見出し画像

[無料]雲取山の日帰りはおすすめしません

東京都の西の端、埼玉県と山梨県の県境に雲取山という山あり。深田久弥の日本百名山にも登場する名峰で、標高は2017mです。

画像14

アメーバのように東西南北へ伸びた尾根には様々なコースが乗っています。最も登る人が多いのは奥多摩湖のほとりにある鴨沢バス停(標高540m)からの往復コース、鴨沢ピストン(往復コースの事をピストンと言います)。

往復の距離は約24㎞、標高差は1477m、コースの累計標高は登り1700m、下りも同じ1700mです。

写真 2021-09-17 14 35 07

山と高原地図のコースタイムは約9時間。休憩などを加えると一般的には10時間程度の行動時間を要します。

なぜか最近、日帰りで登る人が多いらしい

ガイドブックなどで、雲取山は一泊の山として紹介されています。

鴨沢ルートの一般的な行動時間は10時間程度です(もっと掛かる人もいます)。9時スタートなら下山は19時過ぎになります。夏至の前後でなければ真っ暗になってしまいますし、12時間掛かる人は21時下山です。

この開始時刻と行動時間で日帰りは無謀です。

9時スタートなら登りに4~6時間ほどかけて15時くらいまでに山小屋に着いて一泊し、翌日下山するのが一般的な登り方です。

画像2

ところが、なぜか最近は雲取山を日帰りで登る人が増えているようです。登山初心者でも日帰りが出来ると誤解させてしまうような内容のWeb記事も見つかります。

それって無理はないんでしょうか?

公共交通機関で無理なく来れる到着時刻は?

2021/09/17現在の時刻表を見ると、公共交通機関を使って鴨沢バス停に着くのは下記のような時刻となります。

平日
8:42 JR青梅線奥多摩駅着
8:50 留浦行きバス発
9:24 留浦着
鴨沢まで徒歩8分
9:32 鴨沢着

土日休日
8:21 ホリデー快速おくたま1号奥多摩駅着
8:35 丹波行バス発
9:09 鴨沢着

7時に奥多摩駅発丹波行または鴨沢西行きのバスがありますが、それに乗るには東京駅を4:39に出る電車に乗らなくてはいけません。住んでる場所によっては厳しい時間です(私は無理です)。東京近郊の方が鴨沢に無理なく着けるのは、平日で9時半、土日休日で9時10分くらいでしょう。

前の晩に奥多摩駅に入ってステーションビバークする手段もありますが、昨今あまり大っぴらにやれることではありませんし、そんな事をするなら山で一泊した方がいい。

一般的には、上記の様に9時から9時半くらいの到着時刻になると思います。登山としては既に遅めの時刻です。もちろん、これより遅い出発時刻では遅すぎます。昼過ぎから登り始めるなんて論外。やめてください。

画像3

帰りのバスは?

(2021/09/17現在)

鴨沢から奥多摩駅行きのバスは、

平日
13:52、15:58、16:28、18:40、(留浦始発19:00、20:00)

土日休日
12:20、14:18、14:34、16:03、16:33、18:40、(留浦始発19:24)

土日休日の方が本数が多くありますが、最終が18:40なのは同じです。これに乗れない場合は留浦バス停まで歩いて、土日休日なら19:24、平日なら20:00が最終です。

※なお、最新のバス時刻表はコチラを確認してください。

時刻表のPDFはDropboxなどに保存して、オフラインでも見られるようにローカルにダウンロードしておくことをお勧めします。

画像4

16時半には鴨沢に帰ってきたいとしたら?

