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シラーの素顔 「スパイスか、フルーツか」

家にいる時間が長くなり、ワインの消費と無精髭ばかり伸びてます。
みなさんこんにちは、けけちゃんです。

部屋から外を眺めてるうちに、すっかり初夏の空気になってしまいました。
夕方になると、からっとした風が窓から吹き込んできて、それはなんとも気持ちが良いものです。
そうなると、思わずワインの栓を開けたくなる。
泡ならフルーティーなプロセッコ、白なら厚みのあるピノ・グリか。
では赤なら?

セラーと相談してみると、面白いものがありました。

今日の主役は、シラー。それもニュージーランド産のシラーです。

Grand Amateur "Gentleman" 2017 Hawke's Bay by Sam Harrop
(希望小売5100円 輸入元:モトックス)


シラーというと、フランスの北ローヌ、そしてオーストラリアのバロッサヴァレーなどが有名ですね。

一般的には、黒コショウの香り、黒オリーブ、ブラックチェリー、プラム、鉄といった香りで形容される・・・と言われていますが、いざテイスティングしてみると、そのスタイルは実に多種多様です

実はシラーは、産地と気候によってずいぶんと表情を変える品種です。

ある一面を見ただけではその素顔を捉えきれない、意外と奥が深いやつ。

だから、テイスティングの勉強会などではよく、「全然シラーっぽくない!」「もっと黒コショウの香りがすると思ったのに」といった声が聞こえます。


ということで、今日のテーマは
「産地によって、気候によって、シラーがどう表情を変えるのか」です。


シラーは大きく分けると3タイプある、とぼくは考えています。

1つは北ローヌに代表される「冷涼・スパイス」タイプ。
「え?ローヌが冷涼?」と思ってしまいますが、ローヌといっても南のシャトーヌフ・デュ・パプやジゴンダスとは違い、エルミタージュからコート・ロティにかけてのローヌ渓谷沿いのエリアは、谷間を抜ける北風の影響で昼夜の寒暖差が激しく、しっかりと酸を蓄えます。結果、できるワインはスパイシーで、土っぽい印象の味わいになります。赤や黒のフレッシュベリーのアロマに、黒コショウ、オリーブ、鉄や血のようなと形容される香りが特徴的です。
「シラー=フルボディ」というイメージは、ここでは裏切られます。アルコール度数はせいぜい13度程度で、先入観抜きに飲めば、北ローヌのシラーはミディアム・ボディ寄りです。10年20年の熟成にも耐えられるプレミアムクラスのコート・ロティやエルミタージュなども、次に挙げるバロッサなどのシラーと比べるとかなり上品な味わいで、「おやっ?」と思われることもあるかもしれませんね。


2つめがバロッサ・ヴァレーに代表される「温暖・フルーツ」タイプ。
肉厚なプラム、ブラックチェリーからブルーベリー、はてはプルーンのような凝縮した果実のアロマまで飛び出すほど、このタイプのシラー(シラーズ)は濃厚でリッチです。アルコール度数も14度や15度を平気で超えてきます。豊富なタンニンは滑らかで、口の中いっぱいにワインの味わいが満ち溢れます。たぶん、ほとんどの人がシラーに抱くイメージってこれなんじゃないかな、って思います。それくらい、オーストラリアン・シラーズは人気です。
実はこのスタイルのシラーズには、黒コショウのアロマはそれほど前面に出てきません。経験則ですが、冷涼な産地ほどこのアロマ(ロタンドン)が強く出るようで、例えば同じオーストラリアでもより冷涼なビクトリア州のモーニングトン・ペニンシュラなどでは、シャープな酸味を持ち、黒コショウのピリッとしたアロマが際立つシラーズが造られています。


日本やアメリカ、そして中国ではこのフルボディで濃厚なシラーズが大変人気を博してきました。ですが、近年ではこの濃厚、高いアルコール度数を持ったシラーズが「重たい・・・」「料理に合わない・・・」と敬遠されつつあり、次にあげるよりフレッシュなスタイルが注目を浴びてきています


それが3つめの「冷涼・フルーツ」タイプで、今日の主役であるニュージーランド・シラーがその代表例です。
ニュージーランドといえばソーヴィニヨン・ブランの一大産地で、シラーはというとせいぜい500haほどと超マイナーな品種です(ソーヴィニヨン・ブランはなんと2万ha以上)。しかもそのほとんどが、北島のホークスベイ(Hawke's Bay)という産地で育てられています。
ぼくが考えるニュージーランド・シラーの特徴は、果実風味の強さ、ミディアムボディ、そして高い酸です。これはまさに、タイプ1とタイプ2の中間。タイプ1よりもフルーツの風味が強く、タイプ2よりも軽く上品な味わいです。

このスタイルは、ニュージーランドのユニークな気候に由来しています。
空気が澄んでいて紫外線の多いニュージーランドでは、冷涼な気候でありながらブドウの果皮の成熟が進み、フレッシュな酸を保ちながらも熟した果実風味を得ることができるからです。

今日のワイン「Gentleman 2017」は、マスター・オブ・ワインのサム・ハロップ氏が手がけています。ラズベリーやチェリーのようなフレッシュな果実風味はよく熟していて、タンニンは滑らか、それでいて飲みごたえはばっちり。飲み込んだ後も長くフルーツの味わいが残り、すみれの花やスパイスなどの香りが、複雑さをプラスしています。アルコール度数は12%と重たくなく、今の季節からでも楽しめる赤ワインです。なかなか外出できない昨今ですが、こういうちょっといいワインを開けて気分を盛り上げるのもいいですね。


シラーは価格帯の幅も広く、産地も多いためスタイルの幅はとても広いです。フルーティーさが魅力的なリーズナブルなワインから、樹齢100年を超えるような古木からつくられるプレミアムものまで、実に様々です。

ぜひその表情の変化を楽しんでみてください。
それではまた!

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