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シャンパンの飲み頃はいつ?を科学的に解説

いよいよWSET D4&D5(もはやD3は記念受験…)の試験まであと1ヶ月となり、頭の中がワインだらけな日々を送っています。

ここまでハードな勉強生活は高校3年以来ですが(大学時代は?)、勉強はただただ教科書を読んだりノートに書き込んでいても仕方ないので、このnoteで学んだことを吐き出していきたいな、と思います。勉強メモみたいなものなので読みやすさとかあまり気にせず書くと思いますが、どうかご容赦を。

とはいえ、せっかく書き残すのなら面白いテーマが良いなということで、シャンパンの話を。きらきらとしたシャンパンの泡立ちを眺め、うっとりと「まるで星を飲んでるかのようだわ」と思わず声に出してしまう・・そんなロマンチックな内容では全くありません。

飲み頃のお話です。

「ワインは寝かせるほど美味しくなり、価値が上がる」という迷信はさすがにもう囁かれることがなくなりましたが、ことシャンパンに関しては判断が難しいのではないかと常々思っています。というのも、シャンパンはベースからそんなに安くないので、メゾンにとっての「スタンダードライン」は消費者にとって決してスタンダードなお値段ではない場合が多いからです。だから値段だけでは判別しづらいのです。(もちろんスティルワインでも同じですが、一般論として)

Q)シャンパンは寝かせるほど美味しい?

A) YESのシャンパンと、NOのシャンパンがある

これは言い換えると、「長く寝かせることを前提にした」シャンパンと、「早く飲んで欲しい」シャンパンの2種類がある、です。

ではこの2種類は何によって決まるのか?


ワインの味わい・品質を決める要素はたくさんありますが、ここではラベルを見れば分かる(あるいはメゾンのHPなどで調べれば分かる)3つの要素に絞りましょう。

品種、産地、そしてAgeing on the lees(シュール・リー)の期間です。
※もう一つプレスワインの使用割合というのも大きいですが、ラベルから読み取れないので割愛

まず品種。

シャンパンに使われる品種は3つありますが、その中でもシャルドネという品種は酸が高くニュートラルな味わいが特徴で、特にシャンパーニュ地方(私は産地名をシャンパーニュ、完成品をシャンパンと使い分けてます)でも冷涼なエリアのものはその特徴が顕著です。このシャルドネをメインにして造られたシャンパンはゆっくりと熟成が進み、また熟成によって酸が丸みを帯び、またAutolytic notes(酵母の自己消化に由来するビスケットのような香ばしいアロマ・・シャンパンのもっとも魅力的なアロマの一つ)との親和性が増します。つまり長く寝かせると進化する可能性が高いシャンパンになります。
代表的なのがシャルドネ100%で造られたサロンというシャンパーニュですね。6万円は下らない(今はもっと?)プレミアムシャンパンですが、若いうちはめちゃめちゃ酸が強く、初めて飲む人は「えー!めっちゃ酸味強い!なのに高いー!」と悲鳴を上げてしまいますが、20年も寝かされたサロンの香りと味わいは言葉では言い表せないほど複雑で、力強く、そして繊細な味わいをしています。
※追記 近年のサロンはスタイルを変えて、より早くから楽しめるようになっているとご指摘をいただきましたのでここで補足させていただきます

対してムニエ(ピノ・ムニエと言う人も)という品種から造られるシャンパンはフルーティーで柔らかく、シャルドネやピノ・ノワールと比べて、若いうちから魅力的な味わいになります。シャンパーニュの中ではヴァレ・ド・ラ・マルヌ(マルヌ川の谷)というエリアがこの品種で有名ですが、これはこの渓谷沿いで春に霜が下りやすいため、発芽の遅いムニエがその被害を免れやすいことから多く植えられています。南向きの斜面かつ川のそばということもあり他のエリアに比べてやや温暖になり、よりフルーティーでリッチなスタイルになります。若いうちからフルーティーで飲みやすい、というのは裏を返すと「酸度が低い」わけで、酸による熟成能力はシャルドネに比べて低くなります。
このムニエが重宝されるのは、「はやく飲んで欲しいシャンパン」を造るときです。シャンパン造りはとても時間がかかる、コストの高いビジネスです。全てのシャンパンが長期熟成向けだったら、気が遠くなるような消費サイクルになってしまい、全然お金が回収できません。飲む人にとっても「明日は彼女の誕生日♪」とせっかく買ったシャンパンが「飲み頃は3年先」だったら困ってしまいますよね。(3年後も続いてる関係なら良いですが)