鴨沢を通るバスが18:40まであると言っても、18:40では夏でも暗く、冬なら17時で真っ暗です。安全登山を考えたら、遅くても16時半の便に乗りたいところ(冬なら16時前のに乗りたい)。理想は15時下山です。

行動時間を10時間と考えると、逆算して出発時間は6時半。

…9時や9時半に鴨沢を出たら到底間に合いませんね。どうしたって日が暮れてしまいます。

公共交通機関を使って鴨沢に来た場合、日が暮れる前に下山するには、平日なら7時間、土日休日なら7時間半で往復しなくてはいけません。それ以上掛かる人は一泊で計画すべきです。

往復で8時間以上かかるのに、それでも日帰りで行く方はヘッデン下山となり、遭難予備軍です。

ヘッドランプを付けて下山する事をヘッデン下山と言います。視界が狭くなり滑落や道迷いをしやすいため、一般的な登山の行程としては望ましくありません。実際、雲取山の日帰りでは事故が起きていますし亡くなった方もいます。

↑奥多摩と奥秩父に長年登っている山田哲也さんが書いた記事です。読みましょう。

画像5

どうしても日帰りで雲取山に登りたい、でも鴨沢バス停からだと往復8時間以上かかってしまい日が暮れる。そんな人はどうしたらいいのか?

自動車を使うと有利です

日帰りで鴨沢コースから雲取山に登っている人の多くは、実は自動車で移動して小袖乗越駐車場に停めて登山をしているようです。様々な点で公共交通機関を使うより有利になります。

場所
https://goo.gl/maps/HQ6wadbsEMcZ9ozB8

まず、鴨沢バス停の標高540mに対して、小袖乗越駐車場は740m。標高が200m高い。コースタイムでは登り30分、下り20分の合計50分を短縮できます。10時間の行動時間から50分引かれる訳で、かなりの短縮になります。休憩を入れても標準ペースなら9時間程度で歩けそうです。

写真 2021-09-16 9 58 05

↑平日なので空いていますが、休日はとても混みます。路駐などしないようにしましょう。

-----
自動車であれば公共交通機関より早く到着することも可能ですし、下山が多少遅くなっても時間の融通が効きます(それでも日没前には下山完了しましょう)。下山後の着替えなど余分な荷物を車に置いていくことが出来るので、荷物が少し軽くなります。

駐車場に7時に着いて9時間で歩ければ16時には下山できます。小袖乗越駐車場まで車で来れば、スタート時間、行程の短縮、荷物の残置などかなり有利な条件で登山が出来ます。

とは言え、しんどくないですか?

ただ、登山の初心者が1日で9時間の行程を無理なく歩けるかと言えば、難しいでしょう。山を歩き慣れていないと膝や足首など、どこかが痛くなりますし、前半はよくても後半でペースがガタ落ちになってしまうかもしれません。そんな登山、楽しいですか?

画像7

16時に下山できればまだ明るいのですが、季節によってはその後あっと言う間に暗くなってしまいます。余裕がある計画とは言い難い。そして、たっぷり歩いて疲れてから車を運転して帰らなくてはいけません。

やはり、ちょっと綱渡りな感じがします。公共交通機関を使うよりは『少しマシ』という程度です。

一般的には、一泊をお勧めします

登山開始時刻や行程を考えると、やはり雲取山は一泊で登ることをお勧めしたいと思います。

もちろん、無理なく1日で10時間でも12時間でも歩ける人はいます。バスで来て鴨沢ピストンでも7時間を余裕で切る人もいます。特にトレランの人は楽勝で日帰り出来るでしょう。真っ暗な山をヘッデン着けて歩くのが好きな物好きもいます。そういう人は、好きにしたらよい。

身近な山で例えると、高尾山口駅から高尾山の山頂まで50分程度で歩いて、まだまだ余力がある人なら、鴨沢ルートを6時間程度で往復できると思います。ただし山頂に着いた時点バテてはダメです、そこからさらに陣馬山まで同じペースで歩ける余力が必要。歩行ペースとして、高尾山口駅から高尾山の山頂まで50分程度のペースです。その間、休憩は無し。もちろん5kg程度の登山装備を背負ってください。高尾山では空身の人もよくいますが、空身で雲取山には登りませんね?

