見出し画像

あなたは何と答えますか 「ワインって難しいですよね?」


ワインのプロなら一度は聞いたことがあるであろう、この質問。

「ワインって難しいですよね?」


ワイン本、ワインブログの答え

ワインにまつわる本やブログには、この質問から入るものがたくさんあります。

そして決まってその答えは

「ワインは難しくないんです、だってたかが飲み物なんですから。一緒に楽しみましょう!」

この答えには大いに賛同します、本当にそう。ワインは楽しむものですよね。

でもそのあとに続くのは、決まって

「これだけ覚えておいたら大丈夫!」というブドウ品種の解説や

「まずはボルドーとブルゴーニュを飲んでみましょう」というお誘い文句。


そしてこれを見るたびにいつも思うんです。

「いや、それが難しいんです」ってw

結局、知識必要、って暗に言ってませんか?と。


多分、ワインのプロは

当然ながらこれまでワインを学んできた人たちばかりですから、

ワインの世界に入る=ワインの知識を身につける

という考えが染み付いているんじゃないかな、と思うんです。

(あるいは書籍などでお金をとる以上、なにかしら知的で有益なものを提供しなければいけない、という側面もあります。わざわざワイン本にお金出す人は知識を欲しているかもしれませんので。)


ワインのプロ同士がワインを飲んでるときの会話は、実はとても恐ろしいものです。

「ませらしおん・かるぼにっく」とか「びんないにじはっこう」とか

プロでない人からしたら、訳のわからない宇宙語のオンパレード。

もしぼくがワインを全く飲んだことがないとして、この会話を聞いたら

間違いなく思います、「ワインって難しそう・・・」と。

「知識を身につけないと、この会話に混じれないんだろうか」と。


手招きする役目であるぼくたちプロの言動が、ワインの世界を入りにくくしている原因の一つになりえるのです。


知識が少ない イコール 初心者 ??

プロにとっての“基本的”知識を身につけていない人=ワイン初心者
という先入観、ありませんか?

どういうことかと言うと、例えば

私はワインを20年飲んできたぞ、という方がいらっしゃったとします。

その方が「シャトー・カロン・セギュール」というワインを知らなかったとしたら、どう思われますか?

「えー、本当にワイン好きなのかな」「10年も飲んでて知らないなんて」と、思ったりしませんか?

ぼくは別にヨーロッパ至上主義ではないですが、少なくとも日本よりずっとワイン文化と歴史の深いヨーロッパにおいて、カロン・セギュールを知らない人のほうが、知ってる人より圧倒的に多いと思います。

現に、ぼくが昔一緒に仕事をしたワインのプロ(フランス在住のスペイン人)で、カロン・セギュールを知らない方がいらっしゃいました。しかしその方はプロ中のプロで、栽培から醸造、流通まで非常に長けていました。その人を「知識がない人だな」などと思ったことは一度もありません。ただ、分野が違うんだな、と感じただけです。


また、ヨーロッパに限らず、というか日本以外の人はみんな、どんなに基本的な知識であろうと自分の知らないことは「知らない」とはっきり言います

そして言われたほうも、それをもってその人を「初心者」だと決めつけたりはしません


つまり、知識と経験値は比例しないのです。

ワインを飲む、楽しむという体験は、経験値なのです。

知識は、学びに行かなくても、経験を積んでいるうちに自然と頭に記憶されるものです。

そして、その知識量をもって優劣を下すのは、とてもナンセンスなのです。


ワインは難しいですか?に対するぼくの答え

結論です。ぼくの答えは決まっています。


ぼくの答えは

「ワインは難しい!!しかも、めちゃくちゃ難しい!!」 です。


おいおい!と思うかもしれませんが、だって、紛れもない事実です。知識という点においては。


そして、最も大事なことは、

この難解なワインの世界を全て把握している人はこの世に1人もいないということ。

それがワイン界の頂点と言われる、マスター・オブ・ワインであろうと。

ワインの話をする楽しみは、さながら誰も答えの知らない人生論や哲学の話をすることに似ています。答えがないのだから、誰が何を言おうと、それは新しい何かを発見するためのヒントでしかない。


ワインの味と香りの科学は、未だそのほとんどが解明されていません。
ブドウの出来とワインの品質を決める要素には、気候、地形、土壌、品種(クローン)、酵母、仕立て方、剪定、収穫、収穫後のオペレーション、醸造、浸漬、味わいの調整、熟成、濾過・・・ええい一体どんだけあんねん!というくらい色々あって、それらが複雑に関わりあっています。
そして世界中にいったいどれだけのワイナリーがいることやら。そして彼らがみな毎年新しいワインを造り、毎年新しいファッションが生まれ、毎年天候が変わっていく・・・この全てを知ることは、どう考えたって無理です。


だから、ぼくはこれからワインを飲む人にこう言いたい。

たしかにワインは難しい、でも怖がる必要はまったくないです!

なぜなら

ワイン好きという生き物たちは、誰も答えを知らないワインの世界で

好き勝手なことを言って楽しんでいるだけなのだから、と。

だからあなたにも、メジャーとかマイナーとか、主流だとかセオリーだとか関係なく、好きなものを飲んで、好き勝手言ってほしい、と。


そしてぼくらプロは

できるだけ多くの人たちが好きなワインにたどり着き

好き勝手言える環境を整えるべきなんだと。

そのために、「プロが」知識を身につけるべきだと思うのです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?