血を、血、と言わずに、なんだっけ、温かい液体、みたいな、でもそうなんですよね、怪我してる本人からするとたぶん本当にそういう認識で、ああ本人なんだ今リアルタイムのことなんだ、ってのが伝わってきて、怖くて…瑛司の叫び声、夢に出そうです。


終わりに

原作はnoteのウェブマガジンで全部ダウンロードしたのですが、気になって本を調べたら、ハルキ・ホラー文庫になってて納得。これはホラーですよ。
そして、何かがいい方向に変化して良かったね!みたいな話ではなくて、ただただ永遠に断絶し続ける在り方を叩きつけただけ、って感じがして…。こういう物語、めちゃくちゃ好きです。何も解決なんかしないんですよ。ただ相容れないもの、相容れないという事実が、この世にある。

さあて火曜日に別バージョンもおかわりしようっと!(ちょろい)
ここまで読んでいただいた方がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございました。


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