モモンガの1日(8)

「それ、かわらばんだろう? 」

戻って拾いあげた時、

突然、声がふってきた。近くの梢には誰も見当たらない。

「そうだけど…」

モモンガはあたりを見まわしながら答えた。

どこから話しかけてるんだろう。こんなところに知り合いがいたっけ。

そう思っていると、梢のひとつがかさかさと揺れて、ニヤリと歯をむき出しだしたねずみが現れた。

「それ、ぼくが書いてるんだよ」

「えっ」

モモンガは目を丸くした。

「図書館でもらったのかい」

「そう…」

「よかった、置いてもらえることになって。これで一歩また前進だ」

ねずみはつぶやいた。

「あの、」

モモンガには聞いてみたいことがあって、思わずねずみを呼びとめた。


どうして最近になって発行回数が増えたのかという事、

どうやって情報を集めているのかという事、

どんな風に作っているのか、

とんびは怖くないのか、

どうしてかわらばんを作ろうと思ったのか、

それから、それから……。

脈絡もなくばらばらに湧きでる疑問に自分でも驚いた。

けれど実際に言葉になったのは、

「いつも読んでます」

そんなありきたりなひと言だけだった。

「また明後日も出す予定だから、楽しみにしてね」

そう言ってねずみはニヤリと笑って、さっとどこかへ行ってしまった。


この広い森でまたいつ出会えるかわからない。

モモンガは少し寂しい気持ちになって、

さっき聞けなかったことぜんぶをそっと胸のうえから撫でた。

すっかり濃さを増した空の下、木々を縫って飛びながら

家路をたどった。

モモンガは「いつも読んでます」のまえに言いたかった言葉を

何度も心のなかでつぶやいていた。

(つづく)

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