誰でもそういう登山が出来るわけではありません。むしろ、出来ない人の方が多い。登山初心者や普通の体力しかない人は、日帰りなど目指さず普通に山小屋やテントで一泊してください。

なにより、雲取山を日帰りするなんて、もったいない。

画像8

雲取山周辺には現在3軒の山小屋があります。七ツ石山の南側にある七ツ石小屋、雲取山山頂の南西にある三条の湯、山頂の北側にある雲取山荘。小屋泊も出来るし、テント泊も可能です。

雲取山は登山口へのアクセスがよく標高も適度。小屋もテント場も快適で、東京近郊のビギナー登山者がテント泊するのにも向いています※。

※私が登山で初めてテント泊をしたのは大菩薩嶺でした。福ちゃん荘のテント場は広くて歩く距離も短く、雲取山よりテント泊が容易です。また、氷川キャンプ場や百軒茶屋キャンプ場など、整備されたキャンプ場でテント泊を練習してから登山で実践するのもよいと思います。

画像9

宿泊装備や食材をザックに詰めて登り、テントを張り、食事を作って一晩を山で過ごす。これが目的で何度も雲取山に登ってきました。私にとって雲取山は、山で一晩過ごしたいときに行く山です。

テント泊装備が重くて担げないのなら、山小屋泊もよいでしょう。悪天候でも快適に過ごすことが出来ます。

画像15
画像10

山で見る星空は格別にキレイで、朝の空気は気持ちよく、山間にたなびく雲は幻想的です。その日のうちに帰ってしまうなんて、本当にもったいない!と思います。

画像11

日帰りしたことないと説得力が弱いので、やってみた

以上の様に雲取山を日帰りで登るのは結構キツイし、もったいない。是非、余裕を持った計画で一泊してください。私は20回程度登っていますが、日帰りは1回もしたことがありません、でした。でした?

一度も日帰りで歩いたことがないのに日帰りじゃない方がいいですよ、というのも説得力がないと思いましたので、これを書くため実際に歩いてきました。

コースは鴨沢ピストン。平日だったので留浦までしかバスが行かず、トイレに寄ったりしてから鴨沢まで8分程度歩きました。

鴨沢を出発したのは9:37。道中のボヤキや詳細は動画を見ていただくとして、結果的には15:34に鴨沢に戻ってくることが出来まして、行動時間は5時間57分でした。ちょうど6時間くらいですね。

登山歴で言えば現在16年になりますし、ヨーロッパのモンブラン(標高4810.9m)という山に登ったことがある程度には登山をしています。登山者として大したレベルではないと自覚していますが(上を見ると果てしなく強い人もいますから…)、少しは体力があるようです。

帰りのバスは16:28に乗ろうと思っていましたが、1本早い15:58に乗ることが出来ました。トレランをやってる友人達はもっと短時間で往復しますが、登山としてはまぁまぁ速いペースで歩けたかなと思います。ただし、これは単独だから出せたスピードで、パーティー登山ではペース配分や休憩の配慮などが必要なのでもっと時間が掛かったと思います。

装備の重さは、2.3リットルの水を含めて6.2kg。水と食べ物を抜いたら3.5kgくらい。ザック、雨具、ファーストエイドキット、防寒着、モバイルバッテリー、ケーブル、ヘッドランプ、着替えのシャツ、小型のカメラなど諸々でこの重さになります。普段は補助ロープやカラビナなど、もっといろいろ持つのですが、今回は速く歩くために装備を軽くしました。これくらい軽いといつもより速く歩けます。

水は家から持ってきた2.3リットルで足りてしまいました。鴨沢ルートは途中に2か所の水場があるので※、水の量を減らせばもっと荷物を軽く出来ましたね。

水や着替えなどもうちょい荷物を軽くして、小袖乗越駐車場往復なら往復5時間程度で歩ける気もします。いや、楽しくないからもうやらないですけど…。

※…七ツ石山の上段巻き道(下段でも汲もうと思えば汲める)と七ツ石小屋など七ツ石山周辺と、鴨沢から見て堂所の少し手前の茶煮湯の水場。どちらも年中美味しい水が湧いていますが、茶煮湯の水場は厳冬期だと凍ることがあります。

画像12

中には一泊でも雲取山は厳しい人もいます…

動画中で私は「バスで来て無理なく日帰りするなら、鴨沢から堂所まで1時間半で登れなくてはいけない」と言っています。休憩を抜いたコースタイムは2時間15分なので、一般的には2時間半くらい掛かる区間です。

