見出し画像

人面魚のはなし #1

第1話 発生

僕の周りには霧がある。

初めて見たのは数年前だろうか。
それは不思議な霧で、必ず僕の周りだけに現れる。
そして、どうやら僕にしか見えない。

いつものように今日も学校へ行って、「高田真輝」――僕の名前のついたロッカーを開けた。
隣を使う人は、僕がロッカーの中身をごそごそ掻き回しているのに目もくれず、いそいそと荷物を出し入れして去っていった。

「また無視されちゃったわね」

耳元で声がした。
驚いて振り向くと、頬にヒンヤリとした何かが触れる。

「貴方のこといつも見てるけど、今日もこんな調子なのね」

彼女は魚だった。いや、だろうと思っただけだ。
水底のような色のふくよかな魚の姿だ。
彼女、と言ったのは、その顔が女性の顔に見えたからだ。

人面魚はフワリと笑った。彼女の髪についた鈴が、つられてチリンと揺れた。