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救急患者さんは原則入院です

私は徳洲会という医療法人で働いています。途中ブランクがありますが、研修医の時からです。

現在は新型コロナ感染の為にやられていないと思いますが、それまでは研修医として入職すると、徳洲会全体のオリエンテーションがありました。その時に当時の理事長の徳田虎雄先生の講演がありました。そのお話の中で、一つ印象に残った話がありました。

「お前達に誤診をしない方法を教えてやる」と徳田先生は言われました。「患者さんを診たら、カルテの一番上に入院の上経過観察と書くこと、これが誤診をしない方法だ」と。当時何も分からなかった1年目研修医の私は、この人は大丈夫だろうか?と思いました。救急患者さん全員に入院してもらうなんてあり得ない!と。
自分の病院に帰って上司の先生に話したところ、救急医学会の指導医を持っている先生が言われました。「俺は徳田虎雄が嫌いだけれども、その言葉は完全に同意するよ。先生が思うことは理解できるけれど、経験を積んでいけば分かるよ。」

あれから30年近い年月が過ぎ、私も今は研修医の先生に、救急患者さんは入院させよう!と言っています。理由は以下の通りです。

(1)夜間休日の判断力は100%ではない。
(2)後で症状が出たり、検査所見がハッキリする場合がある。
(3)救急車で病院に来るのにどのぐらい時間がかかるのか?

(1)夜間休日の判断力は100%ではない。
そもそも判断力が優れているとは思えない自分が、夜中や休日に100%の能力を発揮できる可能性は低いです。眠い、疲れた、お腹が空いた、早く帰って○○したいなど、色々判断力を低下させる要因がたくさんあります。
実際救急外来を受診し帰宅した患者さんの200人に一人程度は本来入院すべき状態だったという報告があります(と記憶していますが、今調べた範囲では見つかりませんでした)。200人に一人って結構高い確率です。
研修医の時に習った小児科の先生は、夜間休日に受診した患者さんは必ず翌日受診するように伝えていて、自分が外来だったとしてもそうしていて、平日午前中の外来で「どうしてこんな悪い状態の子を帰してしまったんだろう!?」と思うことがよくあると言われていました。

(2)後で症状が出たり、検査所見がハッキリする場合がある。
例えば上腸間膜動脈塞栓症という致死的になり得る疾患は、初期には腹痛だけで、お腹は柔らかいし、血液検査でも異常はありません。この時に画像検査をきちんとして診断すれば腸切除もしなくて済みます。しかし、診察も血液検査も異常がないと帰してしまおうという気にもなります。
他の病気も初期症状は軽いことが多いです。

(3)救急車で病院に来るのにどのぐらい時間がかかるのか?
帰宅してもらっても、何かあれば救急車で来れば良いじゃないかと思うかもしれませんが、我々医療のプロと患者さんや家族では観察力が違います。我々が診たら、明らかに病院に来るべき症状だと思っても、患者さんたちには分かりません。またちょっとでも救急外来の対応が悪かったら、又あそこに行くのは嫌だなあと思って躊躇するかもしれません。そんな感じで119番通報しようと思うまでに時間がかかってしまうかも知れません。
それから、救急車が119番だと知らない人もいて、救急車を呼ぼうと思ったが、呼ぶ方法を調べるのに時間がかかるという可能性があります。
119番通報があってから病院へ着くまでに早くて30分ぐらいかかるとされています。現場に救急車が着くまで10分、現場で処置をしたりするのに10分、現場から病院まで10分です。場所や患者さんの状況によりもっとかかるかもしれません。
入院していれば直ぐ発見されて当直医により対応されれば直ぐ問題解決するのに、家に帰ってしまうと、数時間かかってしまうかも知れません。それが命取りになるかもしれません。

他にも色々な理由がありますが、やはり救急患者さんは入院してもらうのがいいと思います。

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