認知的不協和理論

【認知的不協和理論】とは?

【認知的不協和】とは、人が自身の認知(理解・知識・信念・価値観・行動など)とは別の矛盾する認知を抱えた状態、またそのときに覚える不快感ストレスを表す“社会心理学用語”

アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーによって提唱され、それによると、人はその不快感ストレスを解消したり低減させようとする心理的圧力がかかり、矛盾する認知の定義を改変したり、過小評価したり、自身の考えや態度や行動を改変しようとする

その考え方を【認知的不協和理論】という

フェスティンガーによる認知的不協和の仮説(命題)
①不協和の存在は、その不協和を低減させるか除去するために、なんらかの圧力を起こす。
つまり、複数(通常は二つ)の要素の間に不協和が存在する場合、一方の要素を変化させることによって不協和な状態を低減または除去することができる
②不協和を低減させる圧力の強弱は、不協和の大きさの関数である。
つまり、認知的不協和の度合いが大きければ、不協和を低減させる圧力はその度合いに応じて大きくなる

wikipediaより

不協和を解消しようとするする行動

1;不協和を低減・解消させるために何らかの圧力(行動)を起こす

具体的には“古い認知”か“新しい認知”のいずれかを否定する傾向にあり

①“新しい認知”を取り入れ、“古い認知”を変える
②“古い認知”に拘り、“新しい認知”を否定する

そのどちらかのことが多い
その場合、比較的「変えやすい」方の認知を変えることで、「絶対に変えられない」認知を正当化しようとする

そして、

③都合のいい情報ばかりを集めたり、解釈を改変することで都合の悪い情報を否定したり、矮小化したりすることで不協和を低減し、解消しようとする(合理化)

そうして不協和を低減・解消し、自分の行動(選択)を自己正当化しようとする

【認知的不協和理論】とは、不協和を解消しようとする心理的メカニズム

2;不協和を低減させる圧力の強弱は不協和の大きさの関数である

不協和の度合いが大きければ大きいほど、それに比例して低減させようとする圧力は大きくなる

●『自分の価値観(行動)』と『周りの価値観(行動)』とのギャップが大きいほど⋯
●『理想の自分』と『現実の自分』とのギャップが大きいほど⋯

心の中の『不安・恐怖・不全感・劣等感・不快感・ストレス・怒り』が大きくなり、それを解消しようとする圧力が高まり、冷静になって客観的・論理的・合理的・体系的な思考ができなくなり、短絡的・衝動的・攻撃的・破壊的・暴力的行動をとりやすくなる

【認知的不協和】の例

ⅰ.タバコの例

認知的不協和の例として、よく知られるのがタバコ

認知1;自分はタバコを吸う
認知2;タバコを吸うと肺ガンになりやすい

このとき“認知的不協和”が生じる。そこで認知的不協和を解消するためには認知1を変更して

認知3;禁煙する(→認知1の変更)

これで不協和が解消できる

しかし、喫煙の多くはニコチンに依存する傾向が強いため、禁煙行為は苦痛を伴い、結局は「禁煙」できない人も多い。その場合は、認知2に修正を加える必要が生じてくる。そこで⋯

認知1;自分はタバコを吸う
認知2;タバコの煙を吸うと肺ガンになりやすい(矮小化・否認)
認知4; 喫煙者で長寿の人もいる(追加)
認知5;交通事故で死亡する確率の方が高い(追加)

「タバコを吸い続ける」という行動(認知1)を正当化するために、認知4・認知5を付け加えることで、認知2を否認したり、矮小化しようとする。そうすることで、自分にとって都合の悪いことを見えなくする

ⅱ.「酸っぱい葡萄」の例

また、認知的不協和の例として、イソップ童話の中に『酸っぱい葡萄』という話がある。お腹をすかせた狐が、葡萄を食べたいのに、高いところにあるために取ることができず、諦める話で⋯

認知1;葡萄が食べたい(欲望)
認知2;葡萄を取れなかった(行動・失敗)

この不協和を解消するために、狐は『新しい認知』を追加する

認知3;あの葡萄は酸っぱくておいしくない(認知の追加)