ああ、品種だけでもうこんなに書いてしまった。。まだ全然書き足りないのに。もう少しお付き合いください。

というわけで、品種というのは一つ飲み頃を知るバロメータになるわけです。

次に産地。

品種のところでも書いたように、そこが涼しい産地か、それとも暖かい産地か、というのは大事な要素です。
(補足:基本的にスパークリングワインの産地は寒いほど良いので、暖かい産地というのはやや語弊があります。シャンパーニュ地方は北緯49度あたりで、稚内よりまだ北ですからね)
シャンパーニュの中だと、モンターニュ・ド・ランスが涼しい産地、ヴァレ・ド・ラ・マルヌは地形条件からやや温暖な産地と位置づけられています。またコート・デ・バールという南のエリアも比較的気温が高いです。ここは寒いエリアを拠点とするメゾンにとって、フルーティーさ・リッチな味わいをブレンドするための、貴重なブドウの調達場所となります。
そして涼しければ涼しいほど、生理的成熟の上昇に比べて糖度の上がるスピードが緩やかになります。つまり、「ちゃんと青臭さはなくなる程度に熟しているけど、糖度もそんなに上がってないし酸味もしっかり残ってる」というスパークリングワインにとってのベストな状態に近づきます。この「ベスト」は、長期熟成ができる、という意味において、です。
おおざっぱに分けると、
涼しい産地 ⇨ 長期熟成
暖かい産地 ⇨ 早くから楽しめる(ピークも早い)

ということが言えます。

最後にAgeing on the leesの期間。

シャンパンという発泡性ワインは、ボトルにワインを詰めた後、リケール・ド・ティラージュ(mixture of sugar, yeast, nutrients, clarifying agent)を入れて再度ボトル内でアルコール醗酵を発生させ、その時に生じる二酸化炭素を閉じ込めておくことで炭酸をつくる飲み物です。この醗酵のことを「瓶内二次醗酵」と呼びますが、この醗酵が終わった後、役目を果たした酵母は自らの酵素の力によって分解されます(これを「酵母の自己消化(autolysis)」と呼ぶ)。この分解プロセスによってビスケットやパン、ブリオッシュなどといった特別なアロマが生まれます。シャンパンメーカーはこのアロマが欲しいので、二次醗酵が終わった後もシャンパンをそのままセラーで寝かせておくのです。役目を果たした酵母の残骸は「澱(オリ)」として表出しますので、この熟成のことを「ageing on the lees(澱)」と呼びます。この期間の長さは、短くても12ヶ月、長いもので3年や5年にもなります

期間の長さは、メーカーが「どういうシャンパンにしたいか」を表しています。

前提として、フルーティーなアロマと自己消化によるアロマとの相性はあまりよくありません。フルーツ感が強いスパークリング(例えばプロセッコ)を澱とともに長期熟成したら、二つの個性がぶつかりあってとてもエレガントな味わいとは言い難い結果になるでしょう。
期間が短いシャンパンは「フルーツ感を大事に」造られています。今回は割愛しますが、on the leesの期間が短いシャンパンにとって、最後のドサージュ(補糖)によって生まれるバニラやトーストの香り(メイラード反応による)も重要な要素となります。フルーツ感、バニラの香り、そしてほのかに感じられるブリオッシュの香り、このバランスが早い段階から実現できるわけです。
対して期間が長いシャンパンは、「on the leesによる複雑さ」を重視して造られています。このスタイルのシャンパンには、ニュートラルな味わいでピュア、エレガントなベースワインが最適です。そうなると、必然的に長期熟成が可能になるような選択をメーカーはしていくことになります。

一言でまとめると、ageing on the leesの長さが長いほど、長期熟成を前提にしたワインである可能性が高く、寝かせるほど美味しくなる可能性が高い、ということになります。

このageing on the leesの期間は、たいていのシャンパンなら裏ラベルに記載されています。

もちろん「寝かせるほど美味しい」といっても限度があります。20年持つ!と先ほど書いたサロンは超・長期熟成向けの特別なシャンパーニュで、たいていのシャンパンは10年も置いておいたらピークを迎えています。だいたいは、購入して数年以内に飲むのがベストかなと思います。

ちなみに、早飲みシャンパンを選ぶ一番簡単な方法は「そのメゾンの一番安いスタンダードワイン」を選ぶことです。今やスマホで調べたら一発です。モエ・エ・シャンドンならNon Vintage、ヴーヴ・クリコならイエローラベルですね。(この記事の意味)


最後に一つだけ例外を。ボランジェが専売特許的に造っている「Bollinger R.D.」は、8年もの長い間、酵母とともに熟成をさせる特殊なシャンパンです。先の公式に従えば、これは「長期熟成可能なシャンパン」になるはずですが、実はあまりに長い間酵母とともに触れていると、酸素との接触にとても脆いワインとなってしまいます。そのため、ひとたびDisgorgement(澱を取り除く作業)をしてしまうと、酸化耐性が一気に落ちてしまい、急激に熟成が進みます。まるで止まっていた時計の針が動きだすかのように。なのでその高いお値段とは裏腹に、「買ったらできるだけ早く飲め」なシャンパンなのです。恐ろしいですねー。


まとめると、

●シャンパンには2種類ある・・・早くから楽しめるリッチでフルーティーなタイプと複雑さがウリの長期熟成タイプ

●品種、産地、瓶内二次醗酵後の熟成期間から、そのどちらかを(ある程度)推測することができる

●ワインリストに「R.D.」があったらお金持ちの友達に「これは早く開けないとバチが当たるんですー!」とおねだりすること


・・・・そして一番は、ショップのソムリエさんに聞くことですね!(この記事の意味)

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