読書の記録#12 メダリスト VOL.1

メダリスト VOL.1(講談社) つるまいかだ(著)

珍しい、スポコン系本格フィギュアスケート漫画

フィギュアスケートがゴールデンタイムに放送されるようになって長くなってきた。顔を見れば大体の人が名前が分かる選手も出てくるようになった。そんな状況にはなったものの、フィギュアスケートの漫画というとあまり多くないのが実情だ。
私は2005年のグランプリシリーズからフィギュアスケートを見始め、気付けば夢中になってもう今季で16シーズン目となる。ハマればハマるほど色々な大会を見るようになるのは必然であり、ジュニアやノービス(ジュニアの下。小学生の主戦場)の試合を見ながら「次はこの選手が活躍しそうだなあ」なんて思いながら選手の情報を実際に見て蓄積している昨今である。
私はそんな具合に沼にハマった状態だが、客観的に見ればフィギュアスケートはスポーツとしては依然マイナースポーツの色が強いであろうし、採点で言うところの技術点は分かりやすいが演技構成点は一般的に分かりづらく、引いてはやんわりとした知識では漫画にしづらいことは容易に想像がつく。

しかしながら、この漫画はスポコン系本格フィギュアスケート漫画とでも言うべき内容である。

スタオベしたい、2つの地味要素

この作品が思い切っていると感じられるのが、2つの地味要素である。フィギュアスケートの華やかさと対極にあるような用語だが、本作品の構成要素はかなり地味である。

まず、元アイスダンサー高橋裕美氏の監修による、確かな技術要素が含まれており、技術的に納得感のある内容となっているのだが、細かい分なかなか日の目を見ないものに多くのページ数が割かれている。
フィギュアスケートと言うと見た目が派手なジャンプにフォーカスを当てたくなるが、スケーティングの基礎の話からしっかりと網羅する徹底ぶり。滑るスピードで凄さを表現するのは、読むとあっさりと入ってくるが、描こうとするのはかなり勇気がいると思う。現実でもスケーティングの練習は地味なので好きじゃないという若手スケーターが多いという話もある中、漫画でその地味なものにフォーカスを当てるシーンが結構多くあるのだ。その勇気や素晴らしいと感動した。繰り返しになるが、展開の都合上もあり、フィギュアスケートを題材にしながらこの第1巻に派手さはほとんど無いのだ。にもかかわらず熱い展開、読み進めたくなる仕掛けが施されている。
ちなみに実際には、心情含め描写が非常に丁寧であり、スピード感・躍動感のある絵で展開されていくため、地味という印象は持たずに読み進められるのも良い点である。

2つ目が、フィギュアスケートをこれから本格的に始める(しかももう11歳とフィギュアスケートを本格的に始めるにはかなり遅い年齢で)という設定である。
要は、第1話の時点で主人公は1回転ジャンプすら跳べない状況なのである。全く派手さがない。
描写しやすくするのであれば、ジュニア時代は活躍していたけどシニアに上がって伸び悩んでる選手を主人公にするなどした方が、明らかに技に華があるので描きやすいだろう。
11歳、ほぼ未経験(自己流のみ)を主人公にして描くのは必然的に序盤地味な内容が多くなる漫画的なリスクを抱えることとなるが、そこに飛び込んできた作品である。これからフィギュアスケートを始めたいという子の親が読んでも考えさせられる内容だと言えるような、良くも悪くも生々しい内容もフィギュアスケートの現実として多く盛り込まれている。
先述の通り、描写が丁寧なので置いてけぼり感は少なく(技術的な用語等、注釈がついていないものもある程度詳しくないと知らない用語が散見されるが、そこは読み飛ばしても楽しめる内容となっている)、どの選手にもこんな時代があるのかなあと思いを馳せられる点が、非常に面白い試みであると感じる。

2巻は来年2月発売予定

作者のつるまいかだ氏はこの作品がデビュー作である。そして、フィギュア大国愛知県出身、フィギュアスケートを習ってらっしゃるよう。(そして昨年秋にスケートが原因で盛大に右足首骨折、今年春に氷上に戻られているようなので今後その辺の描写を本作ですることがあれば、これまた生々しくなるだろう)
非常にフィギュアスケート愛があり、展開も熱く面白い作品となっている。フィギュアスケートを始めるところから描かれているので当然第1巻は選手としてはこれからという状況なのだが、その状況で面白いというところに凄みを感じる。

今年のアフタヌーン7月号から連載開始の作品なので、この第1巻が最新刊であり、第2巻は来年2月に発売予定である。
是非、フィギュアスケートを切り口にした珍しいスポコン作品を多くの人にご覧いただきたい。
第2巻も大変楽しみだ。

なお、本のカバーを取るとプチ漫画が出てくるので単行本購入の際は読後にそちらも要チェックである。

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