高度な気道確保をしていなくても圧迫と換気は非同期でいいのか?
心肺停止の患者さんに対して、高度な気道確保がされていない場合、胸骨圧迫と換気の回数は30:2で同期して行うのが一般的です。日本蘇生協議会(JRC)のガイドライン2020のP.64には以下のようにあります。
「救急隊員が行うCPRについて、気管チューブもしくは声門上デバイスを留置するまでの間は、30回の胸骨圧迫に対して2回の換気を行う」
最近聞いた話ですが、ある講習会では、高度な気道確保をした場合と同じように、高度な気道確保がされていなくても圧迫と換気は同期せず、お互いバラバラに胸骨圧迫は1分間に100-120/分の速さで、換気は10/分の頻度で行ってもよいと指導しているらしいです。
そのようなプロトコールで対応している救急隊があることは知っていましたが、まさか、ガイドラインで推奨されているとは!知りませんでした。不勉強でした。
何と、先ほどの日本蘇生協議会のガイドライン2020の文章には続きがあります。
「救急隊員が行うCPRについて、気管チューブもしくは声門上デバイスを留置するまでの間は、30回の胸骨圧迫に対して2回の換気を行うか、胸骨圧迫を中断することなく陽圧換気を行うことを推奨する」
なんてこったい!!30:2が絶対と勘違いしていました!AHAやERCも調べてみたところ、AHAのガイドラインには以下のようにあります。30:2は2aの推奨となっていますが、連続胸骨圧迫は2bの推奨となっています(30:2はIt is reasonableと書かれています)。
It may be reasonable for EMS providers to use a rate of 10 breaths per minute (1 breath every 6 s) to provide asynchronous ventilation during continuous chest compressions before placement of an advanced airway.
高度な気道確保が行われるまで、救急隊員が非同期の連続胸骨圧迫を行い、10/分(6秒に1回)の換気を行う事は合理的であるかもしれない。
ERC(ヨーロッパ蘇生協議会)のガイドライン2021のALSの所には以下のようにあります。
ILCOR has subsequently recommended that when using bag mask, EMS providers perform CPR either using a 30:2 compression-ventilation ratio (pausing chest compressions for ventilation) or continuous chest compressions without pausing while delivering positive pressure ventilation (strong recommendation, high-quality evidence). In Europe, the most common approach during CPR with an unprotected airway is to give two ventilations after each sequence of 30 chest compressions.
ILCOR(国際蘇生協議会)は、バックバルブマスクを使用する場合、救急隊員は30:2の同期心肺蘇生(換気のために胸骨圧迫を中断)または、換気のために圧迫を中断せず連続して蘇生を行う方法のどちらも引き続き推奨している。ヨーロッパでは、高度な気道確保がされていない場合の心肺蘇生では、胸骨圧迫30回の後人工換気を2回行うのが一般的である。
BLSの所には以下のようにあります。ILCORは非同期連続胸骨圧迫もいいと書いているのに、連続胸骨圧迫を推奨していません(ILCORの推奨と同じくと書きながら!)。
Consistent with the ILCOR treatment recommendations, the ERC recommends alternating between providing 30 compressions and 2 ventilations during CPR in both lay rescuer and professional settings.
ILOCRの推奨と同じく、ERCは一般市民救助者も専門家も心肺蘇生中は圧迫30回と人工換気2回を交互に行う事を推奨する。
まとめると、
ILCORとJRC 30:2も非同期もどちらも推奨
AHA 非同期も推奨しているが、30:2よりも推奨度は低
ERC 非同期は推奨せず
と言うことになります。ILCORで推奨されているのにAHAやERCは同じように推奨していないのは何故かと言えば、以下の記載が参考になるでしょう。
以下の本のP.30のコラムには、「明らかな優位性がみとめられないにもかかわらず非同期BVMを推奨することには違和感も残るが、いずれにしてもこの手法は早期に気管挿管が行われるまでの数分間にのみ適応される手法であり、わが国の現状にはそぐわないであろう」とあります。
この本は日本蘇生協議会のガイドライン2020に基づいたテキストのはずなんですが、ガイドラインで推奨されているのに、、、、、、、、と思います。面白いですけど。
よって、これからも30:2で指導する方が良いでしょう。上記のテキストの本文には、非同期換気の話は出てきません。質問されたら、「よく勉強していますね!確かに日本のガイドラインでは推奨されています!」と答えれば良いでしょう。
かもしれないとか、may beとかややこしいですが、以下の曲を聴いて癒やされてください、、、、、、知らんけど。
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