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ノンアルコールワインの製法について Part2

こんにちは、けけちゃんです。

ノンアルの作り方、パート2です。
前回のパート1では「逆浸透膜」についてこれでもか!というほど書いてしまい、一部の方にはドン引きされたのではないかと内心冷や冷やしております。

今回はライトに、さくさくっと説明させていただきますので
気軽に読み進めていただけたら嬉しいです。


ノンアル製法その2 減圧蒸留 Vacuum Distillation


・・・だれだ、ライトなんて言ったやつは。

いきなり小難しい単語を出してすみません。
アルコールを除く技術の2つ目が、この「減圧蒸留」という方法です。

蒸留器、というものを皆さんご存知でしょうか。

水とアルコールのように沸点が違う2種類の液体が混ざったものを、低いほうの沸点まで温めてあげると、沸点の低いほうの液体だけ気体になって取り除くことができる、という装置のことです。水の沸点は100度、アルコールはだいたい78度くらいです。

実際にはある程度揮発した水も混ざるので、アルコールだけが取り除かれるということは不可能です。だから分離するというより「精製する」に近いですね。度数の高いウォッカのような蒸留酒だと、何度も何度も蒸留を繰り返して、少しずつアルコール度数を高めていきます。

液体の沸点は、気圧によって変化します。

山登りする人はご存知だと思いますが、高い山の上でお湯を沸かすと100度よりも低い温度で水は沸騰します。
富士山山頂だと約88度、だそうです。

つまり気圧が下がると、沸点も下がるんですね。

ということは、めちゃくちゃ気圧を下げて、もう真空かよってくらいまで下げてあげると、あっという間に液体は沸騰するんです。温度は低いままで。

この原理を利用したのが減圧蒸留法(VD)です。

ワインを、気圧をものすごい下げた状態で蒸留にかけることで、ワインを煮てしまうことなく、アルコールを取り除けるわけです。この時の温度はだいたい30度くらいです。

減圧蒸留法のメリットは、温度が低いままでアルコールを分離することができるので、ワインを煮て成分をめちゃくちゃにすることがない、ということです。

ただ、減圧にすることで、アルコール以外の揮発性の高い成分も一緒に取り除かれてしまいます。特にアロマ成分が飛びやすい(そもそも、アロマというのはワインの表面から揮発して鼻に飛び込んでくるものなので、常温でも揮発しているのです)。一部は、アルコールと一緒に回収されたあと、分離され、再びアルコールを失ったワインへと戻されます。しかし、大部分は失われてしまいます。


ノンアル製法3 スピニング・コーン・カラム法 Spinning Cone Column


ノンアルコールワインを造る製法の中で、おそらく最も品質を保つことができるのがこのスピニング・コーン・カラム(SCC)法だろうと言われています。

一言で言えば、先の減圧蒸留に「遠心力」を追加した装置、です。

一言にすると簡単そうですが、装置の中はいたって複雑です。
詳しいことは、Flavourtech社のサイトが詳しいので(英語ですが)、そちらに委ねます。

こちらのサイトを使って、概略だけ説明しますね。

ページを下にスクロールすると、「HOW IT WORKS」というパートがあります。Figure1から3まで、3枚の図があります。

Figure1が装置の全体像です。真ん中のシャフトと、それにくっついた「上向きのシャンプーハット」みたいな羽がくっついてて、それが超高速で回転します。

Figure2に、シャンプーハットの形がありますね。外側が高くなっています。これがシャフトに何枚も何枚もくっついてるわけです。

Figure3を見ると、シャフトだけでなく、装置の壁面にもシャンプーハットらしきものがくっついてるのがわかります。これは中のほうが下に向かっています。つまり、シャフト側のシャンプーハットと互い違いになっているということです。壁面側の羽は動きません。

装置の中は「減圧」「不活性ガス注入」「低温」状態ですので、ワインが酸素や熱によって変質することはありません。ここに、上からワインを注ぎ入れる。

そしてシャフトが超高速で回転するとどうなるか。

遠心力によってワインは、シャンプーハットの上で「フィルム状」になる。すると、表面積が格段にアップするため、アルコールが揮発しやすくなります。

揮発したアルコール(とアロマ成分)はちょっとずつ上の階層へと向かいます。その過程で、上の階層でもフィルムの表面と触れるため、ここで逆流(Reflux)が起こります。

ここで言う逆流は、蒸留の反対の現象のことです。いったん気化したものが、再び液体に戻る。
蒸留と逆流を繰り返す中で、精製度が高まるんです。
これ、冒頭にお話ししたウォッカと同じなんです。

こうして、アルコールとアロマ成分は装置の上から、アルコールを失ったワインは装置の下から排出されます。

最後にアロマ成分だけ再度分離し、ワインに戻して完成です。

はい、以上がSCC法の原理でした。


SCC法は、製法2の「減圧蒸留」のデメリットである「アロマの損失」を極力減らした形と言えます。それは遠心力によって精製度が高まり、減圧蒸留よりも低温で行うことができるためです。

最大のデメリットは、設備が高額だということです。


ここまで3つの製法を説明しました。まとめると、

①逆浸透膜法・・・半透膜を使ってアルコールを分離
②減圧蒸留法・・・気圧を下げて蒸留することでアルコールを分離
③SCC法・・・②よりも低温だが遠心力を加えてアルコールを分離

このほかにもEvaporation method、Pervaporation methodなどもありますが、ここでは割愛します。


いかがでしょうか。
ずいぶんと複雑な技術ばかりだなー、と思いますよね。

アルコールを減らす、取り除くというのは
実に高度な技術と設備が必要な作業だということです。
ノンアルコールワインに特化するか、
資本力のある大手ワインメーカーでなければ難しいのが現状です。

それにSCC法でも完璧ではありません。
やはり全てのアロマ成分を保持することは難しいですし、
なによりアルコールを除くことでワインの酒質、ボディが損なわれるためです。
それをどう補い、もとのワインの個性をとどめるか
これが実現できない限り、まだノンアルワインが
通常のワインと同等にワインリストに載ることはかなわないでしょう。

しかし、ノンアル需要は高まるばかりです。
いずれは、個性的な中小ワインメーカーたちが
「うちのワインも脱アルしてくれ」と脱アル業者に委託する・・・

なんていう姿が見られるかもしれません。

次回はノンアルの今と未来について書きたいと思います。
ちょっと本業のワインショップが忙しくていつになるかわかりませんが、
また見かけたらご一読ください。

それではまた。



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