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心拍再開後の昇圧剤はノルアドレナリンか?

 先日ICLSコースのディレクターをさせていただきました。原則ディレクターは指揮者のような感じで受講生の方に直接指導をすることはありません。そして、今回はディレクター見習いの方がおられて、なおさら私はする事がありませんでしたので、各ブースのインストラクターの方の教え方を見学させていただきました。

 心拍再開後の治療について説明をしているところに遭遇しました。インストラクターの方が「ガイドラインでノルアドが推奨されている」と言っておられて、あれ?そうだったっけ?と心配になり、調べてみたのでここに書いておきます。

 先に結論です。

 ガイドラインとは敗血症のガイドラインと思われます。日本の心肺蘇生のガイドラインに血圧を上げる方法についての記載はありません。
 昇圧剤はノルアドレナリンが一番無難だと思われますが、強く推奨するエビデンスはありません。
 たぶん、まずやることは晶質液(細胞外液補充液、つまり生理食塩水や乳酸リンゲル液など)の輸液です。
 そして、講習会で血圧を上げる方法について議論しない方がいいでしょう。

 心拍再開後に血圧が低い場合の対応と、どのぐらいまで血圧を上げるべきか?について調べてみました。

 まず日本蘇生協議会のガイドライン(P.114にあります)には、平均血圧や収縮期血圧の目標値を決めて(どのぐらいにすべきかは個々の患者で考えなさいと)管理することを提案するという記載になっています。そんなこと、あんたに言われんでも、、、、、、、と思いますが、推奨できるエビデンスがないそうです。そして、血圧を上げるためにどうしたらいいかについて記載がありません。 

 しかし、日本のガイドラインを基に書かれている「救急蘇生法の指針2020ー医療従事者用」のP.101には「心機能正常時やACSが疑われる場合はノルアドレナリン、心機能低下時はドブタミンなどを少量から持続的に開始する。体温管理療法時は多くの場合、血管透過性亢進などによって循環血液量不足状態にあり、充分な輸液投与を行う」とあります。

 次はヨーロッパです。ヨーロッパ蘇生協議会のガイドライン2021の「Post resuscitation care」P.234にあります。

 Based on the evidence summarised by ILCOR, we suggest avoiding hypotension (MAP < 65 mmHg) and targeting MAP to achieve adequate urine output (>0.5 mL/kg/h) and normal or decreasing lactate values (best practice statement).
 ILCORにまとめられたエビデンスに基づき、我々は平均血圧65mmHg未満の低血圧を避け、適切な尿量を得られ、乳酸値が正常あるいは低下するよう平均血圧を保つことを推奨する。
(ILCORは国際蘇生連絡協議会とでも訳される物で、世界中の救急オタクの集まりと考えていただければ良いと思います。蘇生ガイドラインの基礎となる文書を適宜発表しています)

 As noradrenaline is the most widely used vasoactive agent for post-cardiac arrest patients, we suggest using noradrenaline as the first-line vasoactive agent in hypotensive post-cardiac arrest patients.
 心拍再開後の患者にノルアドレナリンが最もよく使われているため、低血圧の心拍再開後の患者にはノルアドレナリンを第一選択とすることを推奨する。

 Post-resuscitation myocardial dysfunction often requires inotropic support. Based on experimental data, dobutamine is the most established treatment in this setting, but the systemic inflammatory response that occurs frequently in post-cardiac arrest patients also causes vasoplegia and severe vasodilation.
 心拍再開後の心筋障害ではしばしば強心剤が必要である。動物実験に基づいたデータではあるが、ドブタミンがこの場合最も良い薬剤である。しかし、心拍再開後によく認められる全身性炎症反応が重篤な血管拡張を引き起こす(ドブタミンが血管拡張作用があると言うことなのでしょうか?)。

 次は日本で一番有名なアメリカです。AHAのガイドラインには以下のようにあります。

 It is preferable to avoid hypotension by maintaining a systolic blood pressure of at least 90 mm Hg and a mean arterial pressure of at least 65 mm Hg in the postresuscitation period.
 心拍再開後には収縮期血圧を少なくとも90mmHg、平均血圧を65mmHgに保つことで低血圧を避けることが望ましい。

 以前のガイドラインでは、まず1-2L輸液をするとあった記憶がありますが、何をして血圧を保つべきかについては記載がありませんでした。

 ACLSプロバイダーマニュアルの英語版P.156(日本語版でも同じだと思います)には以下の順で記載があります。
 輸液、ノルアドレナリン、アドレナリン、ドパミンの順です。順番に推奨されると書いてはありませんが、一般的にそうでしょう。まず輸液です。

 最後にUpToDateです。

"Initial assessment and management of the adult post-cardiac arrest patient(心拍再開後の成人患者の初期評価と管理)"と言う文献です。

 Data supporting a particular drug in this setting are lacking. Norepinephrine is generally well tolerated and effective, and it has a lower risk of tachyarrhythmia than dopamine. Bolus administration of 10 to 100 mcg epinephrine given IV or IO (ie, push-dose pressor) has a rapid physiologic effect and may be used as a bridge to the initiation of other therapies (eg, norepinephrine infusion), although strong data supporting safety are lacking.
 心拍再開後に使用する特定の昇圧剤を推奨するデータはほとんどない。ノルアドレナリンが一般的によく使われており有効である。ドパミンに比較して頻拍の頻度が低い。10−100ugのアドレナリンをボーラス投与すると血圧が直ぐに上昇するので、他の昇圧剤の効果が出るまでの間使用しても良いが、この介入の安全性を保障するデータはない。

 アドレナリン10ugって、1アンプル1mgの薬を100mLに薄めてその薄めた液を1mL投与する量で、少なっ!って思いますが、そのぐらいアドレナリンは強力だと言うことですね。

 と言うことで低血圧(平均血圧65mmHg未満)は避けるべきですが、具体的にどの様に血圧を上げるべきかは示されていないのです。
 講習会では、明らかな推奨がないことはこちらからは言わないのがベターです。「心拍再開後は血圧を低くしないようにしましょう。使う薬は何でも良いです。」と伝えるのが無難でしょう。

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