そう考え、決めつけることで、認知2の葡萄を取れなかったという“動かすことが出来ない事実(失敗)”を正当化し、不協和を解消しようとする

ⅲ.「甘いレモン」の例

「酸っぱいブドウ」の対として挙げられるのが「甘いレモン」で、甘い果物が食べたいのに、やっと手に入れたのはレモンだった

認知1;甘くておいしい果物が食べたい(欲望・理想)
認知2;苦労してやっとレモンを手に入れた(行動・現実)

このとき認知的不協和が生じる。そこで

認知3;このレモンは甘い(追加・思い込む)

「このレモンは甘い」と思い込むことで、認知的不協和を解消しようとする。そうして、自分の行動を正当化しようとする

ⅳ.地震の後に『デマ、噂、流言』が拡散する原因

人は自分の中の不協和が大きければ大きいほど、不協和を解消しようとする心理的圧力が強まり、冷静になって客観的・論理的・合理的な思考することができなくなり、感情的・短絡的・衝動的になる。そうすると、

●『デマ・噂・流言』を信じ込みやすくなる
●『詐欺・マルチ商法・占い・カルト宗教・陰謀論』にハマりやすくなる

そうすることによって、自分の中にある認知的不協和を解消しようとする

それが地震の後の『デマ・噂・流言』が広まる原因となる

自分の中の“不安・恐怖”を正当化するために“デマ・噂・流言”を信じ、それを吹聴・拡散する(無意識に嘘をつく・不安を煽る)ことで、『自分』と『周り』の不協和を解消しようとする

地震の後の混乱の中で
認知1;自分の中の「不安・恐怖」の増大
認知2;周囲の落ち着き、冷静さ

「自分の感情・価値観」と「周りの雰囲気・価値観」の間の不協和が拡大するうちに、自分を正当化したいという防衛本能が働き、『デマ・噂・流言』を信じ、拡散し、周囲の不安を煽ることで不協和を解消しようとする

認知3;また大地震が来る。外国人が攻めてくる。あれは人工地震だ。

Leon_Festinger(wikipedia.en/google翻訳)

つまり、自分の心の中の「不安・恐怖」が大きいほど『デマ・噂・流言』を信じ込み、それを拡散し、周囲の不安を煽ることで『自分の感情』を正当化しようとする

ⅴ.洗脳「カルト宗教」「ブラック企業」「虐待・DV」

「カルト宗教」
認知1;教祖の予言「✕月○日、地球が滅びる。信者だけが救われる」
認知2;教祖を信じ、家・財産を売って、高額な献金をする
認知3;しかし、予言が外れ、何も起こらなかった

このとき認知的不協和が生じる。もし、認知2が少額であれば、「騙された」と信者を辞めれば良いが、全財産を処分し行く所がない場合、不協和を解消する手段として新しい認知4を追加する

認知4;教祖の力によって、危機を避けることができた。教祖は正しく、神の生まれ変わりである(認知の追加)

つまり、「教団に残るという行動」を正当化するために新しい認知を追加する

「ブラック企業」
認知1;きつい、長時間、パワハラ、サービス残業
認知2;低賃金
認知3;生活のために金が必要。経営者に借金がある。恩義がある

このとき認知的不協和が生じる。(例えば、賃金が高ければ、不協和は低く我慢ができるのだが⋯)。そのとき不協和を解消するために新しい認知を追加する

認知4;この仕事は人のためになる。自分の将来に役に立つ。やり甲斐がある(認知の追加、やりがい詐欺)

そうして自分の「依存行動を続ける」ことを正当化する。それは虐待DVでも同じように、殴られていることを正当化するようになる

「自分が悪いから殴られているんだ。親は自分を愛しているんだ」
そうしていつの間にか体罰・虐待を正当化するように認知を改変する


まとめ。【認知的不協和理論】とは

人は、自分の存在を正当化したい生き物

自分の存在を正当化するために認知を改変していく。「自分の行動は正しい」と主張するために、「昔は良かった。今の若者は、甘やかされている」と言いたがる。他者を批判し、誹謗中傷することで、自分の正当性を主張し、万能感・優越感・安心感を得ようとする。

自分の中の『不安・恐怖・不快感・不全感』が大きいほど、「認めてもらいたい。否定されたくない」という思いが強いほど、客観的・合理的・論理的・体系的思考失われ、騙されやすく、デマを信じやすく、攻撃的になる

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