コナン映画ベスト5
名探偵コナンの個人的ベスト5は、すべて初代監督こだま兼嗣氏の作品である。こだま氏はコナン映画の1〜7作目を手がけた。正直、他監督作品とは決定的な質の差があるといってよい。小学校高学年くらいであれば十分理解できるがよく練られた緩急のあるシナリオ、存分に生かされたキャラクターの個性、そして何よりキャラクターの中に人間としての美徳を作中に必ずみることができた。
こだま氏のコナン映画の特徴としてひとつ挙げられるのが、犯行の動機が個人の内面に引き起こされた美的感覚の不調和という点である。1作目『時計仕掛けの摩天楼』は建築家が美的感覚/完璧性への不理解と侵犯を感じたこと、2作目『14番目の標的』はソムリエの職業上の尊厳を傷つけられたこと、3作目『世紀末の魔術師』では祖先を侮辱されたこと、4作目『瞳の中の暗殺者』は天職が続けられなくなったこと、5作目『天国への階段』は芸術活動ができなくなったこと、6作目『ベイカー街の亡霊』は犯罪者の子孫であることが明らかになること、7作目『迷宮の十字路』では、盗賊団において自分が尊敬する歴史人物の役柄を与えられなかったことがそれぞれ動機となっている。身内の殺人や金品のやり取りで発生する直接的な恨みと比較すると、内面的な剥奪感に起因するものが多い。
これは私の憶測にすぎないが、こだま氏はおそらく円谷光彦のファンである。それぞれの映画の演出で、光彦が人間として魅力的に描かれているシーンが少なくない。また、名探偵コナン18巻では灰原哀が初登場し、ニセ札犯のアジトに少年探偵団が侵入するシーンがある。アニメ内では、そのビル内でコナンを既に殺したと主張する犯人に対し光彦が「このビルには出入口が一つしかない、いつ殺すことが出来るんです!」と反論する。このシーンは漫画にはない。光彦の知性が光るセリフが何らかの(おそらく好意的な)理由で挿入されているのではないだろうか。
1.ベイカー街の亡霊
コナンの映画人気ランキングで常にトップに君臨し続ける作品。シナリオは言及するまでもなく隙のない面白さである。子供たちが命を賭してプレイするヴァーチャルゲームと現実世界での殺人が交錯する。個人的なベストシーンは、ハイソサエティの子息として調子に乗っていた狂言師の息子、光彦のまがいもののような容貌の菊川清一郎くんがコナンを助け、ゲームオーバーになって消えていく場面である。
2. 天国への階段
時限爆弾の爆風を追い風に車で隣のビルへと移ろうと決意したコナン達。爆発まで30秒を切っていながら、爆弾付近でタイマーのカウントを続ける灰原哀。元太、光彦は考えるよりも先に体が動いていた。残り20秒、元太は灰原の元に駆けつけ、彼女を抱えて車に放り込む。光彦はともすれば巻き添えになる可能性があったにもかかわらず、風に煽られて車から落ちかけた灰原の腕を離さない。涙なくしてはとても見ることができない。ただ元太と光彦が人間としてあるべき姿を見せてくれる。何が人を人たらしめるかという真髄を見せてくれるシーンである。
3. 14番目の標的(ターゲット)
主役はまぎれもなく本作品の犯人、沢木公平氏。温厚で上品なソムリエを気取っていた沢木氏は、犯行を暴かれた後は自らが誇りとしていたソムリエの気品や尊厳などすべて忘れて逆上する。「仁科ァ!!!お前はグルメを気取って知ったかぶりの本を書き、ワインについての間違った知識を読者に植えつけた!!」「そして辻弘樹ィ!!!!!奴は私のソムリエとしての尊厳を汚した!!」沢木氏の声優はバイキンマン、フリーザ等で有名な中尾隆聖氏である。
4. 瞳の中の暗殺者
個人的ベストシーンは、事件を目撃したショックで記憶喪失になっていた蘭が記憶を取り戻した直後、犯人をボコボコにする場面である。蘭の空手を受けた犯人は数しれないが、今回は胸部への連続打撃及び顔面への3発の蹴りと、かなり徹底的にやられた方である。本作品の犯人は温厚な精神科医であった風戸京介で、ラストでは非常に凶悪な人相に変わる。被害者が「死に際に左胸を掴むことで心の医師=心療内科医が犯人であることをダイイングメッセージとして示した」という微妙なコナンの推理に風戸が疑義を挟まないところもいい。
また、白鳥刑事の有名なセリフである"need not to know"(作中の発音は、ニード・ナッ・トゥ・ノウ)がある。4作目である本作では、1~3作と比較して目と眉の間が多少離れた。
5. 時計仕掛けの摩天楼
記念すべき1作目。ベストシーンは、東都環状線に仕掛けられた爆弾の爆発を防ぐべく、指示室と運転士が連携して無事に電車を止める場面。このように人命の多くかかった緊張感のある状況で、的確なリーダーシップをとれるおじさんが大活躍する。
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