堂所まで1時間半で歩けない人はバスからの日帰り雲取山はやめておきましょう。1時間半で歩こうとしてヘロヘロに疲れてしまう人もやめておきましょう。

画像17

鴨沢から堂所(広場になっていて堂所のパネルがある場所)までの所要時間の約4倍が山頂往復全行程の行動時間になります。

体力を残して1時間半で歩ければ全行程を6時間で歩けます。堂所まで2時間半掛かるのだとしたら、少なくとも10時間掛かります。後半でバテたりすればもっと掛かります。

画像18

堂所まで3時間以上掛かる場合は、日帰りはもちろん一泊でもキツイ行程になります。登山の力は人それぞれなので早い遅いに優劣はありません。が、そのくらいのペースの方はまず、雲取山は目指さずに七ツ石山を目指すと良いでしょう。

ゆっくり七ツ石山に登り、七ツ石小屋で小屋泊かテント泊をして翌日もゆっくり過ごして鴨沢に降りる。そういう登山を何度か経験して、山に慣れて体力が付いてから雲取山を目指したらいいと思います。何事もステップアップです。

七ツ石山も良い山ですよ。眺望が良く、晴れていると雲取山が見えます。

画像16

なんなら、2泊で登ったっていいんですよ。1日目に七ツ石小屋まで行って2日目はゆっくり雲取山を目指して、山頂でもゆっくり過ごして七ツ石小屋に戻って連泊したり、雲取山荘や三条の湯に抜けて一泊して、翌日それぞれ三峰やお祭に降りてもいい。速い登山を出来るのがエライわけではありません。むしろ、雲取山で2泊なんて贅沢してみたい…。

登山者の域に達してない人も多いようで…

この記事を読んだり、雲取山までのコースタイムや地形を把握している登山者は実はかなりしっかりした登山者です。

実際には、コースタイムも知らない、どんな地形を歩くのかも知らない、ヘッドランプも雨具も持っていない、モバイルバッテリーも無いからスマホは電池が切れている、なんて登山者もザラにいるそうです。そういう人にはこの記事は届かない気もしますが、それでも書かないよりはマシと思って書きました。

登山は情報が命です。無知でやっていい遊びではありません。

安全登山のために、情報を摂取してください。

まとめ

・基本的には、雲取山は一泊で登る山です。特に登山初心者や速く歩けない方は日帰りするなんて考えない方がよいでしょう。

・登山の上級者や、鴨沢往復5時間とかで歩ける人は好きに楽しんだらいいと思います。この記事の趣旨は『何も知らない人が雲取山を日帰りの山と勘違いするのを防ぎたい』です。

・公共交通機関を使う場合、鴨沢往復7時間以下で歩けないと厳しいです。一般的なコースタイムの7割です。普通の体力の人には無理です。7時間掛かる人はタイトなスケジュールになります。車利用などを検討した方がよいでしょう。

・目安としては、鴨沢から堂所まで1時間半以上掛かる方は9時半に鴨沢を出たら明るいうちに下山できません。七ツ石山に登って帰りましょう。そして次回は一泊で計画してください(または、堂所まで余裕を残して1時間半で歩けるようにトレーニングしましょう)。

・小袖乗越駐車場に車を停める場合は、早い時間に来ること、長い距離の登山道を1日で歩き通す体力が必須です。駐車場がいっぱいになる事もあるので連休などは避けた方が無難。鴨沢バス停前の駐車場は台数が限られています。長時間の駐車は避けましょう。

・雲取山を日帰りで帰るのはもったいないので、普通の人は一泊で計画してください。普通じゃない人は好きにしてください。ただし遭難はしないでください。山岳遭難が多いと登山が社会の敵になってしまいます。

・私が実際にやってみたところ6時間で鴨沢往復出来ましたが、まったくお勧めしません。しんどいだけで楽しくありません(個人の感想です)。

・雲取山は一泊以上で登るのが基本です。

・登山を安全に続けていくために、勉強をしましょう。無知なまま登っていると、自分か仲間が死にます。もしくは、他人を殺してしまいます。

写真 2021-09-16 13 03 05


わぁい、サポート、あかりサポートだい好きー。