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【NBLマガジンvol.1】Ariel Hukportiを褒めよう

G’day mate. オーストラリアバスケファンのkellyです。ここ最近、NBA選手を定期的に輩出しているオーストラリアのバスケットボールリーグ、NBL。今季もドラフト2位のAlex Sarr(アレックス・サー)をはじめ、多くの有望な若手選手がNBLを経由してNBAにドラフトされました。今回はその中でもドラフト2巡目58位でNew York Knicks(ニューヨーク・ニックス)に指名された、Ariel Hukporti(アリエル・フクポルティ)選手について紹介しよう思います。スタッツは主にSPATIALJAMを参考にしました(https://spatialjam.com/)。

1. はじめに

今回Ariel Hukporti(アリエル・フクポルティ)を紹介することになったのは、X(旧Twitter)でKnicksファンの方に「ぜひどんな選手か教えてほしい」とお声がけいただいたことがきっかけだ。嬉しいことである。というのも、HukportiがNBLで所属していたMelbourne United(メルボルン・ユナイテッド)は、チームメイトにMatthew Dellavedova(マシュー・デラベドバ)やChris Goulding(クリス・ゴールディング)といったオーストラリア代表選手が在籍しており、ここ最近私が真面目に追いかけていたNBLチームだったのだ。オーストラリア代表の話に関してはぜひパリ五輪に向けて【週刊少年ブーマーズ】も読んでみてほしい。

というわけで、他の方よりは直近のHukportiについて話せるかなと思って今これを書いている。基本的にMelbourneで観た感想が中心にはなるが(なぜならその前はよく知らないから)、早速彼がどんなプレイヤーなのかについて話していこう。

2. 22歳ながら経験豊富な"Big A"

Ariel Hukportiはドイツ出身、現在22歳で身長は213 cm、いわゆる7フッターと呼ばれるセンターだ。Unitedでのあだ名は"Big A"(ビッグ・エー)だそうで、"The Big Apple"の愛称を持つNew Yorkの街にたどり着いたのは何か縁を感じずにはいられない。彼は15歳からドイツでプロキャリアをスタートさせており、プロレベルでの豊富な経験は他の若手にはない一つの武器と言えるだろう。ちなみにDallas Mavericks(ダラス・マーベリックス)のLuka Doncic(ルカ・ドンチッチ)のプロキャリアスタートは16歳だ。その後21-22シーズンからオーストラリアのMelbourne UnitedにNext Starプログラムの一員として入団。Next Starプログラムに関してはまたどこかで詳しく話したいが、NBLの各チームに一枠、外国籍枠にカウントされることなく若いNBAドラフト候補生を所属させることができる仕組みであり、大学で一年だけ過ごすOne-and-doneの代わりに、NBLのこの制度を使って一年プロ生活を経験し、NBAに参入していく流れが近年出来上がりつつある。

Charlotte Hornets(シャーロット・ホーネッツ)のLamelo Ball(ラメロ・ボール)や、Chicago Bulls(シカゴ・ブルズ)のJosh Giddey(ジョシュ・ギディ―)もこのプログラムの卒業生(?)だ。21-22シーズン、Melbourne UnitedはNBAから戻ってきたMatthew Dellavedovaの活躍もあり(言いたいだけ)レギュラーシーズン優勝となったのだが、Arielは入団一年目ながら平均15分出場し、6.7点4.9リバウンド1.3ブロックを記録しながらしっかりと強豪のバックアップセンターを勤め上げた。ドラフト制度のないNBLにおいては、チームがタンクしたり若手の育成に振り切るという戦略も取りづらい。いきなり優勝を目指すチームに参加して、さらに全28試合という短いシーズンの中で、ルーキーがいきなりプレイタイムをしっかり確保することはそれなりに難しい。しかしArielはチームからの信頼を即座に手に入れ、見事それをやってのけた、ということはしっかり書いておきたい。翌22-23シーズン、正センターのJo Lual-Acuil Jr.(ジョー・ルアル・アチューJr.)がUnitedから移籍したこともあり、Arielにとってはより一層の飛躍が期待されるシーズンとなったが、プレシーズンマッチ中に左足アキレス腱を断裂。無念のシーズンエンドとなった。幸い、同じアキレス腱断裂を経験したチームメイトのJack White(ジャック・ホワイト)を完全復帰させた優秀なメディカルチームがUnitedにいたことで(Jack Whiteもまた身体能力が売りの選手、その後22-23シーズンにNBAサマーリーグで活躍、Denver Nuggetsの一員となる)、Arielのリハビリは順調に進んだ。懸命なリハビリの甲斐もあり、23-24シーズンはプレイオフも含めて全試合に出場。平均18分出場し、7.9点7.1リバウンド1.5ブロックを記録。大怪我を感じさせない相変わらずの跳躍力とダイナミックなプレーをリーグに見せつけた。チームはファイナルに進み、Game5までもつれるも優勝とはならず、それでも守備の要として活躍したArielは満を持してNBAドラフトに臨み、見事2巡目58位でNew York Knicksに指名されることとなった。それではもう少し彼のプレースタイルについて細かく見て行こう。
(Arielの人となりがわかるインタビュー動画↓)


3. 跳躍力と走力を活かしたダイナミックなオフェンス

Ariel Hukportiの魅力はなんといってもそのサイズと運動量だろう。NBLは非常にペースの速い展開を好むリーグで、センターが走れないと話にならないのだが、Arielは7フッターながら重さを感じさせないランニングとジャンプ力で、見事にこのリーグスタイルにアジャストして見せた。実際NBLに入った直後はみんなずっと走っていて驚いたそうだ(以下インタビューより)。

