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電気のおはなしその76・電気通信(4)変調方式

有線通信・無線通信を問わず、電気(や、電気の一種である電波)を用いて遠方まで情報を届けようとするとき、電気信号の上に送りたい情報を載せて送ることになるわけですが、この「電気信号の上に送りたい情報を載せる」ことを変調と呼んでいます。人間が電気通信を実用化してから、まず送りたいと思ったのは音声信号でした。音声は、人間の喉の筋肉が周囲の空気に振動を与えることで発せられ、その空気の振動が耳の中にある膜を振動させ、膜に繋がれた神経がそれを電気情報として脳に送ることで人間は音を認識します。
音の情報は、空気の振動、すなわち振幅の情報です。電波などに音声を載せる場合、その電波の振幅に音声の振幅を掛け合わせることで音声信号をそのままの形で伝えることができます。これが振幅変調(AM)です。

振幅変調は、遠距離通信の初期から現在に至るまで使われています。その理由として、送信側・受信側ともに回路が簡単であること、周波数利用効率が高いことなどが挙げられますが、一方雑音に弱いという欠点も持ちます。

雷などの雑音は、空中を伝搬する電波の振幅成分として乗るため、原理的に受信側でこれを排除することは難しくなります。

今現在、業務用通信は航空無線を除いてFM変調やデジタル変調化されましたが、中波・短波ラジオ航空無線用として振幅変調は今でも利用されています。

振幅変調の次に登場したのは、送りたい音声信号などで電波の周波数を変える周波数変調(FM)です。周波数変調の特徴として、振幅成分に情報を載せないため雑音に強く、音質が良いという点が挙げられます。また、目的とする信号のほかに微弱な混信波が存在していても、「弱肉強食」特性によって混信にならないという利点があります。

航空無線がAMである理由は、この「弱肉強食」特性により、遠方で遭難信号を発しているなど緊急事態が発生している航空機からの信号が、他の強い信号にかき消されてしまうことを嫌っているためです。理由が理由だけに、少なくとも当分の間は航空無線からAM波が消えることはありえないことでしょう。

周波数変調は、必要とする周波数帯域が広く、有限の資源である電波の利用効率的には悪い方式なのですが、利用しやすい性質を持っているため幅広く利用されてきました。業務通信に関しては、近年急速なデジタル化が進んでいるため、周波数変調波は余り聞かれなくなってきました。

もうひとつの変調方式は、電波の位相に変調を掛ける位相変調方式(PM)です。WikipediaのFM信号波形・PM信号波形を見比べると分かるように、実は周波数変調と位相変調は親戚のような関係で、周波数変調を微分すると位相変調、位相変調を積分すると周波数変調という関係を持ちます。したがって、アマチュア無線レベルでは、アナログ信号による周波数変調と位相変調は事実上ほぼ同一のものと思っても差し支えありません。

あまり変調理論の深い話になってしまうと、本来の「電気のおはなし」の趣旨から外れそうなのでこの位にしておきますが、いずれにしても、銅線や空中を伝搬する電気信号の波形に何らかの手を加え、遠方に送りたい信号を載せて遠くに伝える、そういう人間の努力がこのような形となって現れ、そして現在のような高度情報通信社会を作り上げてきたというわけですね。この技術は、何も過去の技術ではなく、例えば携帯電話の5G、そしてその先には6G…のように、今現在もどんどん進化して高度化していく発展途中の技術でもあります。このような高度な電波利用を実現するためには、高度な電子技術、具体的にはコンピュータ処理技術無くしては語れません。21世紀当初、携帯電話やPHSがどの程度のものであったか、そしてWindowsパソコンがどんなものだったか(セレロン300Aをオーバークロックして500MHz超えた!なんて言っていた時代もありましたよね)を考えれば、技術進歩の速さや凄さが分かるかと思います。

今日はこの辺で。

以上。

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