ただ結果としてそのリーグスタイルは彼の運動能力と見事にマッチしており、トランジションの先頭を走って派手なダンクやアリウープを決めるハイライトを量産した。
特に昨季はUnitedのPG、Matthew Dellavedovaとの相性が抜群で、彼らが繰り出すピック&ロールからのアリウープはチームの大きな武器だった。Dellavedovaと言えばCleveland Cavaliers(クリーブランド・キャバリアーズ)でのTristan Thompson(トリスタン・トンプソン)とのコンビプレーが印象深いが、まさにそれを思い出させるようなペアリングだ。Dellyファンとしても昨季はArielに大変楽しませてもらったので彼には感謝してもしきれない。

身体の幅を活かしたスクリーンから、素早い身のこなしでインサイドにダイブしたかと思えば、すでに最高到達点までふわりと浮き上がっているAriel。これにパスかフローターか、的を絞らせないDellavedovaのドライブが組み合わさると、リーグ内でもなかなか止められるチームはいなかった。NBLという強度の高いプロリーグで、正しいスクリーンセットからロール、ダイブの適切なタイミングまで、Dellavedovaというメンターにしっかりと叩き込まれたArielが、Knicksのさらに優秀なハンドラー陣と組んだ時に何が見れるのかはすごく楽しみだ。(Dellyに色々教わったと話しているAriel↓)

もう一つの武器は利き手の左手から繰り出されるリムまわりのフローターやフックシュートだろう。ピック&ロールからいいポジションを確保して打ち切るパターンだけでなく、ポストアップから体格を活かして相手を押し込み、高い打点から打つフローターはなかなか止められなかった。一方でそれ以外に独力で得点できるパターンは現状乏しく、よりサイズのあるビッグマンが揃ったNBAでどこまで通用するのかは未知数な部分がある。平均62%のフリースローを見てもシュートタッチ自体は悪くないように見えるので、ポストアップからの得点パターンを増やすだけでなく、中距離のジャンパーや3Pの向上にも期待したい。リーグ6位のオフェンスリバウンド(平均1.8本)も、プットバックやチームのセカンドチャンスを生み出す貴重な武器となっていたことを最後に触れておこう。何回もぴょんぴょんと跳べるのもすごい(急に雑)。次は守備面だ。
(今季のArielのハイライト↓)


4. サイズとフットワークを活かしたソリッドなディフェンス


まず声を大にして言いたいのが、Hukportiが所属していたMelbourne UnitedはNBLの中でも守備が優秀なチームとしてアイデンティティを築いており、昨季リーグの中で2番目に優秀なDefensive ratingを示していた。その中でもインサイドの守備の要として活躍していたのがAriel Hukportiだ。実際に彼がオンコートの時のDefensive ratingは、10試合以上出場している選手の中ではリーグで2位(DRtg:101)。ちなみに1位は昨季NBL優勝を果たしたTasmania JackJumpers(タスマニア・ジャックジャンパーズ)のセンター、そして今回オーストラリア代表の一員としてパリ五輪に挑むWill Magnay(ウィル・マグネー)だった(DRtg:100)。この二人は平均ブロック数でもリーグの1位、2位に輝いており(Magnayが1.6ブロック、Arielが1.5ブロック)、この若さで既にリーグを代表するディフェンシブビッグに引けを取らないほどのインパクトを残していたのは特筆すべきだろう(ただしNet ratingはWill Magnayが圧倒している)。昨シーズン序盤、その圧倒的な守備力を見せつけていたというポストを見つけたのでついでに貼っておく。

跳躍力を活かしたブロックはもちろん、彼のディフェンスの基盤がそのフットワークにあることも忘れてはならない。昨季Melbourne Unitedでサポートコーチをされていた松井康司さんもArielについて、「7フッターであれだけ足が動く選手は多くない」と評価していた(われわれのPodcast「逃げるは恥だがデラベドバ」Ep.25-2の31分あたりで話してくれている)。

特に相手のピック&ロールに対する守り方が上手い印象で、ドロップしながらハンドラーの判断を最後まで絞らせないように左右に細かくステップを踏み、ビッグマンにパスが入るとすかさずブロックに跳んでボールを刈り取る。これがお得意のパターンだったように思う。ブロックもきちんと垂直に跳びながら、むやみにファールをとられない、非常にクリーンにコンテストする印象で、相手のシュートに対して何度も短い時間に連続してジャンプできるところも魅力だ。

スイッチされた際にNBAレベルのハンドラーに対してどれだけついていけるか、ハンドラーに対してハードショーなどを仕掛けた後にどれだけ素早くローテーションできるか、このあたりは未知数な部分が多いが、NBLで見せてくれたフットワークの良さをNBAでも発揮できれば守備範囲の広い7フッターとして重宝されるのではないだろうか。

5. 最後に


Ariel Hukportiが所属していたMelbourne Unitedは、強固なディフェンスを中心に据えたチームスタイル、そして献身性(Dedication)を中心に据えたチームカルチャーが魅力のクラブであり、Arielはまさにそれを体現していた一人だった。彼がチームで信頼を勝ち得ていたことがその何よりの証拠だろう。Unitedで見せてくれた、アンセルフィッシュで泥臭い仕事も引き受けていく、身体能力頼りにならないハードワーカー気質なArielのプレースタイルは、間違いなく(私の認識が間違ってなければ)New York Knicksのチームカルチャーにフィットするはずであり、良いチームにドラフトされたなあというのが率直な感想だ。Tom Thibodeau(トム・シボドー)ヘッドコーチのもとでプレイタイムを勝ち取るのはなかなか難しいかもしれないが、プロでの長い経験やアキレス腱断裂という大怪我を乗り越えたArielは、きっとどんな困難にも屈しない強さを兼ね備えていると信じている。"Big A"がたくさんのニューヨーカーに愛されますように。Melbourneより愛を込めて(実際は東京在住です)。


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